表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/119

42 新たなる決意

 王であるハルマ24世は夜中に離宮から帰ってくるなり、俺達、姫側の関係者をまとめて謁見の間に集めた。

 俺達は狐につままれたような気分だった。ぶっちゃけ、不可解な点が多すぎる。もっとも、王もそれを説明するために呼んだらしいが。


「皆には苦労をかけさせた。実は、これは国を一本化するための危うい大芝居じゃったのじゃ。わしが死んだという一報を聞けば、息子が動くかもしれんなと思ってな。帝国とつながっているという噂はあったが、裏がとれなかった」


 つまり、王は最初から皇太子を排除するために、自分が死んだというデマを皇太子側だけに流したというわけだ。

 城から遠い離宮で崩御したという話にしたのもデマだと確認されづらくするためだろう。

 そういえば、近頃の王は病弱で杖をついているという話だったが、全然衰えている様子もなくて、足元はしっかりしていた。すべてデマのための布石だったらしい。


「わしが死んだと聞いた途端に兵を使って身内を殺すような人間には王位はやれん。まして帝国とつるんでおったとなるとなおさらじゃ。カコよ、お前が殺される恐れもあったが、今、やらねば事態はもっと深刻化すると思った……」


 王は姫に深く頭を下げた。自分の子供が死ぬかもしれない芝居をやったのだから、罪悪感もあるだろう。


 王族が一族間で殺し合うのはどこの世界でも珍しいことじゃないが、やる側も平然とはしてられないだろうな。


「たしかに、わたくしがお兄様に殺されても、生きているお父様が戻ってくれば、お兄様は妹を殺した犯罪者というレッテルを貼られて身分を剥奪されますね。王位は別の弟や妹のものになりますが、少なくとも王国内の大規模な内乱は防げます」


「うむ、すべては国のためとはいえ、親としては許されぬことをした……」


 俺としてはその立場になったことはないから感想しか言えないが、王族というのは業が深いなと思う。


「しかし、これで王国にたまっている膿は一掃できた。それだけは間違いない収穫じゃ。カコよ、お前を皇太子に任命する」

「謹んで拝命いたします」


 姫が王の前にひざまずいた。


「クーデターは短時間かつ小規模で終わったので、お兄様の派閥でも実際に動いた者の数は知れています。できうる限り寛容さをお示しになって、彼らが王国に対して変わらぬ忠義を誓うように取り計らっていただければ幸いです」

「うむ。大半の者は利権のためにバカ息子と癒着していたのじゃから、その利権が消えた今、素直にこちらに従うであろうしな」


 こうしてハルマ王国は分裂の危機を回避して、一本化した。

「バカ息子を利用しようと考えていたセルティア帝国との関係はきっと悪化するじゃろう。もしかすると、帝国と戦う日もそう遠くないかもしれぬ。その時には、お前達の力をまた貸してほしい」


 今度の敵は国の外側か。

 いよいよ、俺は戦争に出ていくことになるんだな。

 でも、やるべきことは決まってる。

 そばにいる大切な人を守る。それだけだ。


「それと、わたくしからもう一つお願いがございます」

「ふむ、カコよ、どうした?」


 姫がちらりと俺のほうを一瞥した。


「わたくしがお兄様に斬り殺されそうになった際、身を挺して守ってくれた魔法使い、島津時介さんに勲章と爵位を。それぐらいしかわたくしから報いる術がありませんので」


 あっ、そういうのは考えてなかった……。


「よかろう勇武勲章と、バカ息子の土地の一部を割いて子爵位を授けよう。細かいことは追って通達する。島津殿よ、娘のために戦ってくれたこと、どれだけ感謝してもしきれぬぞ」


 どうやら、近いうちに俺は貴族みたいな立場になるらしい……。


「いえ、俺はやるべきことをやったまでのことですから……」

「もし、カコが皇太子でなくて、政治的価値もない娘だったら、君の妻にしてやってもよかったのだがな」

「お父様、おふざけが、す、すぎますから……。れ、恋愛感情は冗談に使うものではありません……」


 姫は顔を真っ赤にして、抗議していた。

 多分、俺も顔は赤くなっていたと思う……。



 徹夜明けだが、頭は想像以上にはっきりとしていた。

 今日の授業はさすがに中止だからすぐに寝てもいいのだけど、その前に報告しておきたい人がいる。


 マナペンを握り締めて、「出てきてください、先生」と呼んだ。

 すぐにアーシアが部屋の中に現れた。


「とんでもない一夜でしたね。まずは、時介さん、本当にお疲れ様でした」


「うん、とことんまで疲れました。だけど、魔法使いとしてやるべきことがやれたかなと思います」

「はい、魔法の力で人を守る――あの時介さんの目標が見事に達成されましたね!」


 神剣ゼミをはじめたばかりの当初、俺は自分のため、上に行くためにしか勉強も魔法も考えてなかった。

 それがある時から、人を守るために強くなろうというものに変わった。理由はそんなに複雑なものじゃない。アーシア、上月先生、サヨルさん、それにカコ姫――俺のことを見守ってくれる人のやさしさに触れたからだ。だから、俺も誰かを守りたいと思った。


 でも、これで神剣ゼミは終わりじゃない。

 もう、次のステップに進むべき時だ。


「アーシア先生、俺に今度は剣技も教えてください。もう、授業でも木剣を使った練習がはじまってますし」

 神剣ゼミは魔法剣士を育てるためのものだ。魔法使いだけでは足りない。

「いよいよ、本格的に魔法剣士を目指すことにしたわけですね!」

 アーシアは満面の笑みで喜んでくれる。


「はい! 誰かを守るには剣の腕も必要になってくるはずですから!」

「どこまでも時介さんは優等生ですねー! もう、かわいすぎます!」


 それで何度目だろう。また、アーシアに抱きすくめられて、ベッドに倒された。

 その大きな胸が密着してくる。うん、もう何度目かって話だけど、やっぱり平常心でいられなくなってくる……。

「先生! これ、先生のことを先生って思えなくなってくるから、やめてください……」

「時介さんが立派なんですもん!」

 くそっ……。神剣ゼミに保健体育があれば……!

 …………いや、それじゃダメだな。ほかの教科に絶対に気持ちが入らなくなる。


 俺は悶々としながら、赤ペン精霊の愛の重さと残酷さを感じていた。

次回から剣士修行編に入ります! 魔法使い編、最後までお読みいただきありがとうございました! 明日は一日お休みをいただいて、その次の日から43話に入る予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ