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終末街の迷宮  作者: 高橋五鹿
第四章 瓦礫の街のモニク

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第101話 瓦礫の街

『それで、何回も水を飲まされたんですよ。窒息するかと思いました…』


 おおう、なんか予想と違ってスパルタな訓練をされてたんだな。

 意外だ。モニクにもまだまだ知らない一面がある。


 だが、それは多分モニクの優しさなのだろう。


 今は事態が急変している。

 明日にでもヒュドラがこの街に現れ、モニクやアネモネによって倒され、封鎖地域のヒュドラ毒が消滅する。

 そんなことが起きないとも限らないのだ。

 ハイドラがヒュドラ毒を克服するのは、あいつ自身の命を守るためには急務といえる。


『それなら、封鎖地域の外に出れるようになる日も近いかもしれませんね』

『そうですね。楽しみにしています』


 楽しみ、か……。

 それは難しい話だろうな。


 その理由について詳しく話す気にもなれず、挨拶もそこそこにハイドラとの会話を切り上げた。

 この街をヒュドラ毒から解放する。

 それは俺の目的のひとつであったはずなのに。


 そして、その日は眠りに落ちた。




 翌朝、目覚めるとハイドラからのメッセージが受信されていた。


『おはようございます。モニクさんに、しばらく訓練は休むって伝えてもらえませんか?』


 ……んー?

 もう五月病か?

 まああいつ、言葉遣いの割に意外と繊細そうなとこもあるしなあ。


『どうしました? 昨日は封鎖地域の外に出れるのを楽しみにしていたじゃないですか』


 とはいえ、簡単に出るわけにはいかないだろう。

 人間の俺ですらアマテラスや警察、自衛隊の監視とかが怖くて外には出ていない。

 ましてやハイドラはヒュドラ生物、鑑定の力を持つ異能者には一発で正体を見抜かれてしまう。


 そうなればどうなるか。


 ハイドラにも分からないはずはない。

 もしこの街のヒュドラ毒を一掃できたとしても、ドゥームフィーンドたちの未来はどうなるのか。

 人間以外の知的生命体が、この星で生きていくには生半な実力では足りるまい。

 彼らに対して、俺に何が出来るというのだろう……。


 とか考えてたら、ハイドラから返信が来た。


『ええ、おかげさまで出れましたよ』


 ……………………ん?


『待て、お前今なんつった』


 思わず素で返してしまった。

 だが気にしてる場合じゃない。


『なんで急に素なんだ? だから今、実際に封鎖地域の外に出たって』


 な、なんだってーーー!?


 ば……バカなのかこいつは!?

 それとも勇者なの!?

 何故俺の周りには妙なところで蛮勇を発揮するヤツが多いんだ。


『外は危ないからすぐに帰ってきなさい』

『お母さんかお前は。ちょっと実家の様子を見に行ってくるだけだって』


 台風の日に田んぼの様子を見に行くようなもんだからねそれ!?


 こいつが説得して帰ってくるようなタマだろうか?

 なんか一時的な誤魔化しでもなんでもいいから、とにかく戻ってもらわんと。


『実家なら今度俺が付き添うから、とにかく今日はやめとけ。な?』

『いや実家に男を連れてくって…そういうんじゃないし』


 何言ってんだテメー!?

 いかん俺も混乱してきた。

 無理に説得しようとして行方を眩まされても事だ。

 街の外なんて探しようがないぞ?


『じゃあせめて、実家がどこなのか伝えてから行け。モニクの世話になってんだから、黙って行くのは良くないだろ?』


『む…分かったよ』


 ダシに使ってしまった。すまんモニク。


 そしてハイドラは実家の住所らしきものを送信してきた。

 …………。

 遠いなオイ!

 ちょっと行って帰ってくるって距離じゃねーぞ!


 駄目だ、やっぱり許可できねー。

 電話帳からハイドラの番号を探すと、直接電話をかける。

 この街からでも、外部と電話が出来るようになっているのはエーコと検証済だ。


 そして流れる無慈悲なアナウンス。


 …………あいつ、電源を切りやがった。

 と思ったら、ひとつ返信が増えてる。


『電車乗るから電源切るわ。またな』


 いやいや、マナーモードでいいだろ!

 なんで変なとこでお行儀いいんだよ!


 つーか、外の世界って電車走ってんの……?




「ということがありました……」


 一同、口が半開きになっている。

 ヒュドラ毒を克服したその日の朝に家出するヤンチャな創造主がいるとか、滅亡の悪魔でも気付けないよな、うん。

 なお、あいつのスマホは今も絶賛電源OFFである。


 気のせいか、セレネの眉間に少しシワが寄っているような。


「ごめんなさい……」

「いえ、別に先輩を責めているわけではありません」

「うむ。少し同族の未来が心配になっただけだ」


 あいつ、ドゥームフィーンドの王だもんな。

 そら心配にもなるわな。色んなイミで。


「とにかく、責任をもって俺が迎えに行くわ」


 外の世界を移動するならエーコのほうが適任な気もするが、彼女がこの街から長時間離れると不自然極まりない。アマテラスに対してなんらかの言い訳が必要だろう。

 ブレードとセレネは論外。ミイラ取りがミイラになりかねない。


「まあ待てアヤセ。キミが行ってもハイドラを発見するのは無理だ。同様に、外の世界に居る人間の勢力も、有能であればあるほど彼女を発見することは難しい」


 ……む、そういえばそうか。

 あいつの危険回避能力は人間にも有効、ということは俺やエーコが身をもって体験している。


「ボクが出よう。心配せずとも、彼女が満足するまで付き合ってから帰還するよ」


 そう言い残し、モニクは部屋から出ていった。

 適任といえばこれ以上の適任はいない。

 食堂の空気が少し弛緩した。




「ハイドラは私と同じで、生前とは似ても似つかない外見だと聞いています。実家に帰ってどうしようというのでしょう?」


「本当に様子を見に行くだけとか? でも今回のあいつの行動力からすると、普通に名乗り出てもおかしくないかもなあ」


「違う……かも」


 ん?


「エーコ?」

「アヤセくん。ハイドラさんから送られてきた住所、確認させてくれない?」

「んん? ああ」


 さっき口頭では伝えたが、きちんと確認したいってことか。

 スマホで該当のメッセージを表示させると、エーコに渡す。

 エーコは俺のスマホと自分のスマホを見比べて、難しい表情を浮かべた。


「やっぱり……」

「その住所に何かあるのか?」




「……『封鎖地域』だよ、この場所」




 ざわり、と視界が揺らめいた気がした。


 国内の封鎖地域の場所は公表されている。

 よほどの山奥とかなら未発見の封鎖地域があるかもしれないが、それなりに人が住んでいる発見済の場所ならすぐに調べられる。

 あいつが実家のことを気にかけて、それを調べないわけがない。


 それではなにか?

 あいつの家族はとっくに死んでいて、あいつはそれを確かめに行ったというのか?


 蛮勇には違いない。

 でも……どうしてそれを、その気持ちを咎められようか。


「以前、地上に出てくるダンマス級がいるっていう話したの、覚えてる?」

「ああ……」


 エーコの質問に生返事を返す。

 その件か……。

 はた迷惑なダンマスがいたもんだ、ってそんときは思っていたが。


天照(あまてらす)では、ダンマス級のヒュドラ生物は封鎖地域の外でも活動できると考えられているの。だから、その街では周辺地域からも全ての住民が避難させられている」


 なんの話だ。

 ……まさか。


 俺よりも先に、ブレードがその疑問を口にした。


「待て、(つるぎ)の魔女。つまり創造主が向かった封鎖地域というのは――」


 頷きをもって返すエーコ。

 おいおい、マジかよ……。


天照(あまてらす)が知る中で今現在、国内最も危険な封鎖地域……」


 そして俺は、次なる死闘の舞台であることを予感させる地――

 その名前を耳にする。




「コードネーム――《瓦礫(がれき)の街》」

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