112 城に潜入
丘にある城へと続く道を進んでいくと、途中に不自然な小屋がある。いや、小屋は不自然でもなんでもないが、小さな小屋を三人の兵士が警護しているのは不自然なのだ。
ここが俺たちの目的地だ。
一度、草むらのほうに隠れる。
「本当にこんなところにそんなものがあるのか?」「ないなら、警護の兵士がいつわけがないだろうが、イマージュのバカめ」「お前だけには言われたくない言葉だな!」
こんなところでケンカするのってすごいな……。ある意味、徹底して平常心でいられているってことだ。
「この人たち、いつもこうなの?」
サヨルはそんなにやりとりに慣れてないのか、あきれていた。
「おおむねそうだ。どっちが姉かでずっと対立してるんだ」
その声に警備の兵の一人が気づいたらしい。
「おい、誰かいるのか?」
ヤバい。もうちょっとタイミングを見計らうべきなのに。
でも、とくに問題はなかった。
すぐに姉妹二人が突っ込んでいく。
タクラジュが近づいてきた警備の兵に。
イマージュはその間に残っている二人の兵のほうに。
兵士たちが声をあげる暇もないうちに、二人はもう剣を抜いている。
まず、タクラジュが兵士の首をさっと斬っていた。
イマージュは敵兵の鎧の隙に剣を刺し貫く。
それとほぼ同時に氷の刃を打ち込んで、もう一人を血祭りにあげていた。
敵は助けを呼ぶことも、警告することもできずに、絶命した。
つまり、これぐらいの敵は強行突破でいいということだ。
「第一巫女の魔法を喰らっていたな。動きがもたついていた。無理につとめていたのだろう」
「休んでいれば、死なずにすんだのにな。まあ、人生そんなものだ」
双子は淡々と仕事をこなして、小屋のほうに近づく。錠などはかかっていない。当たり前と言えば当たり前か。でないと、いざという時、使い物にならないからな。
開けてみると、中には地下へと降りる階段が一つついている。
「教団が入手した情報は本当だったみたいですね、姫様」
こういうのを見ると、胸が高鳴るというか、わくわくしてくる。まさしく隠し通路だ。
「こんなふうに兵士が数人で守っているぐらいですから、割と知られていてもおかしくはないでしょう。詰めが甘いのか、最初から核心部に入れない仕組みなのか」
「どのみち、入ってみればわかりますよ。正門から進んでいくよりはマシでしょう」
俺たちは階段に入っていく。
通路に光はないから、ライトの魔法で照明にする。
一番前は双子が警護をするからと立った。俺は追撃を警戒して一番後ろにつく。いずれ、兵士が殺されているのは発見されるだろう。
途中から階段はかなり上りになった。
城は高台にあるからそうでないと困る。二十分は階段を進むと、ようやくどこかに抜けた。
ごく狭い石造りの隠し部屋だ。どこにつながってるかまでは教団は知らなかったが、とにかく隠し通路は実在した。
何かこそこそ走っている。ネズミだった。そんなに珍しいものじゃないが――
「ネズミがいるってことは、ここは食糧貯蔵庫か、台所のあたりってことね」
サヨルの読みは正しいだろう。わずかに何かが焦げたにおいがする。
「これ、台所隅の隠し部屋だな。普段はカギがかかってるけど、逃げる時にはずすんだろ」
扉の隙間から外の光景が見える。厨房の様子が確認できた。
人数はそう多くない。おそらくだけど、第一巫女の魔法が強く聞いた奴が休んでいるのだろう。料理を作らないわけにもいかないので、ここにいる連中はしょうがなく出てきたんだ。男女が数人ずつ。武装はしていない。
扉をそっと開こうとするが、カギで動かない。
「魔法で吹き飛ばすしかないわね」
サヨルの発言はけっこう豪快だ。
「最終手段はそれだけど、できれなもっと搦め手から攻めたいよな。でなきゃ、集中的に狙われる。台所の人間を殺すのも気がひけるし」
「なら、インヴィジブルで姿を消せば?」
「だとしても、いきなり扉が開いたら、異様だろ。本質的な解決になってない」
「そろそろ動きがあるはずです。それを待ちましょうか」
姫はぎりぎりまで引き付ける気はらしい。教団の別動隊頼みだ。
「あんなザコで何かできるの?」「経験は知らんが、たいして強くないことは確かだな」
姉妹のセリフはおおむね悪い。二人とも圧勝してるからな。
「ここは彼らを信じましょう。あの方たちを悪く言っても何もはじまりませんから」
姫の言葉に二人が恥じ入る。気持ちもわからなくはないが、貴重な仲間だ。一人で戦うことを思えば、ずっと安心できる。
果たして、ちゃんと仕事はしてくれているらしい。
急に台所の空気がおかしくなった。
「賊が入ってきたんだって!」「こんなに調子が悪い時に……」「とにかく逃げろ!」
台所の人口がすぐに減っていく。よし、教会がやってくれたな。
人間がいなくなったところで、俺は氷の刃で錠に当たる部分をスパッと切った。
問題なく扉は開いた。やっと城内に入ってこられた。
「時介、あなた、また魔法のキレが増してきたんじゃない?」
「かもしれない。あまり自覚もしてないんだけど」
図面はある程度頭に入っている。あとは皇帝のいるところを目指すが――
「やはり、ここからは二手に別れましょう」
姫がそう提案した。
その話は事前にされていた。
「ですね。皇帝がどこにいるか、判然としない部分があります。逃げようとするかもしれないし」
「そちらは島津さんとサヨルさんでよいですね?」
サヨルもうなずいていた。
「どちらが皇帝を倒すか競争ですね」
サヨルが笑いながら軽口をたたく。




