115 授業の成果
戦況だけ見れば、それは完璧なワンサイドゲームだった。
ザインと精霊のトリンドは徹底して攻撃魔法をこちらにぶつけ続けてくる。
向こうが息が合っているのはすぐにわかる。そもそも魔法使いが二人がかりで攻めてくればかなり手ごわい。先手を取って攻撃を仕掛ければ、相手の防御ももう一人が解除することで、確実に通すことができる。
しかも二人揃って無詠唱で魔法が使えるから、速度でもまず負けない。シンプルだけど、その分隙が少なく、裏をかかれることも少ない強力な戦法だ。
一方で、俺とアーシアは一緒に戦ったことはない。アーシアが戦ったのを見たことはあるが、あれは俺が見ていたにすぎない。ペアでの戦いはぶっつけ本番だ。
あくまでもアーシアは先生という立ち位置を崩さなかった。だから、敵に精霊が出てきたといったような緊急事態を除けば、生徒の戦いには干渉しない。
プロのテニスのダブルスに、打ち合わせもしてない二人組で挑むようなものだ。まともにやっても勝ち目は薄い。
だから、俺とアーシアは近くに寄って防御だけに徹することにした。
マジック・シールドは自分の前に防御の幕を張る魔法だ。接近すれば二人を同時に守れる。
防御しか考えないなら、連携がとれてなくてもやることが決まっている分、どうにか動ける。
もっとも、マジック・シールドはあくまでも防御力を高めるような効果しかないから、これでノーダメージにはならない。だんだん追い詰められてはいく。
向こうもそれをわかっているから、この攻撃を続けて、こちらを追い込もうとする。
「こういった精霊とのタッグとは戦ったことがなかったのですが、そう手ごわくはありませんね」
トリンドという精霊が感想を述べた。
なにせ全然こっちが攻めてないからな。
「もう……。なんか、こういう時、いい補助系の魔法ってないの……? ないわよね……。そんな便利なものあれば使ってるわよね……」
サヨルは不安そうに柱に隠れて見守っている。ゲームでもそうだったよな。後半の敵には力で押すほうが結局有利なんだ。小手先の魔法では状況は打開できないことが多い。
「時介さん、私、やっぱり教師ですね。知ってることを教えることはできるんですが、未知の状況で最善の方法を見出すのは苦手です……」
アーシアも苦しんでいるのはよくわかった。本来、戦うための存在じゃないからな。
でも甘えたことは言っていられない。今更降伏はできない。
「大丈夫です。解法は俺が見つけますから」
どんな問題にだって必ず解き方はある。それを見つけろ。
俺は魔法剣士、敵のザインは魔法使い。そこに何か手はないか。
ああ、そうか。
すごく単純なことだ。
ザインに剣士の要素はない。だったら剣士として俺が立ち向かうのが一番いい。
「先生、少しずつでいいです。敵との距離を詰めます」
「はい、それはできますけど」
「あくまでも、ちょっとずつでいいです。向かっていると思わせないほうがいい」
「わかりました。生徒の言葉を信じます」
俺たちはそこから「攻勢」に出た。
といっても、敵にはそんなことわからないだろうな。
間合いを詰めてる以外は何も変わってないんだから。
攻撃を防いでは前に、防いでは前に。
「主人、敵が近づいてきているようですが」
精霊のトリンドが状況の変化に気づいたらしい。
「とくに問題はない。むしろ、魔法を喰らう感覚が短くなって、敵の傷が増えている。このままボロボロになってくれれば、こちらが勝つ」
ザインの判断も正しい。マジック・シールドで止めるのが間に合わなくなってきて、ダメージは離れている時より多い。
このままだと、早晩、力尽きる。
向こうがそう思うのも当然だ。魔法使い同士の戦いならそう思うだろう。
俺は小声でアーシアに囁く。敵の魔法の攻撃で、相手には聞こえてはいないだろう。
「もう一つ、奥の柱まで進んだら出る。押してください」
「はい!」
じりじりと前にほとんどすり足みたいに進む。
そして、作戦開始地点に到達した。
俺は一気に突っ走る。
「うおおりゃあああっ!」
「ふん、遠すぎます」
「吹き飛べ」
二人揃って、爆撃の魔法でこっちを叩き潰そうとする。
それはマジック・シールドだけで防ぐ。
防ぎ切れてはいない。体力の半分は削られている。こんな調子じゃ、普通はたどり着く前にやられる。
そう、普通だったらな。
そこでアーシアが魔法を唱える。
またマジック・シールド――じゃない。
「行ってください、時介さん!」
風を俺の背中にぶつける。
この追い風で俺は一気に加速する。
でも、まだ足りない。これだけじゃザインに届く前に、次の爆撃を喰らって吹き飛ばされる。ザインの表情を見ればわかる。
この間合いなら問題ないと思っているからだ。これまでの戦場でもそうだったんだろう。
だけど、今回は違う。
俺の歩幅がいきなり大きくなる。
さんざん、アーシアに練習させられた大股移動だ。
これで敵に短時間で接近する。
やっと異常に敵が気づいた。
「主人、援護します!」
トリンドが魔法を放って、俺を吹き飛ばそうとする。
そのファイアボールか何かの一撃は――
大きくそれる。
トリンドに接近したアーシアが思い切りその体を引っ張っていたからだ。
「よ、余計なことを!」
「時介さん、やってください!」
もちろん、やるさ。
ザインも焦りながらも魔法を放とうとする。
それを撃てば向こうの勝ちだ。
けど、その前に――
俺の一撃がザインを斜めに斬り裂いていた。
クライマックスなのでちょっと更新頻度あげます!




