表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末街の迷宮  作者: 高橋五鹿
終章 始まりの街のオクテット

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/154

第142話 帝都の城

 シュウダを見つけ、ウィスプの一体を回収し、セルベールを復活させた。

 次なる目的は――

 六合器コズミック・クラフトの製作者、九つ首トウテツ。


「確かにその名前は最近聞かんな。もう結構な歳のはずだぞ」

『トウテツとカダは獄中死って話だからな。まだ生きているなら帝都の城だ』

「九つ首の疑いもある皇帝ネメアの居城。なかなか厄介そうではないか」


 帝都や帝都周辺の地域で聞き込みを続ける俺たちは、様々な揉め事に巻き込まれた。

 本当に治安が悪いなこの国!

 それと反比例するように、シュウダの名声は上がっていく。

 セルベールはこそこそと暗躍することが多く、その名を知る者は少ない。

 ネメア帝国史に刻まれる英雄シュウダの伝説は、いつの間にか始まっていたのだった。


 俺たちが皇城に呼び出されるのも、自然な流れといえばそうだったのかもしれない。


『いや罠だろ』

「オロチ殿は疑り深いねえ」

『俺の知る皇帝は、市井で活躍した程度の奴に謁見を許したりせんのだが』

「オレも少しおかしいと思うぞ」

「オロチ殿が語る常識は歴史書の話、シュウダ殿は世間知らずの田舎者ではないか」

「こいつ殴っていいか」

『こいつはこういう病気なんだ。あきらめろ』


 まあ、罠でもいいんだけどな。

 皇城に入れるまたとないチャンスだ。それは皆分かった上で言っている。

 ウィスプも無事入れるといいんだが。

 城内を探れるのは実質ウィスプだけだ。

 帝都にも待機していた一体を回収し、ウィスプは二体になっていた。

 同時には一体しか操れないので、あまり意味は無かったが。


 そして、謁見の日はやってきた。

 皇城は西洋風だの東洋風だのいう前に、歴史上の建物感があまり無い。

 ネメア人は元々近現代の知識を持って誕生した種族だ。

 皇帝の一族ともなれば、比較的その知識を多く伝え保持しているのだろう。

 だからこんな現代の大型建築物みたいなデザインなのか。

 ショッピングモールが魔王の城呼ばわりされるわけである。


 正門をくぐる際に、ウィスプの侵入を阻害していた魔術結界も開かれたことを知覚した。

 一体は待機、もう一体は俺たちと共に城の中へ。


『んじゃ、皇帝のほうは任せるわ。俺は家探ししてくる』


 俺の声は衛兵には聞こえていないため、シュウダもセルベールも声を出して返事をするようなことはない。

 これがハイドラとかだと、うっかり返事しちゃいそうだよな。


 ウィスプに意識を集中する。

 俺の魂はやはり天叢雲剣から切り離すことは出来ないようだが、ウィスプ側に意識の比重を傾けることで、この時代に来たばかりの頃と遜色ないレベルの操作が可能になった。

 主な弱点はふたつ。

 ひとつは数キロ程度しか剣から離れられないこと。

 もうひとつは剣に宿る本体の意識が希薄となり、ほとんど休眠状態になることだ。


 皇帝ネメアも確認しておきたくはあるが、城内を探れる時間は少ない。

 謁見に向かうふたりを置いて、その場を飛び去った。


 地下牢はすぐに見つかった。

 そして、目的の人物もすぐに見つかった。

 何故ならその男は目の前を飛ぶウィスプの存在に気付き、牢の中から俺に視線を向けてきたからだ。


 それは、筋骨隆々の老人だった。

 白髪交じりの灰色の髪は逆立つように伸び、針金のような硬さを思わせる。


『どっちだ……? いや……』


 カダは道士、トウテツは鍛冶屋だ。

 俺はイメージで尋ねる。


『あんたが《六合鎚》トウテツか?』

「いかにも(それがし)がトウテツである。おぬしは何者か」

『俺はオロチ』

「悪神を名乗るか。だが確かにそうでもなければ、そのような芸当も出来まいよ」


 悪神とか言われるのは好きではないが、この時代ではそのほうが話が早くて助かる。


『六合器について聞きたい。何故あんなものを作った。あるいはどうやって作った』

「悪神でもこの世の行く末が気になるのか? いや、オロチは神々とは敵対していても、民衆の味方であるという説もあったな」


 ……黙ってトウテツの言葉を待つ。


「ある日、某は『世界の果て』に興味を持った」

『!』

「某は鍛冶の道で財を成しておったからな。私財を投じて大型船を用意し、世界の果てを観測する旅に出たのだ」


 そしてトウテツは世界の果て、封鎖世界の境界線に到達する。

 だがそのときはまだ、外の海も穏やかな状態だったようだ。

 トウテツは外の世界のことを、『六合』と呼んだ。


「六合とは東西南北天地上下の六方向。この大地も空も超えた、全ての空間を指す言葉である」

『俺たちの言葉では、それを宇宙と呼ぶ』

「なるほど……宇宙か。カダもそのような言葉を使っておったな」


 カダとこいつは面識があるのか。


「六合世界とネメア帝国は、時間と空間の壁で分かたれておった。そしてその壁は両者の摩擦によって生じる、凄まじい力を受け流す役割を負っていたのだ」


 見ただけでそんなことが分かるのか。

 こいつもやはり、類稀なる魔法の才能を有しているのだろう。

 そうでなければ、今の俺が見えるわけもないからな。


「某は考えた。この力を用いて、新たなる武具を作れはしないかと」

『……………………』


 もう、続きを聞かずとも答えは出てしまった。

 封鎖世界の結界では、やはり何らかの歪みとそれを是正する力が働いていた。

 それを用いた道具が六合器、コズミック・クラフトだ。

 分かってしまうと、もう動機だの過程だのはどうでもいい。

 そんなことを聞いている時間が無い。


『悪い、トウテツ。俺にはあまり時間が無い。いくつか質問してもいいか』


「述べてみよ」


(アメノ)叢雲(ムラクモノ)(ツルギ)は、どういった運用を想定して創られた武器なんだ?』


「六合器には、魂を操るという創世神の力を想定して創られたものが幾つか存在する。あれは魂を封じる剣だ。しかしカダとは異なり、某には魂というものが分からぬ。故に結局あの剣は完成したのか、それとも失敗作だったのか、某にも分からず終いである」


 魂を封じる、ね。

 人の魂を無差別に吸い込む剣だったら、とんだ大災害になるところだったが……。

 多分あの剣はヒュドラ魔法が定義するところの魂しか吸い込めない、つまり《捕食》を再現した兵器なんだろうな。

 だから、ヒュドラ魔法の模倣で魂だけの存在となった俺は、近付いただけで吸い込まれてしまったのか。


 例えばあの剣を地球の封鎖地域に持ち込んだら。

 ヒュドラ毒の範囲内で死亡した者の魂は、街の何処に居ても吸い込むことが可能……なのかもしれない。

 封鎖地域は地上ではあるが、あれも迷宮の一部のようなものだ。

 ヒュドラの《捕食》は迷宮という範囲を指定し、その中では無類の強さを発揮する。

 これもある種の迷宮魔法といえるだろう。


 ふーむ?

 天叢雲剣は未来の神殿に保管されているから、未来でも使用可能なわけだよな……。

 コズミック・ヒュドラ《九つ首》は、肉体を滅ぼしても魂さえあれば不滅という。

 だが、その魂を封じてしまったらどうか。

 肉体……がもしあればだが、それを滅ぼす時点でハードルが高そうだな。

 でもそれについてはまた後で考えよう。

 今はトウテツだ。


『剣は完成していた、と言っておく』

「おお、そうであったか!」

『六合器の力は限りがあるんだよな? 天叢雲剣は何回その力を使える?』

「あの剣は後期型だ。制限はほぼ無い」


 なに……?

 六合器は大した力を持たないハズレも多いし、未来ではどれもこれも骨董品だ。

 それは境界線の力を乾電池のように詰め込んでいる武具だから、というのが今の俺の解釈だ。つまり電池切れなのだと。


「六合器は封じた力を用いればすぐに寿命を迎えてしまう。その欠点を克服すべく、世界の果てから力を補充する方法を考案した。遠く離れた場所からでも境界の壁を削り、武具の力とするのだ。壁が無くなるまでは、無限に力を発揮する」


『あの壁が消えたら世界は滅ぶぞ!』


 とんでもなくヤバい方法を考案してんじゃねえ!

 終末化現象が起きたの、ほぼそのせいじゃねえか!


 使うたびに境界の壁が削れて、宇宙の理が捻じ曲げられていく。

 そしてその歪みを是正する力を原動力とする兵器。


 元はといえばカオスとクロノスのせいではあるんだが、これはしかし……。


『……なあ、トウテツ。その六合器のせいでこの世界が滅びるとしても、あんたはそれを創ったのか?』


「難しい質問であるな。某自身は無益な殺生は好まぬ。だが某の作った武器が、多くの命を奪うことに喜びが無いといえば嘘になる。その武器が世界を滅ぼすともなれば、無上の喜びと言えるだろう」


 ……………………。


『平和な時代だったら、あんたは優秀な鍛冶屋で済んだんだろうな。でも現実は違った。あんたみたいな危ない奴に才能を持たせると、(はなは)だ迷惑ということも分かった……』


「言いたい放題言ってくれる。それで、おぬしは某を消しに来たのであるか?」


『いや、そんなことに意味はない。もう今のあんたに用は無いけど、カダの行方を知らないか?』


「そやつならそこに()ろう」


 ……え?


 トウテツが顎でしゃくった先を見る。

 向かいの牢の中。

 そこには虚ろな目で地面を見つめる、死にかけの老人の姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 六合ってそういう意味だったんだ… そしてトウテツとかいう傍迷惑なジジイ… 鍛冶屋だけどメンタルがマッドサイエンティストのそれ過ぎる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ