リム
「主、いじわるしないで渡して欲しいのじゃ……」
主は目の前の黒い杖をなかなかくれない。
「そんなにこの杖が欲しいか?」
目の前で杖を振りながら主は言ってくる。早くその黒いのが欲しい。我は散々濡らしながら懇願する。
「早く、早くそれを我に……」
もう我慢が出来ない。このまま主に襲い掛かってしまいたい衝動に駆られる。
「主様、そろそろ渡してあげたらどうですか?その暗黒の杖を」
パステルが助けを出してくれる。私は涙で濡れた顔をそちらへ向ける。
「いやーリムの泣き顔が可愛くてな。すまん」
主は我の頭を撫でながら杖を渡してくれる。サークレットをくれた時はすんなりくれたのに酷いと思う。
クウが我の顔をタオルで拭いてくれる。そして手を繋いで洗面所へ向かう。
「最近、主は我の扱いが酷いと思うのじゃ」
タリス、クウ、ティアの3人と一緒に自室に居る。どうにか改善をしたいと思う。
「ご主人様に構ってもらってずるいと思う」
ティアが何か勘違いした意見を言ってくる。そう言うことではない。
「うーん、そうですね。もう少し大人の様な見た目であれば変わるかもしれませんよ」
クウがそう言ってくるが、それが出来たらすぐにでもそうしている。
「アレがあるじゃない。一時的に成長する薬だっけ?あれを使えば考えが変わるんじゃない?」
タリスが言ってくるが、何か凄く適当だ。いつもの事だけど。
でも、成長させてボインボインになった姿を見せるのは悪く無さそうに見える。
「アイテムボックスにあったはず……。これじゃ!!」
アイテムボックスから1つの薬品を取り出す。あの時はどれくらい加齢するか解からなかったので手を出せなかった。
だけど今ならいける。我はそれを一気に飲む。これで身長や胸が……いつまで経っても変わらない。
「え?成長する薬じゃ……」
困惑していると、ティアが同じ薬を取り出して飲む。すると顔付きが更に大人の様になり、身長が少し伸びた。胸は……余り変わらない。
「成長したよ?」
ティアが言ってくる。どうやら自分でも解かるものらしい。
「つまり、リムは歳を取ってもそのまま成長しない。既に成長が止まってしまっているって事ね」
タリスが笑いながら言ってくる。我は落胆した。これ以上の成長が望めないらしい。膝と手を付いてそのポーズで心情を示す。
「ご主人様に見てもらってくる」
そう言ってティアは部屋を出て行った。胸は大して成長しなかったが、大人になった姿が嬉しいのだろう。
「掲示板で聞いてみたら?私たちではこれ以上の意見を出せないしね」
タリスが言ってくる。クウも頷いて同意してくる。早くもネタ切れのようだ。
我はパソコンへと向かうと掲示板を起動した。
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使い魔専用スレ part10
111 名無しのヴァンパイアさん
あのもっと自分を大人に見せる方法ってないものでしょうか?
112 名無しのフェアリーさん
え?ヴァンパイアって胸も大きいし、身長も高かったわよね?
それ以上大人に見せてどうするの?
113 名無しのゴブリンさん
あれじゃねーの?
レア個体
114 名無しのリザードマンさん
レア個体が言うと説得力があるな
大人か・・・筋肉を鍛えるというのはどうだ?
115 名無しのオークさん
多分それは>>111の求めているのとは違うと思うぞ
116 名無しのエルフさん
化粧とかどうでしょうか?
後は普段の仕草ですかね
117 名無しのゴブリンさん
確かに、ここに来るまではエルフは知的で大人なイメージあったよな
一気に崩れたけど
118 名無しのヴァンパイアさん
なるほど
普段の仕草と化粧か
ありがとう、試してみる
119 名無しのコボルトさん
血を飲むと妖艶になるというのは教えてやらないのか?
あの状態はかなりやばいってマスターが言ってたぞ
120 名無しのエルフさん
それは毎日の事でしょう
ヴァンパイアは大抵主から血を貰いますし
121 名無しのゴブリンさん
しかし、そんなヴァンパイアを子供扱いとか
>>111の主は一体どんな性癖なのやら
122 名無しのフェアリーさん
っ性癖覚醒
123 名無しのゴブリンさん
もうそのネタは止めてくれ!!
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(なるほど、化粧や普段の仕草。仕草はパステルを見習うとして、化粧が出来る者はおったかのぅ?)
全く思い当たらない。そもそも化粧自体がこの拠点にあるか怪しい。永遠に若く体型も肌も劣化しないのでは、化粧に頼る必要もないのだろう。
(では仕草を学びにいくのじゃ)
意気揚々とパステルの部屋へ向かう。探知スキルは本当に便利だと思う。
(とりあえず、こっそり観察……)
ドアを少しだけ開けて中を調べるが、見つからない。部屋の中に入って周囲を見渡すと部屋の隅の方で何かしている。近付いてみると凄く鼻息が荒い。
(何を読んでおるのかのぅ?)
我はこっそりパステルの手元の書物のタイトルを読む。
(りょうじょく?意味が解からんのぅ……)
随分と近くに寄っているのに気が付く様子が全くない。凄い集中力だ。
「パステル、何を読んでおるのじゃ?」
我が声をかけるとパステルは肩をビクッっと震わせる。そしてこちらを見て笑顔になる。無理やり誤魔化したようだ。
「リム、どうしたのですか?何か聞きたいことでもあるのでしょうか?」
パステルは何事もなかったように聞いてくる。
「うむ、我をもっと大人に見せるにはどうしたらいいんじゃろうか」
我がそう言うと、パステルは顎に手を当て少し考え込む。すぐにあっと声を出すとアイテムボックスから何やら黒い服を出す。
「このドレスを着れば更にリムの魅力が引き出されると思いますよ」
そう言って黒い服を渡してくる。妙にひらひらしたモノが付いている。良く解からないけど着てみることにした。
「リム、最高です。似合ってます」
パステルが鼻を手で押さえながら言って来る。凄く話し難そうだ。
「そうなのか?これなら主は我の事を子供扱いしないのか?」
我がそう聞くと、パステルは「子供扱いなんて出来ないでしょう。少なくとも私は襲いたいくらいです」と言ってくる。
「なら主の所に行って来る。世話になったな」
それだけパステルに言うと我は主のもとへと向かった。
「主っ!!」
我は寝室に居た主のもとへ来た。どうやら昼寝をしていたみたいだ。
「リム?その服はどうしたんだ?」
主は我の姿を見るとそう聞いてくる。この服の魅力に負けているのかも知れない。
「パステルから貰ったのじゃ」
そう言うと主が手招きをしてくる。良く解からないが近寄る。すると手を捕まれ抱きつかれた。
「ああ、可愛いぞ?このまま押し倒してしまいたいくらいだ」
主は性欲が強いと思う。使い魔は全員満更でもないから特に何も言わない。我は主の体にすっぽり入るように抱き付かれている。そうしていると先程の薬の効果が切れたティアがやってきた。
「リム可愛い」
ティアはそう言うと我を主から奪うように抱きついてくる。そんなに凄い姿なのだろうか。鏡がないから自分では確認しようがない。
「そんなにいいのか?」
我がそう聞くと主もティアも我に抱き付き行動で示す。
(むぅ……我の魅力に落ちているのは解かるのじゃが……当初の目的と違う気がするのじゃ……)
既に目的が何かも覚えていない。結局はどうでも良い事だったんだろう。そう思うことにした。我は使い魔になる前は一人ぼっちだった。一人寂しく歩き回っていた。気が遠くなるほど長い間、ずっと闇の中を歩いていた。
その闇から主とその仲間達は救い出してくれた。ここの牢屋に入ったときの事は忘れない。痛い思いはしたが、今となってはいい思い出だ。これからずっとこの者達と一緒にいるのだろう。この暖かい仲間達と一緒に。
「ちょ、どこを触っておる。あ、止めてっ」
主とティアは胸や尻を触ってくる。そして我は2人に襲われた。




