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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第一部 神剣ゼミで魔法使いに編

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11 助手は超えた

 俺とサヨルさんは演習場から少し離れたところまで移動した。


 演習場はちょっとした林みたいになっているところもあるので、そこを通り抜けると、ほとんどその向かい側のことは見えない。


「あなたの様子を見せると、ほかの生徒のやる気をそぐから隔離させてもらうわ」


 やっぱり問題児扱いだな……。


「わかりました。次は何をやればいいですか?」


「そうね。授業は授業だから順番に魔法を試してもらいましょうか。次はフレイムを」


「わかりました。紅き炎の魂よ、今こそ熱を持ってこの世に現れよ――フレイムッ!」


 ぼわあっと大きな炎が上がって、消えた。

 フレイムはファイアよりは範囲や威力の大きな炎を出す。ファイアは火をつけるとか日常生活でも使えるが、フレイムになると業務用という感じだ。


「やっぱり、きれいな炎が出るのね。ねえ、あなた、実はこの世界で何年も魔法使いをやってたりしてないよね?」

「いえ、クラスまるごと連れてこられて二か月ぐらいですけど」

 ウソは何も言ってない。

「だとすると、天性の才能としか言えないのか……。じゃあ、次を……」


 俺はサヨルさんが指定した魔法を順番に実行した。

 当然、俺もあらゆる魔法が使えるわけじゃない。そもそも魔法には呪文の詠唱という概念があるので、それを知らないものは使いようがない。アーシアの次元になると詠唱も不要になるらしいが、その境地に達するのはもっと先だ。

 とはいえ、初期の実習で使うような魔法はほぼ極めていた。


「ふぅ……あなたの実力はわかった……。こんなこと繰り返しても何にもならない……」


 サヨルさんは深いため息をついた。


「授業内容を変更するから。今からあなたと私のパイロキネシスで勝負しましょう。それで、先に燃やされたほうが負け。いわゆる模擬戦闘よ。特定の魔法に限定したものは時々やるから」


「えっ! 教官と模擬戦闘ですか!」


 いくらなんでもそれは荷が重いだろう……。テストで百点とったからといって先生より賢いということはほぼないようなものだ。


「このほうがあなたも学ぶところが多いし、それに、このままだと教官として舐められそうだからね。私のほうが強いということを示しておきたいのよ」


 サヨルさんははっきりと理由を言った。


「つまり、調子に乗らないように締めておきたいってことですか?」


「そう受け取ってもらってもいいわ。奇跡的に初期の魔法はすぐにマスターしたとしても、そのまま順調に成長するかは別問題だし。これで調子に乗って勉強がおろそかになってもよくないでしょう。生徒にはどこかで反省する局面が必要なのよ」


 言っている意味はわかるが、これからやることが穏やかでないことは事実だ。


「あの、体が燃えたらどうしたらいいんですか……? 下手すると死にますけど……」

「あなた、どうせハイドロブラストぐらいは覚えてるんでしょ? 自分で消せばいいのよ」


 ハイドロブラストは大量の水を敵に思い切り叩きつける魔法だが、威力を下げて頭上にでも唱えれば、滝みたいなシャワーになる。


「ぶっちゃけ、覚えてます。使いこなせるかはわからないですが、ウォーターの魔法ならいけますし……」

「やっぱりね。だったら、何も問題ないことになる。そうでしょ?」


 にやりとサヨルさんが笑う。

 しまった……。そんなの使えないと言っておけばよかった。正直に答えすぎた。


 しょうがないか。

「やります。やってみますよ」

 もう、後には退けないし、順番に言われた魔法を唱えるだけよりは意義があるのも事実だ。

「わかってもらえてうれしいわ。ルールはさっき言ったとおり。パイロキネシスのほかは魔法を使うの禁止ね。移動は自由。相手の火球をかわして、相手に当てれば勝ちということで」


 パイロキネシスはいくつもの発火現象を同時に行う魔法だが、その分、コントロールが難しく、相手が動き回ればかなり狙うハードルが高くなる。まして、相手の足下や服にぴたりと炎を発生させるというのは相当難易度が高い。

 なので、一種の球当てゲームが成立するのだ。動き続けることで自分が喰らうリスクを下げられるし。


「それじゃ、はじめ!」


 サヨルさんがそう宣言した。


 早速、こっちも詠唱しないとな。はっきり言って、高い難易度の魔法だから詠唱も長い。


「紅蓮の力は我の掌中に在り。踊るように戯れるように広がるがよい。それが燎原の大火となろうとも知らぬこと。炎が遊ぶのだ。やむをえまい――パイロキネシス!」


 地面に小さな火がいくつか上がる。


 けれど、サヨルさんからはかなり離れた場所だ。

 やっぱりコントロールはできてないな。


 向こうも同じ詠唱を行う。


 どきりとしたが、俺の居場所とは数メートルはずれたところに火が起きただけだった。


 なんだ、教官も使いこなせてはないんだな。サヨルさんの場合、教官助手だけど。


 俺達は走りながら、呪文を詠唱して、上手く敵を燃やせるように祈る。

 これをマスターしたら、自在に離れた敵を焼き殺せるわけで、そんなものが気楽に使えるわけがないのだ。


 でも、戦いながら、俺は感じていた。

 これ、俺のほうがサヨルさんより精度が高い。

 サヨルさんの近くで火を起こせてる。


 あと、早目に決着をつけないと草が燃えて野火みたいに広がる恐れがあった。まだまだ水系統の魔法で消せるだろうけど、いいかげん決めておいたほうが無難だ。


 走りながら、気持ちを落ち着ける。

 アーシアが何度も言っていた。魔法は精神集中でその力が決まる。


 炎が敵から沸き立つようなイメージを。

 そして、それをできるだけリアルなものに具体化する。


 あとは、本当に現実リアルにするだけだ。


「紅蓮の力は我の掌中に在り。踊るように戯れるように広がるがよい……」


 魔法はゆっくりでいい。速さより、その分、効力を上げるほうが大事だ。


 サヨルさんはパイロキネシスを連投しているが、焦っているから全然俺から離れたところから火が起こる。


「もう! 実習一日目の生徒に張り合われてどうしてるのよ、私はっ!」


 この勝負、俺が勝てる。


「……それが燎原の大火となろうとも知らぬこと。炎が遊ぶのだ。やむをえまい――パイロキネシスッッッ!」


 詠唱が終わった瞬間、炎がサヨルさんの靴から上がった。


「きゃっ!」

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