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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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83 戦争に向けて

 生徒はケガをした者はいたものの、犠牲者はいなかった。

 これは帝国側の目的が最初から誘拐だったからだろう。俺たちはこことは違う世界から連れて来られたにすぎないし、寝返らせることもできると考えていたらしい。


 ただ、心に傷を負った者はそれなりにいた。

 まず、戦場の恐怖をはからずも生で感じた生徒が多かった。自分が死ぬかもと思った奴が大半だっただろうし、それ以外にも俺が殺した敵兵の死体を見て吐いた奴もいたようだ。


 ヤムサックは「戦場のつらさを教える訓練ではあったが、ここまでになったら困る」と言っていた。これじゃ、多くの生徒が軍人になることを諦めるだろう。


 どこに敵が潜んでいるかわからないから、俺たちはすぐに王城に戻った。

 そして、俺はカコ姫に直々に呼び出された。


 そばにはイマージュとタクラジュだけが控えている。


「島津さんが戦った敵の詳しい情報を教えていただけますか?」

 姫は憂いをたたえたような表情をしていた。事の重大さを認識しているのだろう。


 俺はササヤのこと、亀山のこと、それと亀山についていた精霊のことも簡単に話した。


「なるほど、そうでしたか。思った以上にいろんな敵とこの国は戦わないといけないようですね」


 姫はため息をついた。


「帝国だけでなく、顔に王国がやったことに対して怨恨を持つ者、そして――気味が悪いのが精霊です」


 俺は姫の言葉にびくっとした。


「精霊は本来、人間に直接干渉はしないことになっているはずです。しかし、それを精霊が破ればパワーバランスは一気に崩壊します。精霊がそんな判断をしないことを祈るばかりです」


 亀山のそばにいた精霊の件があるから、決して楽観視はできない。


「ですが、姫、今回は島津の活躍もあり、事件を阻止できました。それは収穫ではないでしょうか」

「イマージュ、お前はバカか。いっぺん死んで再生しろ」


 タクラジュが容赦なく罵倒した。


「なんだ、その言い方は……。お前、島津が自分の弟子じゃないからひがんでいるんじゃないか? そうだ、そうに違いない!」

「今回、敵の主力はササヤも亀山もいわば王国から寝返った者だ。つまり、向こうとしては失っても痛くないコマだったのだ。そして、少数の兵でもそれなりの戦果を狙えることが今回の作戦で露呈した。地方の村民の一部が今回、買収されて、兵士を事前に隠していたことは明らかだ」


 帝国に通じていた村民は洗い出されて逮捕された。もともと王国に対してよい感情を抱いてない者もいる土地だ。ありえない話じゃなかった。


「タクラジュの言うとおりです。近いうちにセルティア帝国と戦争になるでしょうが、敵は国境を接している土地で似たような作戦を行うかもしれません。地元民の裏切りがあれば、部隊の全滅すらありえるということがわかりました。気をつけねばなりません」


 姫の言葉にイマージュは顔を赤くしていた。たしかにイマージュの発想は楽観的すぎた。


「――とはいえ、島津さんの功績は偉大なものです」

 姫はようやく笑みを浮かべてくれた。それだけでこれまでの苦労がすべて報われた気になる。


「以前まで子爵の地位だったかと思いますが、伯爵に格上げさせていただきますね。味方の士気を高めることにもなりますし」

「あまり実感はないんですけどね……」


 ここは素直に受け取っておこうか。


 ただ、イマージュの顔がやけに青ざめていた。

「師匠、どうしました?」

「わ、私はこれまで子爵だったのだ……」

「はい、それがどうしました?」

「島津のほうが偉くなってしまった……」


 あっ……。イマージュが俺の前に来て膝をついた。

「は、伯爵……何か学びたいことがありましたら、何なりとお申し付けください……」

「気味が悪いんで、普通にしてください! 明らかに敬語、無理して使ってるし!」


 今度はタクラジュも膝をついた。

「妹は無礼なので、これを機会に処罰してはいかがでしょうか?」

「なんでこのチャンスに双子を陥れるぞみたいな発想なんだよ!」



 結局、俺は伯爵になり、行ったこともない土地がまた少し増えた。

 それと、ほかにもいろいろと変化があった。


 学校の授業内容が大幅に見直された。

 一言で言えば、実際の戦争を前提にした授業が増えた。


 王都郊外の、さすがに帝国の兵が入ってこないだろうというところで軍事訓練を行ったりした。従来の授業ではもっと後にやることだ。


 それだけ戦争が近づいているということをこの授業の変化は意味していた。


 空気だけじゃない。ヤムサックがはっきりとこう言った。

「残り一か月の訓練の後、君たちに進路を決めてもらう。そのうえで魔法使いか剣士として軍人になることを希望した者は、すぐに戦場に出すつもりはないが、戦争が激化した場合は戦場に出てもらう」


 生徒たちがざわついた。

 軍人になることと、戦場に出ることは大きな違いがあるからな。


「軍人を希望しない者に関しては無理に戦場に出すことはしない。そういう者を出しても部隊の混乱を招くだけだからだ。君たちの希望は尊重するので、よく考えて決めてほしい。そのうえで、できることなら我々と一緒に戦ってほしい」


 俺ももっと実戦に備えた訓練をしないとな。


 その日の授業での演習の終わった後、俺は白い煙がくすぶっている野原を見つめていた。

 フレイムで起こった火のあとだ。


 変な話、自分が行くのはいいけど、顔を見知った仲間が行くのはやっぱり気が進まないな。


 ――と、後ろから抱きつかれた。

 サヨルだ。


「絶対に死んじゃダメだよ、時介」

「サヨルもな。絶対に生き残れよ」


 ぴりぴりした空気を紛らわすように、俺たちはお互いの体温を感じていた。

第二部 剣士編はこれにて終了です!

次回から第三部に入ります!

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