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終末街の迷宮  作者: 高橋五鹿
第四章 瓦礫の街のモニク

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第104話 龍脈の異能者

 夏の朝は早い。

 空は薄っすらと明るくなっていた。


「始発にはまだ少し早い時間ですが、この先の駅まで進んでも乗る車両は同じです。この駅で待ちましょう」


 むしろ聞かされた始発の時間の早さにビビる。

 封鎖地域の外は、本当に昔とあまり変わらないんだな。

 むっ……!


「あ、あれは……!」

「どうされました!?」


 俺の視線の先には、24時間営業の牛丼屋が、煌々とした光を放っていた。




「道中の食費は経費で落ちますし、もっと上等なものでも……」

「いや俺、味とか分かんないんで。こういうのがいいんです」


 チープな脂と糖と醤油、そして米の香り。

 本物の牛丼だ。

 いや、俺のジャンクフード召喚の再現度は完璧なはずだ。

 でも……そうじゃないんだ。

 この、店で出てくるバイト店員が作ったナマの牛丼こそが本物だ。

 ナマの牛丼ってなんだ。落ち着け。

 紅生姜は別に好きじゃないから召喚したことはなかったが、今はそれすらも愛おしい。


「生卵も……頼んでいっすか」

「どうぞ……」


 見ると鬼塚さんは少し涙ぐんでいる。

 どんだけいい人なんだ。引くわ。

 泣きたいのは俺のほうだったんだが涙が引っ込んでしまった。

 世界大災害以降、一度も泣いたことの無い俺が涙を流しそうになったというのに。

 いや別にそんなのどうでもいいが。


 俺と鬼塚さんは、無言で牛丼をかっ込んだ。




 始発の電車は、一両まるごと貸し切りだった。

 別に、以前の世界でも珍しいことじゃない。

 まあ実のところ左右の車両に、明らかに素人じゃない気配を発する人間が乗っているのはバレバレなんだが、見張りというよりは俺たちの護衛なんだろう。大目に見ることにする。


「鬼塚さんも異能者だったんすか? まあ、単独で俺の案内をするくらいだから只者じゃないとは思ってましたけど。もしかして今回は瓦礫の街の中まで?」


「いえ、私は封鎖地域には入れないんです。入れたとしても戦闘はからっきしですし」


 ん? そうなのか?

 強くないのは分かっていたが、それを補うなんらかの力の持ち主、というわけでもないのか。


「私の異能は透視能力なんですよ。それも地面限定の。なので汎用性が低くて……地盤の調査とかでは重宝されるんですけどね。《龍脈》の異能っていいます」


 異能……《龍脈》?


 龍脈の異能者鬼塚。


 どうしよう、なんかますます強そうな響きになってきた。

 終わりの街のオロチ、とかいう呼び名がまだ普通に思えてきたぞ。

 これがアマテラスクォリティのネーミング力……!


 いや、よく考えたら鬼塚さんの名前はアマテラス関係なかったわ。

 あと多分龍脈の異能もアマテラス関係ないわ。


 で、地面を透視する能力。

 この人がそうだったんだな。


 おいおい……そんな重要な人材、俺の案内なんかに回して良かったのか?


「その能力……このご時世だと物凄く忙しかったのでは?」

「はい、全国の封鎖地域をたらい回しにされました。流石に発見されたもの全てを回ったわけではありませんが」


 なるほど……ブラック案件の匂いがするなこれは。

 でもこのご時世にダンジョンの中を透視できる能力なんて、有能すぎて引っ張りだこになるのも止むを得まい。


「つーか、そんな有能な人材が俺の案内人なんてしてていいんすか……」


「何を言うのですか。今あなたのサポートをするより重要な任務があるわけがない。瓦礫の街のダンジョン構造だって、なにかのヒントになるかもしれないでしょう」


 確かにダンジョン構造が事前に分かっていれば、ダンマスを狩るには大きなアドバンテージとなる。

 件のダンマス級は地上に出てくることばかりクローズアップされるが、普通に地下に逃げ込む可能性だってもちろんあるのだ。


 さて、その場合はモニクの力を借りることは出来ない。俺ひとりでそいつを倒せるのだろうか。

 うーむ。俺の目的はハイドラを連れ帰ることだし極論倒す必要なんて無いのだが、倒せなかったらアマテラスに借りひとつだな。

 あとは……ハイドラ次第か。

 あいつは今のところダンジョンに入ることが出来る。戦力としてカウントできるのかどうかは、なんともいえない。




「瓦礫の街のダンマス級について、教えてもらっていいすか?」

「トカゲのような外見の巨大な爬虫類です。コードネームは『ロングウィットン』」


 ロング……なんだって? アマテラスの謎ネーミングか。


「カメレオンみたいに、保護色で姿を消すんですよ。とはいえ、間近では簡単に目視できるらしいです。遠くからだと、動いても瓦礫が崩れているようにしか見えないんですよね」


 なるほど、それで《瓦礫の街》か。

 巨大化生物が目撃されたら大騒ぎになるはずだが、そうなっていない理由にも納得がいった。


 単なる巨大化生物なら地上にも出てきているが、アマテラスが妙にダンマス級と断言するからには、相当な実力があるのだろう。

 実際には巨大化生物のほうがダンマスより強かったりすることもあるからなんともいえんが。


「アマテラスは、なんでそいつをダンマスと? デカいだけの生物なら結構いるんじゃないかと思うんすけど」


「私は前線に出ていないので具体的にこうという意見が出せないんですが。知能が高いらしいんですよね」


 地上に出てくるくらいだから、てっきりバカの側のヤツなのかと……。

 だが、百頭竜には自我がある。

 それは逆に言えば、正気を失う可能性もあるということだ。

 知能の無い生物とは異なり創造主たるヒュドラの命令を、忠実に、機械的に、実行できるとは限らないのかもしれない。


 突然、クラシカルな電話の呼び出し音が鳴った。


「あっ。すいません、ちょっと失礼……」


 鬼塚さん、マナーモードにしていなかったのか。

 その点だけならハイドラのほうが礼儀正しいな。

 完璧な人間など居ないということが分かり、少し微笑ましくなった。


 とか考えてたら突然、鬼塚さんが大きな声を上げた。


「は!?」


 なんだ……?

 なんかトラブルでも起きたのか?


「そ、そんなまさか……い、いえ。オロチさんからは何も」

「…………?」


 なんか俺に関係あることなんかな。

 通話の邪魔しちゃ悪いと思って無言で見ていると、鬼塚さんはスマホを少し顔から離して俺のほうを向く。


「た、大変なことが起きました……《瓦礫の街》に――」


 …………!!

 何が起きた!?

 待て、落ち着け。

 ハイドラなら件の街に到着している可能性はまだ低い。

 モニクならば、()()()()()でも起きない限り心配は無いはずだ。




「ヒュドラが……現れたと」




 ――『余程のこと』は、俺の与り知らぬところで――確実に進行していた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついにヒュドラ本体がストーリーに絡み始めましたね。 お話も大きく動き始めてこれからが楽しみです。 [気になる点] ヒュドラって特定できるからにはそう思わせる特徴なりがあるんだろうか。
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