60話
ちょっと暗い話になります。今回は短いです。
レベル上げ中宝箱を開けていた時の出来事である。
「しまった!皆離れろ!!」
久しぶりに宝箱の罠の解除に失敗してしまった。パステル以外の仲間は察知して離れるが、パステルだけはボーっとして立ってた。そして罠が発動し、俺とパステルは転移した。
「パステル、パステル無事か?」
俺が倒れているパステルに声をかけて確認する。
「あ、主様。大丈夫です」
目覚めてボーっとしていたパステルが返事をする。今日はどうしたのだろうか。
「罠の解除に失敗してしまったようだ。すまない」
俺は謝る。罠の解除に失敗した盗賊は皆から袋叩きにされても仕方ない。鉄の掟である。
「いえ、無事でしたし問題は無いかと」
パステルは周囲を見渡しながら答える。
「ああ、無事かどうかは解からないけどな」
ここがどこかも解からない。マッピングを使っても未到達エリアとしか書いていない。転移の羽も試したが効果がなかった。
『マスター!マスター!無事!?』
タリスから念話が飛んでくる。どうやら念話は届くようだ。
『ああ、パステルも無事だ。ここがどこかも解からないからそちらからの救出は無理だと思う。先に戻っていてくれ』
こちらが喋る事が出来れば念話も返せるようだ。
『解かったわ。無事に帰ってきてね』
そう言って念話が閉じられる。
「残った皆には先に戻るように伝えた。俺たちも帰り道を探そうか」
調子が優れないのか反応が鈍いパステルに言う。パステルは、はいと一言だけ言うと付いてくる。
「パステル、調子が悪いのならここで待っているか?」
調子が悪い人を連れて探索は難しいだろう。ここは安全なようだし、待っていて貰った方が探索もし易くなる。
「嫌です!!一人にしないで下さい!!」
パステルが叫ぶように言う。いつもの調子が全くない。一体どうしたのだろうか。
「どうしたんだ?今日はいつもと違うようだが……」
パステルに問い掛ける。
「夢を……見たんです。かつて主様の使い魔にして貰う前の……」
1人で居た頃だろうか。その頃の事は情報として記憶が残っているだけと聞いていた。そういうものだと思っていた。
(掲示板で情報を得て俺も賛同していた。そうだと思っていた)
もしかしたらモンスターは全て感情は無くても”生きていた”のだろうか。今まで散々虐殺をしてきた。これからも、しなければならないだろう。
(俺は一体何時からこの世界をゲームだと思っていたんだ?そこに生きている生物を殺す事の罪悪感が今は殆ど感じられない)
考えてみれば生きている生物を殺しているのだ。ゲームではない現実でだ。人型の相手も散々殺してきた。怖くなってくる。
(いや、これは……そうか……これは誰かを殺すという事を恐れているんじゃなくて、殺す事に慣れてしまう事を恐れているんだ……)
それに慣れてしまい、いつかそれが悦楽へと変換されたら快楽殺人者と変わらない。自分がそうなるのはとても怖い。いつの間にか俺はパステルを抱きしめて震えていた。
「主様?」
パステルが不思議そうにこちらを見上げる。身長差がそれほどある訳ではないから顔がかなり近い。俺が目を閉じて抱きしめたのを合図と勘違いしたのかキスをされる。驚いてしまったが気にせずそれを受ける。
(頭がこんがらかって来る。今は何も考えずに居よう……)
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2時間後、俺は身を整えると、先程の生物を殺す事に関して考えてみる。
(ま、いいんじゃね?)
あっさりしたものである。賢者モードとは素晴らしい。ただ、必要のない殺生は止めようと思う。だが今はレベル上げだ。立ち止まるわけには行かない。
(先の世界では極力殺さないようにする為の体術だしな)
訓練所で体術のスキルを伸ばす事を決意する。殺さないで済む場合はしなくて済むように……。
ファンタジーの世界に飛ばされたといってもそこは現実です。ゲームの様な世界だとしても現実です。
そこに生きて生活しているモノは居るし、それらの命を当然の様に奪っているのも自分であると自覚しなければなりません。
平和な世界で生きていた者達が、命のやり取りが当たり前の世界に行って殺すというのは転移や転生の話では重要なファクターになりますよね。
死体が消滅するこの迷宮でも同様です。彼らは感情がなくても生きています。
ゲームのモンスターだと思っていた彼らが生物としてちゃんと生きていたと知った時、どのようにそれを克服するのか。
そういう考えはある程度管理者から制限されています。ですが、攻略を進めるうちに解除されて行っていました。
先の世界へ到達した人たちは各々が答えを見つけて進んでいます。先の世界では感情も記憶もある相手と殺し合いをするようになりますから覚悟の事前準備みたいなモノです。
こういう話は普通物語の序盤でするものですが、ゲームの様な世界と勘違いしている、という雰囲気を壊さないように終盤で書く事にしました。
迷宮をクリアしたら必要になることです。
やってからあっさり答えを出す辺りこの主人公らしいといえばらしいですね。
この2人がどうやって帰ったかは恐らく述べられる事はないでしょう。面倒だから……ではありません。




