幕間4 ???
*???視点*
(ここはどこ……)
目の前には石の床と壁しかない。私はその場所をどこに向かうでもなく歩き続ける。
(あれは……人?)
人が居るなら倒さないとならない。何でそうなのかは解からないし、考えるつもりも無い。
私が剣でその人を斬りつけようとするとそれより早い速度で斬りつけられた。
(まだ動ける……)
そのまま反撃しようと剣を持ち上げようとしたが、その人に蹴られ壁に叩きつけられる。
(体が……)
立ち上がるのさえ辛い。
(でも、戦わなくては……)
その意思は消えない。手放さなかった武器を持つ手に力を入れると足を震わせながら立ち上がろうとする。
そうしていると何か丸い物を投げ付けられた。
次に目を覚ましたのは牢屋だった。自分の過去が瞬時に思い出される。そして、立ち上がろうとしても手足が動かない。
良く見ると目の前に男が1人いる。こいつは誰なんだろうか。
(少なくとも幼女の手足を縛って牢屋にいれるくらいだから変態だよね)
すると男がこっちを微妙な顔で見てくる。何か言ってやろうと思ったが声が出ない。どういうことだろうか?
「君、俺に従ってくれるかな?」
男が言ってくる。従うとはなんだろうか。そもそも何に従うのか解からないので首を振る。
「何か条件とかあるのかな……」
男が呟く。従うにも状況を教えて欲しい。私は頷く。
「えーっと、条件って何かな?
一緒に戦う事?」
戦いたいとなんて思わない。それにさっさと状況を話して欲しいので首を振る。
「なら、自由?」
こんな所で訳が解からない状態で放り出されても困る。首を振る。
「うーん、食事付きとか?」
食事は重要だ。訓練学校に居た時、食事の度に戦争だった。それは必須なので首を縦に頷くように動かす。
でも、それよりも状況を話して欲しい。
「解かった、今は大した食事を用意できないけど、必ず用意出来る様にする。それでもいいかな?」
食事に関して贅沢は言わない。食べられるだけで贅沢だ。それで十分なので頷く。でもさっさと状況を話して欲しい。
「それじゃ、気を取り直して”テイム”」
男が何かをすると、私の主はこの男だと認識を刷り込まされる。いつの間にか主従契約をされたようだ。奴隷契約みたいなものだろうか。
「では、手足の拘束を外すぞ」
男が言って私の手足を自由にする。立ち上がって手を見ると骨だった。
(これは一体……)
そして思い出す。私は死んだんだった。そしてアンデッドとして復活した、という訳らしい。
(よりにもよってアンデッドなんて……)
生前、アンデッドを倒す神官戦士をしていた。最年少だったが、その功績は誰よりも高かった。
(これが私への罰なのかな……)
男の後をついて行くと男が何かをしている。
(あれは……パソコン?)
かつて見たことがある。随分と久しぶりに見た気がする。その画面を見ると色々と書いてある。男の後ろで一緒に画面を見る。
「お前の名前はネクな」
男がいきなり言う。私はネクなんて名前ではなかった。だけど、前の名前は思い出せない。ならばその名前を名乗ろう。
私は頷く。男は満足したような顔になるとパソコンへ向かった。
「……え?女だったの?」
いきなり言われる。失敬なって骨だった。スケルトンの性別なんて私にだって解からない。黙って頷く。
「とりあえず、お前の武器はこれな」
武器を渡される。銅製の凄く弱そうな剣だ。何も無いよりはマシだろう。
そして転移の羽というアイテムを非常時には使えと渡される。そういえばアイテムボックスはここでも有効なのだろうか。
念じると空間が割れて使えた。何やら男が驚いた顔で見ている。他に誰もいないしパーティ共有だと言う事も知らなかったのだろう。
ニヤニヤしながら男を見た。
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この男の名前はスズキと言うらしい。スズキが寝ている間にパソコンを使わせてもらった。マニュアルを読むとこの迷宮に閉じ込められ使い魔を増やしながら攻略しないとならないとか。
(なんとも哀れな……)
子供の状態で死んだ私が言うのもなんだが、突然閉じ込められたら大変だと思う。異世界に転生させられた私も似たようなものではあるが。
同情に近い感情でスズキと共に探索をする。スズキが罠をあけるのを失敗して驚いてしまった。マスターが死んだら強制的に戻される仕様である。気をつけて欲しい。
スズキがパソコンで私のことを聞いているらしい。その回答を見るとどうやら私は珍しく前世の記憶を持ったままいたようだ。
(運が良かったのか、悪かったのか)
少なくとも前の人生は志半ばで死んだ。未練は多くあると思う。今度こそはこのスズキという男と何かを成し遂げて見たいと思う。
食事を与えられた。パンと肉らしい。どうやって食べるのか解からなかったので口元に近付けてみた。そうすると消滅して味が伝わってくる。パンより米の方が良かったが無いのならどうしようもない。肉も屑肉みたいな酷い物だった。
私だけがそうなのかと思ったがスズキも同じ物を食べていた。どうやらこれしかないらしい。まだ探索を始めて間もないのだろうか。
スズキが風呂を作ったようだ。喜びながら入りに行く。しばらくして出てきたようなのでそっちを見ると裸に鎧を着込んでいた。まぎれもなく変態である。折角なので私も入りに行くと驚かれた。出来れば毎日入りたい。
スズキは先に寝てしまったようだ。娯楽も何もなければそんなものだろう。寝る場所が他にはないので、私も隣に寝る。明日どんな反応をするか楽しみだ。
どうやら次はボス戦らしい。全力でやるつもりだ。大きな部屋にオーガが居た。生前オーガ討伐もしたことがある。全く問題ないが、装備と人数が不安だ。
長時間戦っているとスズキが攻撃を受けてしまう。スズキが倒されたら全滅だ。盾を投げ捨て全力でオーガを攻撃してこっちに向かせようとする。それでもこちらを見向きもしない。スズキはオーガの攻撃で死んでしまった。私は自分の力不足を恨んだ。
どうやら戦力不足を自覚したようで仲間を増やすそうだ。何やら仲間にするのが難航しているらしい。食事を抜こうとしたらしいがため息までついてくる。いい加減うざったいのでさっさと渡して来いとパンを渡す。
しばらくしてフェアリーと一緒に戻ってくる。どうやら成功したようだ。妖精は生前も友人に居たので、仲良くなれると嬉しい。
フェアリーと共にオーガと再戦を行う。今回はポーションが大量にあるため、時間は掛かるがどうにか倒せそうだ。戦闘中にスズキとタリスが何か言っている。大きな魔法を使うようだ。
魔法が発動する。凄い火柱を上げる。凄いな、と思ってみていると火がこちらまで広がってくる。慌てて逃げたが巻き込まれた。一足先に拠点へと戻る。タリスが何か謝っているようだが、死ぬわけでもない。なら戦場で敵を倒すのを優先するのは何も悪い事ではない。
何か勘違いをしていたようだが、そのままにしておいた。
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2階層へ移動した。主が突然猫耳と騒ぎ出した。タリスと共に引く。私も獣人は嫌いでは無いが、ここまで情熱があるかどうかは別だ。今は女だし。
あと、食事の質が良くなった。タリスと取り合うような真似はしない。こっちはアンデッドだから必ずしも食べる必要はない。
スズキが猫耳の少女を捕獲した。かれこれ7時間も篭っている。気持ちは解かるが長すぎだろう。2人とも無理をしていなければいいが。
戦闘中にエルフに囲まれたようだ。私とタリスが食い止めると申し出る。戦闘時に少しでも生き残らせるのは当然だ。しかも私たちは使い魔である以上主の盾にならないとならない。
ウダウダ悩んで被害を増やす隊長もいるというのにスズキはすぐには許可を出した。判断が早い男は嫌いじゃない。
スズキとティアが帰還した。私とタリスはスズキに抱きしめられて頭を撫でられた。もしかしたら、私もあの戦いで生き残っていたら皆とこうしていたのかも知れないと思うと寂しくなる。
スズキがエルフを捕獲した。精霊を召喚するような術者を倒すとは素晴らしい成長だ。牢屋で何か騒いでいるがいつもの事だ、今更騒いでも仕方ない。ティアが何やらそわそわしているが放置する。
次は2階層のボス戦だ。蜘蛛らしい。私の役目は何時も通り味方を護りながらの攻撃だ。これは生前も変わらない。
順調に戦っていると思ったら突然の攻撃でスズキがピンチに陥る。私とパステルは目を合わせると蜘蛛への攻撃を増やした。スズキはティアとタリスが対処しているから大丈夫だろう。私の役目はボスをさっさと倒す事だ。それがスズキの命を助ける行為になる。
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3階層は坑道で暗いようだ。私はアンデッドだから関係ないのだが、カンテラを持たされた。スズキはドワーフを捕獲した。速やかな捕獲で感心した。
すんなり捕獲し、鍛冶場を作ったようだ。今後良い装備が手に入りそうで嬉しくなる。
凄い鎚を受け取った。これは凄すぎる。神話に登場するような武器だろう。何かに似ているのは別として。
3階層のボス戦のようだ。ゴーレムなら存分にこの鎚を使えるだろう。楽しみだ。
戦闘はしばらく順調に進む。突然ゴーレムが暴走しスズキを吹き飛ばした。ゴーレムは自分の体を破壊しながら滅茶苦茶な攻撃を繰り出す。必死に応戦したが力には勝てなかったようだ。
スズキがパソコンからダイナマイトを取り出した。それでいいのか?この迷宮は。
コクと2人で行きあっさり爆破してきた。ボスとはなんだったのか。
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4階層に到着した。アンデッドが多いようだ。生前にアンデッドを大量に浄化したのを思い出す。スズキが神聖魔法を覚えさせようとしてたので私にもクレと感情を飛ばしまくる。そうしたらこっちもスキルを得た。どうにかなるものらしい。
2階で変なヴァンパイアが居た。ポーズを決めてきたのでテレビで見たポーズをタリスと一緒にやってみた。こういうのは恥ずかしさよりもノリだろう。
スズキがそのヴァンパイアを捕獲した。牢屋でまた何やら騒いでいるがもう誰も関与しない。いつもの事だ。
出てきたヴァンパイアを見て驚いた。これって詐欺では・・・?
ドラゴンゾンビが出てきた。後衛は一瞬で倒された。スズキと私だけになる。ドラゴンから逃げるのは難しい。私がどれくらい持つのか解からないが盾になろうとすると拒否された。思ったより根性があるらしい。
さすがに戦うのは難しかった。これは呪いだろうか、体中が腐敗していった。さすがに対策なしで勝つのは難しいようだ。
次は4階層のボスらしい。そんなに強い相手ではないと聞いたが、何故か巨大なスケルトンになった。私とスズキで上手く転倒させる。スズキがボスの頭蓋骨に剣の刃を入れてぎりぎりと割れ目を広げていた。自分があれをやられるのを考えたら鳥肌が立った。肌はないけど。
何故かスズキがボスの肩の辺りに張り付いていた。何がしたいのか良く解からない。何やら頭蓋骨の付近まで登ると何かを攻撃しだした。それだけで骨の結合が崩れる。スケルトンの核を攻撃したのだろうか。
スズキが飛び降り足の骨を折っていた。全く無茶をする男である。
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5階層に到着した。飛行モンスターが多く、剣や鎚は届かないらしい。弓術のスキルを貰ったのでティアと必死になって伸ばす。
弓自体は前世でも使った事があった為、割と簡単に使えるようになった。
天使は総じて胸が大きい。10歳程度で死んだ私が言うのもなんだが、胸の大きさに劣等感を感じてしまう。大分女として染められてしまったのだろうか。
ティアとパステルとリムが凄い勢いで天使を倒していく。私が言うのもなんだが女の嫉妬って怖い。
スズキがこっそり天使を捕獲していた。皆から冷たい目で見られていたようだ。
ボスの前にユニークモンスターを見に行くと言う話しになった。それを一目見ると勝てないと言うのが解かった。相手が遠くから放った光を私とスズキで無理やり防御し転移魔法で逃げる。生きた心地がしなかった。死んでいるわけだが。
ユニークモンスターがあれほどならボスも強いのだろうな、と少し期待する。そしてボスはあっさり倒れた。一体なんだったのだろうか。
そして今、休日のようにのんびりとした時間を過ごしている。生前は転生してからというもののずっと戦いばかりの生活だった。こんなのんびりとした時間を過ごした記憶が無い。
裁縫をしながらゆっくり過ごす。そんな生活も悪くないんじゃないかと思えてきた。
このスズキという男は仲間思いだし、決断も早い。リーダーとしては少し頼りない所はあるが、何だかんだで頑張っているようだ。
転生前は男だったので女に転生しても男なんてごめんだと思っていたが、女を10年やっていたからか男もいけるような気がしてくる。とは言え今はアンデッドだからどうしようもない。
私が生きていたら男も女もいけそうな気がする。
ネクさんによるダイジェストでした。
今回の幕間は全てノープロットの勢いで書いています。なので色々とお見苦しい所が多いと思います。
適当に読み流してあげてください。




