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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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21 犯人退治

けっこう、バレバレな展開だったようですが、やっぱりこういう形になりました(笑)。

 口が動かないことに気付いた……。


「お前がいくらすごいといっても、魔法を詠唱できなきゃ何もできねえだろ。別に腕力が強いわけでもないし、こうなったらタダのガキだよな」


 亀山が楽しそうに言った。

 しまった……。発声できないと魔法は発動しない。


 ちょっとでも口を動かせればとあがいてみたが、徹底して口をふさがれているらしく、まったく動かない。むしろ、鼻をふさがれてなくてよかったと思ったぐらいだ。そしたら、確実にもうあの世逝きだった。


「俺はどうやってお前を殺すか考えてたんだよ。剣技の実習で刺し殺すってのが最初の案だったけど、真剣の実習はかなり先らしいし、それまでデカい顔されるのも腹が立つしな」


 こいつら、本気なのか? 俺を殺したって証拠を隠すような方法なんてそうそうないだろうに……。自分たちの未来がどうなってもいいってことなのか?


「お前が何を考えてるかわかるぜ。証拠が残るから殺せねえって思ってるんだろ。お前の後ろ、何か聞こえねえか?」


 水の音。

 そうか! ここは川の水を引き入れているほりだ。


 ここに沈められたら、そのまま死体は流されていく――のかどうか、流れの強さや流れる場所を細かく調べたわけじゃないけど、こいつらはそれで証拠が隠せると考えてるんだろう。

 それで死体が見つかろうとどうなろうと、俺としては殺されたら終わりだ……。


「ここでリンチして殺した後に水に流してやるよ!」


 ドゴッ!

 脇腹を蹴られた。


 むせることすら、紙がしっかり張り付いてるせいでできない。


 ヤバいぞ……。回避方法がない。もう、夜も遅いし、こんな時間に出歩く奴もいないだろうし……。


 また蹴られる。

 パニックになりそうな自分を叱りつける。

 どうしていいかわからなくなれば、それだけ助かる可能性を考えつくチャンスも減るんだ。


 何か、いい方法があるはずだ。

 痛みに耐えながら考える。


 案はすぐに出てきた。


 無詠唱の魔法。


 それなら口が動かせなかろうといける。


 炎よ、出ろ! こいつらを焼いてくれ!


 必死に念じたが何も現れない。おそらく、こいつらは俺が何かやろうとしてることすら気付いてないだろう……。何か画策してるってばれないのはありがたくはあるが、それってつまり何も起こってないわけだ。


 だよな……。これまで無詠唱の魔法が使えたことなんてないもんな。こんな土壇場で成功するほど、甘くない……。


 きっと、炎のイメージが抽象的なんだ。具体的でないとダメなんだ。

 だけど、具体的な炎というものがよくわからない。火事を思い浮かべても効果はない。


 悩んでいる間にも蹴られる。あと、数分のうちにどうにかしないと蹴り殺されてしまう……。


 何か。


 何かないのか。


 そして、ふっと、頭にとあるものが思い浮かんだ。


 炎――という漢字。


 いやいや、文字なんかじゃ……。


 待てよ……。


 漢字ってある意味、具体的と言えば具体的だよな。いろんな燃え方の炎はあるけど、炎って漢字はそういう字だし、書き順も画数も見た目もだいたい固定している。


 炎という絵を描いてくれと言われて人が描く絵は千差万別だけど、炎という漢字を知ってる奴に字を描かせれば、形もほぼ全部同じになる。


 いけるかどうかはわからない。でも、燃えているもののイメージよりはマシだと思った。とにかく、試せ。


 ファイアだと状況が打開できないかもしれない。

 より威力の強いフレイムの詠唱文字を頭に思い浮かべて、さらに炎という漢字をそこに加える。炎という漢字で埋め尽くす。


 いけっ! こいつらを焼き尽くしてくれっ! フレイム!


 俺の前か火炎が出て、その時、前にいた川西に直撃した。


「うあぁっ! 焼けるっ! 焼けるっ! 死ぬっ!」


 出た。

 今、間違いなく、俺は無詠唱で炎を出した。


「おい! どうなってるんだよ……。口はふさいでるだろ……? 詠唱なんて聞いてねえぞ!」

「その前に川西の火を消せ!」

「濠に入れろ! 濠だ!」


 残りの三人が混乱する。俺を蹴る足も止まる。

 やれる。同じことを繰り返せ。


 よし、さっきと同じ要領だ。


 頭に「炎」という形を思い浮かべる。


 表意文字を知ってるからこそできる裏技だ。この王国の文字はアルファベットみたいな表音文字だからな。


 亀山の横にいた多田っていうやつにフレイムをぶつける。

「うあぁっ! あちぃっ!」

 すぐに多田が火だるまになった。


「何がどうなってんだ? 口はふさいでるし、誰か遠くから攻撃してきてんのか?」

「わからねえ! とにかくヤバいってことは間違いない!」


 ラッキー。俺が攻撃してることすら、わかってないんだな。そりゃ、詠唱なしで魔法が使えるって発想がないもんな。

 しかも、普通なら俺に意識が戻った時点で、その力を使ってるはずだ。なぶられてる途中にその力に目覚めたなんて考えつかないのはしょうがない。


 次は曽根だな。喰らえ。

 逃げ腰だった曽根が燃え上がる。


「うあぁぁぁぁ! 水、水!」

 そのまま、焼けながら濠に飛び込んでいった。


 残りは亀山一人か。


 もうすっかり亀山は怯えきっている。


「くそっ! こうなったら、島津、お前も道連れ――」

 バカ野郎。やられるのはお前だけだ。


 ためしにフレイム以外も使ってみるか。


 ――風よ、轟きとなり、薙ぎ払え、渦を作り、巻き起これ 嵐ともなれ。


 頭に詠唱を刻む。

 そこに竜巻の漢字を置く。


 ハリケーン!


 魔法はまた、ちゃんと発動した。

 竜巻が亀山を飲み込んだ。

 詠唱で出したやつよりは一回り小ぶりに見えたが、亀山一人をつぶすには充分すぎるサイズだ。


「た、助けてくれええええ!!!!!」


 そんなこと言われても一度、竜巻に入っちゃったらどうしようもないんだ。

 亀山はそのままはるか遠くまで吹き飛んでいった。


 決着はついたな。

 お前らのおかげで無詠唱を開発できたぞ。それには礼を言っとくぞ。しゃべれないけど。


 ああ、でも、縛られてることは解決できてないんだよな……。

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