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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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20 無詠唱の特訓

 練習は代わり映えはなかったが、ほかの部分はちゃんと変化があった。


 まず、ゼミのプリントは実戦を前提とした効率のいい魔法の使い方だとか、便利な魔法が何かといったことが問題になっていた。

 これ、敵をいかに倒すかがそのまま問題になっている。


 あと、授業も進んでいくわけで、そっちではまだまだ俺の無双ぶりが発揮されていた。

 空き時間に教科書も確認しているが、当面は何も悩むところはなさそうだ。


 俺のところに授業内容を聞きに来る奴も相変わらず多いので、昼食の時間はもう補習扱いになっている。昼食も説明しながら食べられなくもないサンドウィッチが中心になっている。

 というか、この世界、サンドウィッチはちゃんとあるんだな。まあ、パンの間に何かをはさむ料理なんだから、誰か思いついてもおかしくないか。


 最近だと「島津君」じゃなくて「先生」とナチュラルに呼ぶ生徒まで出てきた。一応、俺としては同級生として接してほしいんだけど、立場が違うからしょうがないか……。


 クラスメイトとの距離自体は確実に縮まってるしな。

 男女問わず、優等生グループは俺に気さくに話しかけてきてくれるようになったし、俺も壁も感じずにしゃべれている。俺に教わる生徒みたいなポジションになっちゃった奴らとは話す時間が増えたから、これも仲良くなった。


 俺が先生の役目を果たしているからこそ、クラス内にある複数のグループと仲良くなれているらしいのだ。これもすべて神剣ゼミのおかげだ!


 ただし、世の中、すべてが上手くいくとは限らない。日本に住んでた頃、読んでいたゼミの漫画では描かれない問題もあったのだ。


 亀山とその仲間たちだけは、余計に俺と距離をとっていた。

 きっとわからないところもあるだろうに、意地でも俺には頼らないらしい。

 とはいえ、壊滅的にそいつらの成績が悪いわけでもないから、自分たちの中で勉強はしようとしているんじゃないだろうか。


 それなら別にいい。どんなクラスにだってそこまで教師にべったりじゃない生徒はいるだろうし。


 だけど、クラスメイトのほうからは注意をされた。

 教官助手をやってまるまる二週間が過ぎた日のことだ。なので、無詠唱の練習も二週間ほど経っていた。結果はまだ遠い。


「あのさ、島津先生、ちょっと気をつけたほうがいいよ」

 放課後、女子の中でも一番俺に質問をしてくる生徒の一人である高砂たかさごさんが小声で言ってきた。ツインテールがよく似合っている子で、男子からの人気も高い。


「気をつけるって何を?」


「亀山たちのグループ、先生を敵視してるみたい。あいつら、クラスのヒエラルキーの上だったのにそれを先生に持ってかれちゃったから」

「といっても、寮住まいだから俺の部屋だけ放火するわけにもいかないし、大丈夫だと思うけど」

「だったらいいんだけど……亀山たち、中学の時、グループでイジメみたいなこともしてたって言うし……。首謀者は違う生徒だったらしいけど、あいつらも何やらかすかわからないっていうか……」


 そういえば、市内の中学でけっこう問題になった事件があったな。もしかして、怖いグループともつながりがあったのか。


「一応、気には留めとくよ。ありがとう、高砂さん」

「あっ、先生、もう呼び方、理奈でいいよー」

 女子を下の名前で呼ぶ……ちょっとドキドキした。

「わかった、理奈……」

「うん、またね、先生!」


 俺がリア充グループを新たに作ったなら、攻撃されたり恨まれるのもわかるんだけど、先生って立ち位置だからなあ……。ちょっと、例外ケースな気がするんだけど。


 その日の練習も俺は無詠唱を夜に行っていた。

 しかも、アーシアとの練習の放課後――寝る前にもう一度演習場に出てやっていた。

 絶対に無詠唱をものにしてみせる。その覚悟を示すためにもこの三日ほど、寝る前にも練習を入れていた。

 あと、集中力が必要なので、だらだらと長時間やるのは逆効果というのもあった。

 なので、アーシアとの練習時間自体は延長せずにすぱっと切り上げて夜遅くに再度チャレンジする方法をとっているわけだ。


 正直、もうちょっと成果が見えればいいんだけど、それがわからないのが無詠唱なのでしょうがない。そこに文句を言うのは、どうしてキャベツはキャベツの味がするんだと言ってるようなものだ。炎一つまだ出せない。


 プリントに書いてあったコツはすべて踏襲してるつもりなんだけどな。詠唱も頭にぱっと浮かぶようにしてるし。

 足りないとしたら、まだ抽象的なイメージしか頭にないってことなんだろうか。とはいえ、炎は炎だからなあ。固体の炎なんて存在しないし……。


「あっ、まだやってるんだ」


 ――と、そこに川西かわにしという男子のクラスメイトが木々のほうから顔を出した。


 こいつは亀山のグループだから、ほとんど接点はないんだけどな。それでも、夜に顔を合わせれば声ぐらいかけるか。


「ああ、ちょっと、特殊な魔法の練習をしてるんだ。なかなか難しいんだけど」

「そっか。あのさ、オレの魔法で見てほしいものがあるんだけど、いいかな」

「別にいいけど」


 一対一なら勉強を教えてほしいってことなのかな。グループのしがらみも今ならないしな。


「大地に割れ目を作る魔法なんで、下見といてくんない?」


 言われたままに地面を見た。

 そういう魔法は確かにある。地面系の魔法はそこそこ力を使うし、ハードル高いはずなんだけどな。サヨルさんでもそうたいしたひび割れは作れないし、俺も得意とまでは言えない。見た目はかっこいいけど、まだ川西ができるような――


 ゴンッ!


 鈍い音が耳の近くで聞こえて――俺はそのまま意識を失った……。



 背中に痛みを感じて目が覚めた。


 俺は縄で縛られて、口も糊のついた紙でふさがれていた。


「縛られてる気分はどうだ? 教官助手さんよ」


 亀山が俺の正面にいた。その横にへらへら笑ってる川西も立っている。亀山と川西を入れて相手は四人。


 川西に殴られて気絶してたのか……。


 けど、こんな奴ら、魔法でいくらでも――


 口が動かないことに気付いた……。

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