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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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84 学校卒業

 王都ハルマにも肌寒い日が増えてきた頃――

 俺は異世界出身者用学校の卒業式に出席していた。


 ちなみに、教官としてではなく、生徒として。


 どっちでもいいとヤムサックやサヨルには言われたけど、せっかくだし生徒としてのほうを選んだ。今後、教官を続けるなら、教官として卒業式に出ることはできるかもしれないからな。


 ヤムサックが教官を代表して、無難なことを言った。

 明日からみんなは別々の旅路につくとか、つらい時は学校での日々を思い出してとか、そういったことだ。

 こういう内容はどこの世界の学校でも大差はないらしい。おんなじような思考回路の人間が集まっている社会だから、当然なのかもしれない。


 そのあとにカコ姫が王家を代表して、教壇に立った。


 姫の登場に生徒たちも少しざわつく。


「皆さんもご存じのとおり、今年の卒業式は異例です。本来ならもう一年、技術や訓練を魔法使いも剣士も磨いていただくつもりでしたし、工房などに就職する場合や、一般社会に出る場合も、職業訓練は行う予定でした」


 姫の表情は申し訳なさそうに曇っていた。それもやむをえないと言えなくもない。


「ですが、帝国との緊迫した現状を考えると、皆さんを早く軍隊に配属せざるをえないという結論に至りました。どうかご容赦ください」


 そうなのだ。

 帝国はいよいよはっきりと攻撃を開始しようとしている。

 もう一年、王都で基礎を固めるという場合ではなくなった。正直、成績優秀者はそれなりの戦力になるし、とっとと派遣するなり、王都の防衛に当たるなりしたいのだ。


 入隊初日から最前線で命を張る破目になるということはないようだけど、教育している余裕なんてないというのは事実だ。


「様々な道に進む方がいるとは思いますが、どうか皆さんの未来が明るいものでありますように」


 最後に姫がそう締めくくった。

 姫自身が今にも戦場に出ていくような、そんな覚悟を決めたような瞳をしていた。


 そのあと、大きな部屋でお別れパーティーがあった。

 俺が自分用のコップをとったところに、すぐに高砂理奈がやってきた。


「卒業おめでとうございます、先生」

「間違ったことは言ってないけど、なんか変な日本語だな……」

 まあ、理奈はわかってて言ったんだろうけど。


「山での訓練の時は助けてくれてありがとう……。本当に怖かったから……」

 お礼を言う時に、どうしても嫌なことを思い出してしまうので、理奈の顔が少し曇る。

 俺たちのクラスは野外訓練中を敵に狙われた。多くの生徒が連れ去られるところだったのだ。


「犠牲者が出なくてよかったよな。俺もほっとしてる」

 みんなには言ってないけど、俺自身、高位の魔法使いと戦って死にかけた。


「あれのせいもあって、軍隊に入るのは半分弱みたいだね。例年より減ってるらしいよ。七割ぐらい軍に入ってたそうだから」

「そりゃ、あれだけ命の危険を感じたら避けたくもなるよな」


 この世界の戦争は地球のものと決定的に異なるところがある。

 それは魔法の有無だ。

 たとえば、生命を奪うような魔法をいきなり相手に唱えられて全滅――なんてことも絶対ないとは言い切れない。そういったリスクから完全には逃げられない。


 まして、俺たち異世界出身者は即戦力として配置される可能性が高い。それだけ死の危険も高くなる。軍に入るのをためらう者が増えるのもしょうがないだろう。


「理奈は魔法使いに進むんだよな」

 理奈はボディビルダーのマネみたいに両腕を軽く持ち上げた。


「うん。理奈、なかなか魔法は得意だからね。とくに風系と氷系は出来がいいから。もうちょっと日常生活に使える補助系統が得意だったら、商売してもよかったんだけど……攻撃系はつぶしが利かないからね……」

「まあ、理奈の成績なら下っ端としてこき使われることはないだろうから安心しろ」


 異世界出身者の成績優秀者はもれなく国の魔法使いの立派な戦力だ。

 学校は教官も含めて魔法使いだらけだから錯覚しやすいが、魔法使いというのはかなりのレアスキルだ。

 軍隊全体から見たら魔法使いは一割以下、せいぜい五%いるかどうかという数だ。


 実際、魔法使い一人で兵士二十人を吹き飛ばすようなことだって可能だから、割合としておかしくはない。ハルマ王国が魔法使い養成を目指した理由もわかる。


 今度はそこに上月先生がやってきた。

 一人だけ二十代だから、童顔ではあるけれど、大人びたオーラがある。持っているコップにも葡萄酒が入っていた。


「お二人とも、卒業おめでとうございます」

「上月先生も卒業おめでとー!」

 理奈がコップを上月先生のコップにぶつけた。乾杯はこの世界でも同じルールだ。


「上月先生は回復魔法をほぼマスターできたんですよね?」

 うれしそうに先生はうなずいた。

 聖職者が幼いうちから覚える系統のため、異世界出身者には難しい回復魔法を上月先生は重点的に学んで、この一か月で免許のようなものまで取得したのだ。


「今は法的には私も聖職者の一員ですね。軍隊に所属して各地を回ることにはなるので、神殿でお祈りを捧げたりはしませんけど」


「じゃあ、どこかで先生のリキュアで助けてもらうことがあるかもしれませんね」

「はい、そのつもりでいますよ。元教え子はみんな私が守りますからね!」


 ちゃんとした目的を持っている人は強い、そう感じた。

 教師の立場でもあったけど、やっぱり目的が決まっている人のほうが成績もよかった。


「そうだ、島津先生は、卒業生たちに何かないの?」

 悪ふざけみたいなことを理奈は言ってきた。

 たしかに、何かかっこつけたことを言わないといけないのか。


 すると、ほかの生徒たちもにやにやしながら集まってきた。年齢的には未成年だけど、この国の法律だと飲酒できるので酒が入ってる奴も多い。


「よし、みんなには成長するためのことをちゃんと教えてきた。それを信じて進んでくれ。必ず、もっともっと上に行ける!」


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