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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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19 無詠唱魔法

 プリントを終えると、アーシアが出てきた。


「さあ、では、採点をしますね」


 赤字で○と×が、ぱぱぱぱっと表示されていく。


「この『( )が文字として頭に刻み込まれている』っていうのは、何が答えなんですか?」


「そこは『詠唱の文句』が入ります。頭の中に巨大な石板があると考えてください。そこにその文句が全部刻まれてあって、一目でそれが見れる。そういうイメージが持てると、頭の中で見たことがそのまま詠唱の代わりになっていくんですね」


「あっ、なるほど。速読法みたいなものですね」

「ですね。間違ってないと思いますよ」


 そのページに書いてある文字を読むのではなく写真の画像みたいに見る方法で処理するのが速読法の基本であるはず。

 そうか、たしかにそれができれば時間は短縮できる。


 問題自体はだいたい正解だった。知識を問う部分がないからだ。


「このプリント、戦闘で使うための内容ですね」

「そうですね。そこが特進コースの特長です。なので、プリントもこのあとの実践編とセットみたいなものです」

「そっちもお願いします!」


 俺は無詠唱の練習に野外に出た。


「あの、最近、かなり時介さんが注目されていますし、時介さん以外に私が見えないような魔法を使っておこうと思います。ルール違反をやってるわけでもなんでもないんですけど、私の説明が面倒そうですし」


「はい、それでお願いします」


「ではインヴィジブルを使っておきますね」


 アーシアの姿が半透明になる。体の奥に木が見えていた。


「俺からは見えるってことでいいんですよね?」

「はい、大丈夫です。時介さんが見えるのは、最初から私の存在を知っているからです。そうでなければ、目には映りませんよ」


 原理はよくわからないけど、そこは魔法だから科学的に説明しようとすること自体がナンセンスなんだろう。


「声は聞こえてしまうので、声もトーン落としてしゃべりますからね。ご了承ください」


「はい。わかりました!」


「まずは、ファイアから行きましょう。簡単な魔法を無詠唱というルールでおさらいするつもりでいきましょう」


 よし、それぐらいならコツがわかればすぐにやれるはずだ。


 ――そのはずだったのだが……。


「あれ……。何が悪いんだろう……」


 三十分後、あまりにも上手くいかないので、俺は草の上に腰を降ろした。


 無詠唱の魔法にずっと挑戦したのだが、灯かりの明滅一つ起きていない。


「そうですね、ちょっと休憩したほうがいいですね。意識が散漫な状態でやれば成功率も当然下がってしまいますし。気持ちを落ち着けて再度練習ですね」


 アーシアはとくに残念そうでもないから、おそらくすぐに成功しないのは規定路線だったのだろう。


「無詠唱はいわば達人の技みたいなものですからね。一朝一夕にはいきませんよ。だからこそ、使えるようになれば、その時点で相当な魔法使いだと認識されるわけです。しかも、たんなる自慢の種にとどまらず、実際にとても有益な技術です」


「ですよね……。三十分やるだけで習得できるなら、みんな無詠唱で魔法を使うようになってなきゃおかしいですもんね……」


 わざわざ難しい特進コースにしたのだから当たり前かもしれないが、初めて挫折らしい挫折を神剣ゼミで覚えた気がする……。


 あと、普通の練習と違って、無詠唱なのでもちろん声に出さない。つまり、静かなのだ。じっと突っ立っているだけなので、自分でも練習してるのかしてないのか、よくわからなくなる。


 そっか……。練習してるかどうかもわからなくなってるようじゃ、魔法なんて発動するわけないや。


 結果的に詠唱の価値を実感した。口に出すだけで自然と集中できちゃうもんな。


「成果が見えないから大変ですよね」

 俺の横にアーシアも座る。体操座りだ。こっちの世界だと違う表現かもしれないけど。

「ですね。自分は何をやってるんだろって気になります……」


「だから、無詠唱ができる人は少ないんですよ、時介さん」

 トリックでも教えるようにアーシアがしたり顔で言った。


「無詠唱は形になるまで、ものすごくバカらしいことに感じるんです。しかも、あと何日、何週間、何か月、これを続ければ報われるのかさっぱりわからない。なので、よほど覚悟のある人か、あるいは自信のある人でないと、練習自体を投げ出してしまうんです。なので、無詠唱が使える人も限定されてくるんです」


 目からウロコが落ちた気がした。


 空しいから嫌になっていたけど、だからこそ、やる意義があるんだ。その空しさをこらえたあとに、すごい収穫があるのだから。


「ちなみに、先生、これってどれぐらいかかりそうなものなんですか?」


「ひとまず、一か月間の練習を予定しています。それで上手くいってないなら、別の方法を試してもいいですし、無詠唱を後回しにしてもっと別の魔法を覚えていくのに戻してもいいですから」


 特進コースは誰でもがやりとおせるものじゃない。撤回するという選択肢が与えられるのは自然なことだ。でも――


「俺、とことん無詠唱を練習しますから」

 俺はそう断言した。

「魔法の大原則は基礎がしっかりできてるほうがその後が楽ってことだから。ここで無詠唱で魔法が使えるようになれば、結果的にそこから先の部分がずっと楽になるはずなんだ。だったら俺は我慢するよ」


 ここまでがとんとん拍子すぎたんだ。そろそろ腰を据えてもいいだろう。

 それに、成長っていうのは正比例のグラフみたいにどんどんは行かない。必ず、踊り場も出てくる。そこを粘れるかどうかもきっと俺がもっと強くなれるかを左右する。


「うわ~、時介さん、偉いにもほどがありますよ!」

 アーシアが体を動かしたかなと思ったら、また抱きつかれていた。そのまま、草の上に俺は倒れる。

 あっ、精霊っていい香りがするんだとその時、不覚にも思った。


「高みを目指すために苦難を厭わない、もう時介さんは生徒の鑑です!」

「先生! こういうのは勘違いしそうになるからやめてくださいよ!」


 こんなに抱きついてくるのに、恋愛はしちゃいけないなんてひどいにもほどがある……。


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