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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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47 アーシア、褒めまくる

 その日は姫に呼ばれたこともあって、部屋でアーシアと出会うのが遅くなった。


「なかなか大変だったようですね。でも、それは時介さんが姫に信頼されてる証しでもありますから、ポジティブに受け止めましょう!」

「ゲームの相手をさせられてただけって気もしますけどね……」


 手を抜いて負けようかとも思ったけれど、そういうことだけ姫は鋭いのですぐばれた。姫は人間に対する洞察力は相当なものなのだ。なのに、なぜかゲームの盤面だとそれが働かないらしい。


「それで、ちょっと肩が腫れたようになっているのはなぜですか?」

「イマージュと特訓をつけてもらったんです。全力で叩かれたわけじゃないですけど、肩を何度もバシバシやられたんで……」

 俺は簡単に練習の話をした。


「なるほど~。やはり、あの方たちはわかってらっしゃいますね。そんな方を護衛に選んでいる姫もわかっていらっしゃいます」


 何かアーシアは感じ入ることがあったらしい。


「イマージュの動きの秘密が何かわかるんだったら教えてください」

 次に稽古をつけてもらう時は前回よりいい結果を出せないと恥ずかしいというのもある。あと、俺だって見返してやれるものなら見返してやりたい。すぐに実力差が逆転すると思ってるほど舐めてはないが、一度ぐらいイマージュの攻撃を防いで、反撃に出たい。


「時介さん、剣技は魔法とはその点が違うんですよ」

 ノンノンと指をかわいく振るアーシア。ただし、すぐにやけに真面目な顔になって、

「たしかに魔法の場合は、知識が必須でした。知識ナシでは絶対に魔法というものを使えませんからね。なので私が教えてあげることができればそれなりの意味があったんです」

 こんな説明をはじめた。これは俺にちゃんとわかってもらおうって時の顔だ。


「ですが、剣技の場合はそうではないんです。一言で言えば、知識という形で知っていても今の時介さんは対処できません。むしろ、余計な知識が成長の邪魔になることだってありえます。なぜかというと、人間の体というのは意識しているとおりには動いていないんです」

 とにかく、アーシアが俺にわかってもらおうと頑張っていることははっきりとわかる。


「ここはもう少しこの私と付き合っていただけませんか?」

「先生にこう言われたら、断る選択肢なんてないですよ」


 これまでアーシアを信じて裏切られたことなんてない。だから、素直に特訓一緒にメニューをやるだけだ。アーシアと一緒に特訓を積めば俺は必ず報われる。


「それじゃ、また走っていただきましょうか!」


 その日も俺は大股で走って、くたくたになった。ただし、前日よりは長く走った。一日で体力がついたなんてことはない。つまり意地だ。


「はぁはぁ……少しでも成長してやるぞ……」

 結局、疲れて芝生に倒れこむわけだけど、まだ達成感があった。少なくとも無様という感じはなかった。

「時介さん、すごいですよ! ちゃんとパワーアップしてきますね!」

「昨日がしょぼかっただけっていうのもありますけどね……」


「そんなことありません。はい、お水です」

 アーシアの手にはいつのまにか水をたたえた銀のカップがある。

 俺はそれを受け取って、勢いよく飲む。ちょっと口の横からこぼれたけど、たいした問題じゃない。だいたい、どうせ服は汗だらけだ。濡れてもかまわない。


「この水、おいしいですね」

「精霊が出す水ですからね。何の濁りもないものですよ。汗をかいて水をたくさん飲むことは悪いことじゃないですから」


「でしょうね。さてと――」

 俺はまた立ち上がる。

「今日はもう一本いきますよ。余裕があったらさらにもう一本」

「時介さん」

 アーシアは一瞬だけ、狐につままれたような顔になっていた。

「どれだけ真面目なんですか! 真面目すぎて褒める言葉がなくなりそうですよ!」


 微妙にアーシアに逆ギレされた。

「だって、俺、神剣を使えるような伝説の魔法剣士になるのが夢ですから。そのための神剣ゼミなんですし」

 きっと俺は達成感の虜だ。どんなに苦しくてもアーシアとやっていけば強くなれる、すごい景色が見れる。そう思ったらつらくても、しんどくてもやめられなくなるのだ。


「時介さん、本当に偉大な魔法剣士になれると思いますよ。無責任かもしれませんけど、私がマナペンの精霊として保証します」

 アーシアの目は笑っていなかったから、本音なんだろうな。


 そのあと、三回は全力で走った。初日からの進歩という観点で見れば悪いものじゃなかった。そのうち大股で走るのが当たり前になるだろう。


 翌日、足に多少の筋肉痛は残っていたが、疲労というほどのものはたまっていない。

 走るのが日常になってくればいい感じに成長できるはずだ。なにせ日常化するということはそれが自然だということだから、努力しようという意識すらそこに入れなくてすむ。


 その日も午前中に上月先生がやってきて、魔法を教えた。正直なところ、教科書レベルのことはもうほぼ完璧に理解していると思うので、あまり追加で教えることもない。


「ここからは実践ですね。仕組みはほぼ理解しきってますよ。仮に知らないことがあっても、これまでの土台から考えていけば答えにいきつくと思います」

「ありがとうございます。私もそんな気がしてたんです。壁が壊せたというか、これまでは暗記していたものが、なんでそうなるかがちゃんとわかったうえで覚えられるんです」


 先生は高校生どころか小学生みたいに邪気のない表情でにっこりと笑う。


「上月先生は誰に言っても恥ずかしくない目標がありますから。そういう人間は強くなるんですよ」

 先生は元生徒を守るために魔法を覚えようとしている。だから、なんとなくで覚えてる奴より呑み込みがいいのは当然だ。

「それは体験談ですか?」

 すぐにそう聞かれて、気恥ずかしくなった。


「一般論ということにしておいてください……」


「じゃあ、そういうことにしておいてあげますね」


 アーシアから見たら俺も上月先生も似てるんだろうな。

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