第二十六話 婚約
木漏れ日が綺麗な良く晴れたその日、喜びの報せを受けました。
クディル兄様とローザ様が婚約しました!
すっごい、早い! え、最近恋人同士になったばかりじゃなかったっけ!?
「クディル兄様、ローザ様、おめでとうございます!」
「ありがとう、メリー」
「うふふ。メリーちゃん、ありがとう。これから、よろしくね」
結婚はもうちょっとかかるんですって! 何か、クディル兄様の勤務地が変わるかもしれないそうです。
「父様と母様にはもう言ったんですか?」
「ああ、手紙を念のために五通出した」
「お返事のお手紙を持ったメイドさんが来たときはびっくりしたわ」
父様の不運を警戒したんですね、分かります。
「今度ローザを連れて里帰りしようと思うんだが、メリーも来るか?」
「ん~、アドルフ兄様やマルコ達は?」
「アドルフは仕事で、ユリアは休学中の勉強があるから無理だそうだ。マルコとフランツは行くと言っているが……」
クディル兄様は少し悩むようなそぶりを見せました。どうしたのかな?
「兄様?」
「……何だか、マルコとフランツの様子が変なんだ。マルコは最近鍛えているのか体格が少し良くなって、フランツは気配を消すのが上手くなっていた」
「そういえば、マルコ君は青春の汗がどうのと言ってたわね。でも、元気そうだったわ」
「フランツは逆に何かに怯えているというか……」
おおう……。とても心当たりがあります。
思い出すのは筋肉の波にさらわれる二人。どうやら、二人の道は別れたようです。
「そういえば、最近悪戯の頻度が落ちたな」
「きっと大人になりつつあるのね」
にっこり笑い合うカップルは微笑ましいが、裏の事情を知ってる私の笑顔は引きつっているに違いない。
「え~っと、じゃあ、私も行こうかな……」
「そうか。じゃあ、今度の連休中に行くつもりなんだが、大丈夫か?」
「うん。それくらい先なら、バイトもお休みがとりやすいし、大丈夫だと思う」
「うふふ。楽しみねぇ」
にこにこ笑うローザ様が眩しい。
「ローザ様のご実家にはご挨拶に行くの?」
「ああ。もちろんだ」
「家にはもう知らせてあるし、許可も貰ったのよ。ただ、この国でまだやる事があって動けないから、あちらから会いに来るかもしれないわ」
ローザ様は英雄の一人で、成人しているからやる事も多いそうです。
「まあ、クディル様の勤務地が変わってしまったら、それについて行っちゃうけどね」
うふふ、と悪戯っぽく笑う様子が可愛らしいローザ様に、胸がキュンとする。ふああ~、この人が私のお義姉ちゃんになるんだ~。
「クディル兄様、勤務地が変わったらそっちで結婚式をするの?」
「あー……。出来れば、こっちで式は挙げたいんだが……」
「ん~……」
二人とも困った様子で顔を見合わせる。
「勤務地、魔界になるかもしれなくてなぁ……」
「上層部が、色々画策しているらしくて……」
んん? 魔界? 上層部が画策って、クディル兄様の結婚式が国家の思惑に利用されると?
「んん~?」
しきりに首を傾げる私に、二人は苦笑する。
「クディル様と英雄の一人である私の結婚式で、魔界の住人がどう反応するのか知りたいらしいのよ」
「なかなか無神経な計画なんだがな」
その計画、通りそうなんですね……。
うわぁ……、と引くと同時に、絶対問題ないだろうな、という確信に似た思いを抱いてしまうのは、仕方のない事だと思います。
「クディル兄様なら絶対大丈夫だと思えて困る……」
きっと、上層部もそう思ってるんだろうなぁ……。
クディル兄様とローザ様も、やっぱり困った様に眉を下げて笑う。
「けど、クディル兄様が魔界に行ったら、追いかけてきそう」
誰とは言わないが。
「軍部に穴が開きそう」
治安が心配である。
「それなんだが、どうもアドルフが上手くやってるそうでな……」
クディル兄様が遠い目をする。よく分からないが、アドルフ兄様が上手く操縦しているらしい。
「あいつは自分の身に危険が迫らないと積極的に動こうとしないからなぁ……」
アドルフ兄様の将来の夢は『ヒモ』だったことがあります。過去形です。クディル兄様に本気で吊るされたので、無事に武官になりました。
「このまま無事に弟達が俺の手を離れてくれれば、楽になるんだが……」
そして楽になった隙間に入るのが魔界で増える信者――いえ、何でもありません。
「取り合えず、どういった結果になろうと、結婚式、楽しみにしてます」
「ああ」
「ふふ、ありがとう、メリーちゃん」
嬉しそうに微笑む二人の姿に、私も嬉しくなって笑った。




