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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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87 帝国の襲撃

 こうして、姫をキルアネに送り届ける部隊は王都ハルマを出発した。


 王都を離れたのは、悲惨な結果になった野外訓練に続いて二度目だ。途中までは前回の行程と同じなので、似たような景色のところを通った。


 変装しているとはいえ、これは行軍だと思った。

 なにせ歩く速度がかなり速いのだ。毎日五十トーネル以上歩いている。

 つまり、五十キロ以上軽く歩いているわけだ。


「姫、こんなに速く歩くものなんですか?」

 姫は顔色一つ変えずにこのペースをついてきている。たいていの日本人なら初日だけでギブアップしそうだ。


「はい。馬を使ったり、レヴィテーションを併用するつもりではありますが、基本は徒歩です。国内の政情視察も兼ねていますので」

「王都だけを見ていても、わからない部分もありますからね」


 王都はいわば、王国内で最も安定している場所だ。そこを守る兵の質も高い。城下だってにぎわっている。


 なので、そこだけしか知らないというのは戦争をするうえで問題ではある。


 実際、王都から離れるにつれて、町が貧しくなってくるというか、規模が小さくなっている印象は受けた。もちろん、地方の中核都市みたいなものはあるんだろうが。


「もし、帝国が攻めてきた場合、進路にあたる町は人が減っていますね」

「けど、まだ正式に戦争にもなってないのに」

「帝国が軍隊を集めているという話は商人経由ですでに広まっています。あるいは意図的に帝国が流布しているのかもしれません」


 戦争は水面下でとっくに始まっているってことか。


「これは姫にとって皇太子時代、最後の地方視察でもあるのだ」

 タクラジュがそう説明した。

 姫が小さくうなずく。


「それって、王に即位するってことですか?」

「本来ならもう王位をお父様からお譲りいただく予定だったのですが、戦争があまりに近づいているので、戦争が終わるまではお父様に続投していただくことにしました」


 たしかに、王が変われば事務手続きだけでも膨大なものが発生するから、戦争を控えた状態でやることじゃない。手間取ることがあれば、敵にそこを突かれることにもなる。


 旅自体は順調に進んでいった。

 俺の性別もとくにばれることもなかった。それはそれで複雑な心境だけど……。


 途中、休憩中などに何度か「べっぴんさんの一行だな」などと旅人や地元の人間に言われたことがある。それって、俺も入ってるんだろうか……。


「島津はけっこう得意だな」

 その日も旅人の視線をいくつかもらった後に、イマージュにからかわれた。

「もしかして、元からこういうことをしていたのか?」

「やってません。コスプレもしたことないですし」

「こすぷれ?」

 そっか、言葉が通じるわけないよな。


「仮装です。この調子だと、あと三日ぐらいで目的地につきそうですね」

「ああ。だが、妙に受けた視線が多い気がするな」

 イマージュがびくっとするようなことを言った。


「心配するな。我々は戦うのが仕事だ。仕事に戻るだけのことだ」


 もしかすると、すでにイマージュは剣士の勘で、このあと何が起こるか把握していたのかもしれない。



 二日後、俺たちはキルアネへと続く台地を歩いていた。

 ゴールは近い。そのためか、当初より歩行速度もずいぶんゆっくりになっていた。


「目的地に着く時間調整でもしてるんですか。それとも旅の疲れのせいですか」

 イマージュが俺にそっと耳打ちした。

「体力を温存しておいたほうがいいからだ」


 それで何が起ころうとしているか、だいたいわかった。


 森へと続く道を歩いていると、不意にいくつもの殺気を感じた。


 ――俺の服にいきなり炎が灯った!


 すぐにウォーターを無詠唱で唱えて、消火した。

 炎による攻撃は基本中の基本だ。だから、対策もさんざんアーシアから教わってきた。


 今度はぞろぞろと剣士が街道の両脇から飛び出てくる。

 その数、二十ほどか。


「やはり、待ち構えていましたね!」

 姫が叫んだ。すでに防御に関する魔法を唱えようとしたが――


 すぐに敵の解呪魔法ディスマジックが飛んでくる。


 空の上だ。頭上にローブを着た魔法使い数人が浮かんでいる。


「師匠、どうします!? 完全に囲まれてますよ! ばれてたんですよ!」

「一概にそうは言えないがな。ばれてようとなかろうと、今、キルアネに向かう人間は片っ端から始末しようという腹かもしれん!」


 なるほどな。ありうる話だ。


 カタギの人間がキルアネに入る可能性は低いかもしれないし、仮にそうだとしてもそんな連中を殺しておけば、悪い噂が立ってキルアネは孤立する。どのみちセルティア帝国としてはプラスに働く。


 俺は剣を抜きながら、一度、ゆっくりと唾を呑みこんだ。

 これまでの学習の成果を活かすべき時だ。

 アーシアから魔法使いとしての、剣士としてのあり方も教わってきた。


 敵の集団と対峙した時、最初にするのは、頭目を見つけること。

 多くの場合、頭目が消えれば指揮系統は混乱する。それは敵の弱体化と同じだ。


「相手の魔法使いの女はこちらで防ぐ。地上の者たちは侍女をれ!」


 空に浮かんでいる魔法使いの男が叫んだ。

 あいつが向こうの頭目だな。

 こっちもレヴィテーションで浮かんで、攻め込むか。


 いや、魔法の防御がない状態で不用意に飛べば、敵の攻撃魔法で狙い撃ちにされる。


 落ち着け。こういう時、ヒントは戦場にある。

 ペーパーテストの文章に解答のヒントが隠れているのと同じだ。


 そうだ、頭目はこう言っていた。

 相手の魔法使いの女、侍女。

 つまり、姫以外は魔法使いだと認識してない。


 だったら、やりようはあるな。

24日から連載を開始した「若者の黒魔法離れが深刻ですが、就職してみたら待遇いいし、社長も使い魔もかわいくて最高です!」が27日夜から日間1位になりました!

本当にうれしいです! ありがとうございます!

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新連載のほうもよろしければお読みくださいませ!

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