116 戦争終結
俺の一撃がザインを斜めに斬り裂いていた。
ザインは驚愕の表情のまま、床に倒れた。
一撃で絶命したらしい。
俺はその心臓のあたりに剣を突き刺す。実は生きていたなんてことがあったら困るからだ。俺たちは絶対に勝たないといけない。
「ま、まさか……主人が……」
トリンドもまだ事態を信じられないという顔をしている。
「俺は魔法剣士なんだ。あんたのご主人様は魔法使いとの戦いばかりやってただろ。だから、距離感が甘かった」
けど、まだ終わりかはわからない。精霊のほうが残っている。
「あんたはやるか?」
トリンドは首を左右に振った。
「いえ、主人がいなくなった以上、自分がこの世界に干渉する考えはありません。精霊の世界に帰りましょう」
そう言うと、トリンドは足のほうからゆっくりと消失していった。
それを見届けてから、俺は剣を杖代わりにして、ぜえぜえ息を吐いた。
「ぎりぎりだったな……。ぎりぎりでも勝ててよかったけど……」
すぐにそこにアーシアが抱き着いてきた。
「時介さん! やりましたね! きっと時介さんの名前は伝説になりますよ!」
「うん、先生、ありがとうございます」
けど、少し気になる視線があった。
サヨルがこっちをじぃっと見ている。
「あの、喜びの抱擁だから大目に見てもいいんだけど、彼女がここにいるんだよね」
「だよな」
俺はアーシアから離れると、ゆっくりとサヨルのほうに向かった。
恋人らしく、ぎゅっと強く抱きしめ合った。
「本当に怖かったよ、時介が死んじゃうかと思った……」
「俺もこうして立っていられて、サヨルと抱き合えててうれしい」
あらためて思った。やっぱり俺の恋人はサヨルなんだ。
先生と恋人になっちゃダメだな。
さて、もう一仕事だけしないといけない。
「皇帝を探さないとな」
「そうね。皇帝がいなくなれば、戦争も終わるわ」
俺たちは城のさらに奥へと進んだ。
アーシアは役目を果たしたからとまたマナペンに戻った。俺とサヨルの二人の行軍だ。
まともな抵抗はもうなかった。
あっさりと、皇帝も見つかった。
「セルティア帝国皇帝、お命ちょうだいいたします」
命乞いをしていたけど、俺は気にせずに斬った。
「悪いけど、奇襲なもので捕虜にする余裕もないんですよ」
これで主戦派は一掃されただろうし、きっと和平交渉が進むだろう。
●
そのあと、俺たちは皇帝を討ったことを告げてまわった。
それで抵抗を示していた敵も逃げていったのか、隠者の森教会の別動隊と、姫とイマージュ、タクラジュの組とも合流できた。
「終わったのですね」
「はい、姫、やりました」
「ありがとうございます」
ぎゅっと、姫に手を握られた。
「これで平和になりますかね?」
「必ず、平和にしてみます。そこから先は姫の仕事です」
帝国は皇帝が殺されたことで完全に混乱に陥った。
少なくとも戦争を遂行できる状態ではなく、臨時で皇帝となった皇族が戦争の中止を宣言した。その男は厭戦派の人物だし、このまま和平交渉に入るだろう。
俺たちは第一巫女たちとも合流した後、小さな別れの宴を開いて、王国への帰途についた。
途中、帝国の兵士たちが引き上げていくのを目にした。戦争終了の通達が届いたのだろう。
「久しぶりに王国に帰れますね」
「わたくしもほっとしています。でも、退屈な日々になってしまうかもしれません」
姫が冗談を言って、くすくすと笑った。
俺たちが王都に戻った二週間後、正式に両国の間で戦争の終結が確認された。
王国は領土の一部と賠償金を手にすることになった。王国の完全勝利だ。
王都に戻ってしばらくは、連日連夜、元生徒と教官の同僚から祝福された。
とくに理奈と上月先生は泣きながら喜んでくれた。
二人で、俺の部屋に来た時はちょっとびっくりしたけど。
「おめでとう!」「おかえりなさい、島津君!」
なし崩し的に二人に抱きつかれたけど、これは浮気ということにはならずにノーカンですましてもらえるだろう。




