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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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78 復讐者との対峙

 細い道をたどっていたら、やがて空の荷車を見つけた。

 そっと、耳を澄まして、声が聞こえないか探した。


「おい、もうちょっと起きてくれよ」

 そんな声が聞こえてきた。

 男の兵士たちが女子生徒二人の手と足を縛っていた。上郡かみごおりさんと伊丹いたみさんだ。怯えた顔はしているが、声もほとんど出ないようだ。


「ったく、こんなにぐったりされたんじゃ、全然面白くねえじゃねえか。ちょっとは抵抗してくれねえと……」

「しかも、一人は亀山って奴が連れていっちまうしよ……」

「けど、あいつと戦って勝てる気もしねえしな。変な流派だけど、強いのは確かだよな」


 亀山が? やっぱり、復讐のために特訓でもしたのか。

 あいつが誰か連れ去ったっていうのも気がかりだけど、まずはこいつらを倒すのが先だ。


「やめてよ……。こんなの、ダメなんだから……」

 上郡さんがふるえた声を出す。伊丹さんのほうはもう目を閉じていた。

「心配しなくても殺しはしねえよ。帝国に連れていくだけだ。その前にちょっと楽しませてくれよ。なあ、エリートなんだろ、お前ら」

 

 ちょっと、二人に敵が近すぎるな。片方がナイフを持ってるのもやりづらい。

 少し、小技を使うか。

 俺は、荷馬車の近くで声を出す。


「おい! 敵にばれたぞ! 交戦中だから助けに来てくれ! そこにいると、どっちみち殺されるぞ!」

 その声に男二人がびくっとしたのがわかった。

「なんで、こんなところまで敵が来てんだよ!」

「わざわざ、ひっそりしたところまで持ってきたのによ! あれ、その制服は――」


 荷馬車のほうに来たところを順番に斬り殺した。

 今更、卑怯もクソもないだろ。


「間に合ったかな……? 間に合ってればいいんだけど……」

 二人はスカートを完全に切り裂かれていた。少し目をそらしながら、拘束をはずす。

「あ、ありがとう、島津先生! 私たちだけじゃなく、上月先生も助けてあげて!」

 上郡さんが霧を吹き払うように、訴えるように言った。


「亀山が先生を連れて行っちゃったの! あいつ、絶対許せない!」

「上月先生が……!? 亀山はどっちに行ったんだ……?」

「た、多分だけど、そこを少し下ったほうだと思う……。小さな泉みたいなのが下ったところにあるの」

「すぐに行く!」


 時間的余裕がない。斜面をほとんど落下するようにして、先を急ぐ。


 降りていった先に、たしかに水の音がした。

 ばしゃばしゃとかなり激しい音だ。

 亀山が上月先生の顔を水につけていた。


「あんたのことは絶対許さないからな!」


「おい! 亀山、やめろ!」

 俺の声にやっと亀山は先生の顔を泉から出して、近くに投げた。げほげほと先生はむせているから、少なくとも最悪の事態だけは防げたらしい。


「ったく、何度も邪魔しに来るな。正義の味方気取りかよ」


 亀山と対峙する。今、気づいたが、剣を二本帯剣していた。


「俺に恨みがあるのはわかるけど、先生は関係ないだろ!」

「あ? 関係あるよ。俺、一年の時から何度か付き合ってくれって言ってたんだよ」

 目が据わった顔で亀山がしゃべる。えっ、そんなことがあったのか。


「当然、生徒とはお付き合いできないって言われたけどよ。まあ、それは別にいいんだよ。でも、俺が出ていく前のこの女、明らかにお前に恋してますって目をしてたからよ。結局、自分の都合かよ。なら、嫌いってはっきり言えってんだ」

「はぁ? それは何かの間違いだろ……」


 俺は困惑した。まさかこんな事態でこんな気持ちになるとは思ってなかったが。

 でも、そういえば、上月先生を個人的に教えていて、ほのめかすようなことを言われたことはあったような気が……。


 ただ、上月先生が口を押さえて、恥ずかしそうな顔をしていて、まるでばれてしまったというような表情に見えて……。


「ほら、見ろよ。それがいわゆる雌の顔ってやつだ。きっちりお前に惚れてんだよ。元教育者っつっても全然公平じゃねえのさ。だから、謝罪させようとしてたんだよ」

「ふざけるなよ。お前が先生を攻撃していい理由なんてどこにもないだろ!」

「わかった。じゃあ、お前を攻撃対象にしてやるよ」


 亀山は上月先生を左手で抱えると、右手のナイフを突きつけた。ナイフまで隠し持ってたのか。


「余計なことすると、どうなるかわかってるよな? こういうの、一回やってみたかったんだよ」

 どこまでも下衆な奴だな……。


「島津君……逃げて……」

 上月先生が涙目で言う。恐怖で口がふるえているのがわかった。あるいはもっと複雑な感情で揺れ動いてるかもしれない。

「先生もつまんないこと言うなよ。こいつが逃げるわけないだろ。ここで島津が出ていったら、あんたがどんな目に遭うかよくわかってるだろうよ。なにせ、魔法が使えない空間なんだからな」


 魔法が使えない空間であることを亀山はわかったうえでここにいる、かなり厄介な状態だ。


「俺は学校を追い出された後、魔法使いそのものを憎んで生きてきたんだ。で、魔法使いを殺すには何がいいかを考え続けた。その結果が、帝国の側で戦うってことだったんだよ!」


 帝国としては使い勝手のいいコマだろう。目的がはっきりしてるわけだからな。

 いや、落ち着け。ただの素人なら帝国も使おうとはしないはずだ。おそらく、亀山はどこかで剣技を身につけている。


「俺と戦いたいなら、正々堂々とやれよ」

「は? 俺は復讐が目的であって、正々堂々とやるつもりなんてねえ」

 亀山は手際よくナイフを操ると、先生の制服を切り裂いていく。ブラみたいなものが見えた。

 そこに亀山が手を入れようとする。


「やめろ!」

「それで誰がやめる? お前こそその物騒な剣を捨てろよ。上月が犯されるところを見せ付けた後で斬り殺してやる。おっと、余計な真似したら、とっととこいつを殺すからな?」


 亀山を先生から引き離すのは必須だ。

 亀山は人質である先生のことなんて何も考えてはいない。まったくためらわず傷つけるおそれがある。


「さあ、剣を捨てろよ。でないと、安心できねえからな」


 どうする?

 ここで剣を捨てれば、打てる手が大きく減ってしまう……。


 何か、何かできることはないか?

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