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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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15 先生に教える

「勉強、教えていただけませんか、島津、先生……」


 あっ、告白ではなかった。

 むしろ安心したって言ってもいいけど。ありえない話だけど、今、上月先生と付き合いでもしたら、とてつもなく男子からの目が冷たくなる。男子全員の敵確定になる。あくまでも自分は生徒なので、そういうのはつらい。


「勉強ですか? はい、別にいいですけど」


 すごく、ほっとした顔になる上月先生。どこに緊張する要素があったんだ?


「よかった……。私もちょっとずつわからないところが増えてきて困ってたんだ……」


「わからないなら、休憩中とかに聞いてもらってもいいんですよ。とくに昼食は時間もたっぷりあるんで、多分明日も補習みたいな時間になるし」

「だ、だって、ほら、私……元教師だから……元生徒に聞くのって、ちょっと恥ずかしい……かなって……。ご、ごめんね、勝手なこと言って……」

「いえいえ! そうですよね! 抵抗もありますよね!」


 ちょっと前まで教壇に立っていた側だもんな。元生徒に教わりづらいよな……。


 俺は少し背筋を伸ばして、胸に手を置いた。


「わかりました。とことんレクチャーしますんで、わからないところはどんどん言ってください」


 それで上月先生の表情もちょっとゆるんだ。


「あっ……ありがとう、島津君――じゃないか、島津先生」

「いや、そこは島津君でいいですけどね……。明らかに上月先生のほうが年上なんですし」

「と、年上って言っても数年ですから! 誤差です! まだ二十代前半です!」


 先生扱いして敬ったつもりなのに地雷を踏んでしまったらしい。これ、正解が難しいな……。かといって多分、露骨に生徒扱いしても上月先生、嫌だろうしな……。

 ある意味、魔法の勉強よりはるかに難しい。


「ごめん……ここで文句言ったら島津君……島津先生も困るよね……」

「もう、そこは島津君でいいです! 毎回、言い直すの面倒でしょ!」

「そうね、島津君」

「はい、それでいいです。じゃあ、奥の机で――」


 そこで俺は机を見て、ちょっとためらった。

 寮の部屋はいわゆるワンルームなので、机の真後ろはベッドなのだ。

 二十代の女性を教える場所として適切なのか。いや、はっきりと不適切だ。


「あの、勉強場所、俺の部屋が嫌ならほかの場所でもいいですよ。ほら寮の階段横に丸テーブル置いてますし」


 共用スペースに生徒同士がしゃべったりできるような空間が置かれているのだ。たしかに誰かの部屋に毎度集まるというのではハードルが高いからな。このあたりのことは王国側もよくわかっている。


「ここでいいよ。むしろ、ここのほうがいいかな……」


 顔を赤らめて目をそらす上月先生。これは本当に好かれてるのか……!?


「ほら、共有スペースだとほかの生徒の子も通るから……。私が元教え子に教わっているって茶化されるだろうし……」


 ですよねー。すぐに余計な期待を抱くのはやめよう。


「じゃあ、早速はじめましょう。習ってる範囲でなら多分どんなことにも答えられると思います」

「うん、お願いするね、島津君」


 にっこりと上月先生は微笑んだ。その笑顔、守りたい。


 椅子が一つしかないのが難点だけど、そこは俺が立つことにした。授業だって教師側が立って教えるわけだし。


 上月先生は教育者だっただけあって、基礎的なことから次々に質問してきた。

 やる気があるのか、勉強のコツをつかんでるのか、どっちかだろうな。


 魔法は知識も重要だけど、実践が前提なところはスポーツに近い。素振りが雑では、テニスでいい結果が出せないようなものだ。


 今の段階で基礎を鍛えようとすれば、魔法使いとして成功する可能性も高くなる。


 俺も休憩時間よりは気合を入れて教えた。自分の部屋で時間もゆったりあるので精神的にも余裕がある。


 神剣ゼミに書いてあったようなポイントもできるだけ加えていく。

 これは俺のためでもある。口に出して人に教えれば、記憶の定着率も強化される。


「すごいね、島津君。本当にすごい」

 一段落ついたところで、上月先生にそう褒められた。

「本物の塾の先生みたい」


 ちょっと、ぎくりとした。

 もしかすると俺の教え方、アーシアっぽさが混じっているのかもしれない。


 塾の教師の教え方は学校の教師の教え方と比べると、相対的に実践的だ。頭によく残って、役に立つことを意識している。

 学校の教師は正統派というか、一つずつ事実をこっちに説明してくるスタンスが多いが、あれだと生徒自体に興味や関心がないとなかなか身につかない。


「上月先生にそんなふうに言われると照れますね……」

「私もすっかり生徒になっちゃってたよ。教え子に教えてもらってるってことも途中から忘れちゃってたぐらい」

「だって、歳も近いですからね」

「もう……。わざわざそんなこと強調しないでよ」


 上月先生はくすくすと笑って、俺も一緒に笑った。


 そこそこきりのいいところまで教えたあたりで夕食を食堂で食べる頃合いになった。


「じゃあ、今日はこのあたりまでにしましょうか。一気にやりすぎてもまた忘れちゃいますしね」

「そうだね。また、島津君が空いてる時に来てもいいかな?」

「もちろん。だって、俺は教官助手ですから。勉強したい意欲のある生徒は喜んで教えますよ」

「本当に、完璧に立場が入れ替わっちゃったな」


 ショックを受けたふりをして、上月先生はいたずらっぽく笑った。

 これ、確実に今日だけで好感度上がってるぞ。ほかの男子には絶対に知られないようにしないと……。


「ありがとうね、また来るから!」


 上月先生が出ていったあと、机のほうに目をやるともうアーシアが現れていた。


「なかなかきれいな方でしたね~。もしかして、あの方に気があるんですか?」

 ちょっとにやにやしてアーシアが聞いてきた。

「う~ん、はっきりそう聞かれると難しいですね……。これはむしろ男子の本能っていうか……」


 若い女の先生が近くにいたら、みんなそこに意識がいくものだ。それはそうだとしか言いようがない。


 あと、なぜかわからないけど、アーシアにそう尋ねられた時、微妙に切なかったのだ。


 もしかして、この感情って……。


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