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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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13 教官助手の生徒

 俺がソファの後ろに顔をやると、教官助手のサヨルさんがいた。

 しかも、ちょっと恨みがましい顔をしている。

「あっ、サヨルさん……こ、こんにちは……」


 そうか、ここ、教官室だもんな。教官関係者はいるよな……。


「島津教官助手、こ、今後ともよろしくお願いします……至らない点があったら言ってください……」


 顔を赤くしてサヨルさんが言った。銀髪と赤い顔の対比が鮮やかだ。


「あ、はい、こちらこそよろしく……」

 そうとでも言うしかないよな……。

「きょ、教官助手が教官助手に負けてもおかしくはない……ですよね……?」

「はい?」

「おかしくないですよね!」


 ちょっと、大きな声で言われた。

「はい! 普通です! おかしくないです!」

「な、なら、いいです……」

 いったい何のやりとりなんだ、これ……。


「こほん」

 ヤムサックが空咳をしたので顔をそちらに戻した。

「面子というのはこういうわけだ。一生徒が教官助手に勝ってしまったのでは、教官助手としては恥ずかしい。だから、同じ教官助手ということにしたというわけだ。教官助手なら、もっと授業が進んだ時には優等生から抜擢されることもあるし、あまりにも異例というほどではない」


「な、なるほど……」

「もちろん、君に勝負を挑んだのがサヨルからだという話は聞いている。君は売られたケンカを買っただけだ。それに対する咎めは何もない」

 そこはサヨルさん、ちゃんと言ってくれたらしい。悪い人ではないようだ。


「ちなみに、君の教官助手就任は本日頭付けだ。なので、君は教官助手として教官助手と戦ったということになる」

「あれ? 教官助手に任命されたの、今さっき――」


「お願いだから、朝イチで教官助手だったことにして!」

 後ろからサヨルさんに懇願された。

「同僚だったことにして……。恥をかかせないで……。あなたの命令、何でも一つ聞くから……」

「軽々しくそんなこと言っちゃダメですよ! と、とにかくわかりました! わかりましたから!」


 こうして、俺は教官助手に出世してしまったのだ。


「仕事が増えないようなら、いいです。やりますよ」

「あっ、そうだ。教官助手はこれを着てもらう。制服みたいなものだ」


 ヤムサックが渡してきたのは、白いローブだった。サヨルさんが羽織っているものと同じだ。

 けっこうかっこいいが、これを授業中に着ると、俺だけ特別だぜって言ってるようなものだよな……。


「これはずっと着てないといけないんですか?」

「そうだ。授業中も着ていてもらう。まあ、あれだ。学級委員みたいなものだ。我慢してくれ」

 しょうがないか。着ないといけない決まりなんだってクラスのみんなには言うか。


「あとね、教官助手になると、いくつか特典があるの」

 後ろにいたサヨルさんが俺の席の横に座ってきた。


 それから、俺の膝に何か本を置く。教科書なんかよりはるかにいい装丁の本だった。

「これは王国図書館の教官だけが借りられるコーナーにある貴重な魔道書。こういう本を私達は利用できるの。教官助手はあくまでもプロの魔法使いだからね」


「なるほど。これはたしかにうれしいです」

 ぱらぱらとめくっても明らかに専門的なことが書いてあるのがわかる。

 まだ自分では理解も程遠そうだけど、面白そうという意識がたしかにある。


「それと、給料が出るよ。月に十五万ゴールド。それ以外に別途、仕事をこなしていくとその分のお金が発生するから」


「へえ、十五万ゴールド……十五万っ!?」


 給料としてはしょぼいかもしれないが、高校生にとったら文句なしの大金だ。

 なにせ俺達生徒は週に五千ゴールドもらえる程度だからな。月二万として七倍以上。五階級特進ぐらいの気分だ。


「最低限のお金が出る助手のポストに居座って研究を続ける人もいるし、どんどん仕事をしていって出世しようとする人もいるし、それは人それぞれかな。あなたの場合はとりあえずは生徒を続けるだろうからあまり関係ないだろうけど」


「十五万あったら何を買えばいいんだろう……。ダメだ、額が大きすぎて想像がつかない……」


 教官助手だなんて面倒なものにさせられたと思ったが、これだけお金がもらえるなら別だ。サヨルさんに感謝しないと。というか、すぐ横にいるんだから言えばいいか。


「サヨルさん、ありがとうございます!」

「な、なんか、逆に腹が立つ……。けど、あなたに負けた私が悪いんだよね……」

 サヨルさんは肩を落としてため息をついてから、割り切ったように、笑みを浮かべた。

「何かわからないことがあったら聞いてくれたらいいから。先輩の教官助手としていろいろ教えてあげる」

「はい、よろしくお願いします!」



 自分の部屋に戻った俺は、早速、アーシアに教官助手に任官したことを告げた。

 もう、絶対に喜んでくれることがわかっていたからだが、やっぱり無茶苦茶喜んでくれた。というか、また抱きつかれて、またベッドに押し倒される形になった。


「時介さん、これは偉大な記録ですよ! こんなにすぐに教官助手になった人はいないはずです!」

「うん。でも、神童だと思ったら歳をとったらどんどん平凡になっていったってケースもあるから、そうならないようにますます努力しないとな……」


「努力は人を裏切りませんよ!」


 もし、最初にアーシアに会った時にそんなことを言われたら、いや、それは努力で成功した人が言ってるだけで、努力してもダメな人もいるだろうって言いたくなったかもしれない。

 でも、今の俺にはわかる。正しい努力は結果もちゃんと伴うんだ。つまるところ、努力の仕方次第なんだ。


 そして、努力が報われやすい教育法をアーシアはずっとやってくれていた。


「じゃあ、今日の範囲を出してください。俺、しっかりやりますから!」

「はい! 今日からは治癒魔法について学びますよ! 治癒魔法が使えるのは一部の魔法使いの方だけですけど、その分、もし使えたらすごく重宝されますから!」


 まだまだ、勉強しないといけないことは山のようにある。

 一歩一歩、立派な魔法剣士を目指していこう。

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