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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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111 帝都を飲み込む魔法

 その日の夜、最初から取り決めていた宿に関係者が一緒に泊まった。

 表面上は赤の他人だ。人前ではあいさつもかわさない。


 隣にはサヨル、一つ上の階には姫たちが泊まっている。その他、教団の関係者も何組か泊まっている。第一巫女も泊まっている。ここに来るまで、極端に腰を曲げて、いかにも無力な老婆という格好でいた。

 魔法で誤魔化すこともできなくはないが、魔法に詳しい者がいると、かえって露見しやすい。なので、別の人間を変装などで演じられるなら、そのほうが安全なのだ。


 教会の話だと、ここの宿はあまり今の皇帝をよく思ってないらしいから、怪しまれても大丈夫だろうということらしい。おそらく、帝国にしょっ引かれない程度に立場の悪い者を泊めていたのだろう。犯罪者御用達の宿みたいなのはある。


 明け方、俺たちは起き出して、第一巫女の部屋に入った。


 決行する俺たちと教団の人間を含めて二十人ほどだ。ただし、第一巫女は直接乗り込むわけではない。潜入するのは十五人ほどということになる。


 人数を確認していたラクランテさんが「全員揃いました」と第一巫女に告げた。


「では、今から皆さんに魔法を受け付けない魔法を唱えます。皆さんの力なら影響はほぼ受けないはずですが、念のためです」


 第一巫女が順番に特殊な詠唱を行っていく。

 これから唱える魔法が特殊なので、それ専用の対策魔法が備わっているらしい。それだけ広範囲に影響を与える魔法だからだろう。


 それから、第一巫女はコンテイジョンの威力が弱いものに当たる魔法を唱えはじめた。


「毒を煮詰め、煮詰めて、呪いへと転じよ。これこそ救いの一つなり……」


 聞いただけでもわかる。その詠唱は長く、そして異様だった。唱えるだけで、十五分ほどかかっただろう。


 その間、誰も声を発しなかった。そもそもみんな寝静まっている時間なので、あまり声を出せば怪しまれるというのもあるが、第一巫女の集中力が自然と伝わってきたのだ。とても余計な音をたてることなんてできない。


 今唱えているのは厳密には概念魔法には当たらず、それを一般の魔法で代用しているものらしいが、概念魔法が特別なものだとよく実感した。

 張り詰めた精神状態でないと、こんなものを唱えて、成功させることはできないだろう。


 そして、最後の言葉が唱え終わった時――


 部屋全体に、いや、帝都全体に何かが広がったような感覚があった。

 第一巫女の意識とでも言うべきものが、外に拡散したというか。


 力を使い果たしたように、第一巫女はふらついた。それをラクランテさんが近づいて支えた。


「やるべきことはやりました。目覚めた頃、帝都の人々は自分たちが特殊な病に犯されていることに気づくでしょう。今の私のように体も自由に動かぬはずです。私の場合はたんなる疲労ですがね」

 第一巫女はしんどそうではあったが、何かをやり遂げたというような顔もしていた。もしかすると、人生最大の仕事をしたぐらいのことは考えているかもしれない。


「わたくしたち王国のためにありがとうございます」

 姫があらためて礼を言った。


「いいえ、これは教会どころか、帝国のためでもあるのです。この戦いで帝国が勝利したところで帝国の民が潤うようなことはありません。民のためにならない争いなら、止めても構わないでしょう」


 第一巫女は強い目をしていた。帝都全体の人間を衰弱させるなんて魔法はそれなりの覚悟がないと使えないだろう。


 数名の教会の人間が、第一巫女を保護してどこかに潜伏すると言った。もともとの手筈どおりだ。第一巫女とばれれば、帝国ももはやなりふりかまわず、命を取りに来る可能性が高い。


「それじゃ、我々も行くか」「イマージュよ、こんなところで死ぬなよ」


 双子もいつもよりも気合いが入っているように思える。国を滅ぼしに行くだなんてプロジェクト、なかなかないもんな。


「では、一気に攻め込みましょう。この戦いで決着をつけるのです」

 カコ姫の言葉に俺たちはうなずいた。


 王国に勝利を届けてやる。



 朝になると、まず第一巫女の一団が宿をチェックアウトした。ここからが本番の俺たちは時間差で、宿を出ていく。

 宿屋の人間もふらつき気味だった。効果はしっかりとあるらしい。


 町を歩くと、明らかに空気がおかしい。中には道端で動けなくなっている人間もいる。まさしく、疫病が一気に町を襲ったみたいだった。


 これを魔法で形にするなんて、どれだけ異様な力かわかる。しかも、コンテイジョんなら威力はもっと大きいはずだ。帝国が力を利用したくなるはずだ。これで、敵の拠点でも襲えば、戦局ははっきりと変わるだろう。


 いろんなところから、誰かの呪いだとか、魔法使いの攻撃ではないかといった声があがっていた。後者のほうは正解だ。ただ、こんな魔法があると本気で思っているのかは怪しい。とにかく帝都が異常な攻撃に見舞われたのだ。


 俺たちは城の裏手のほうにまわる。

 いくらなんでも正面突破は無理があるからな。


 丘にある城へと続く道を進んでいくと、途中に不自然な小屋がある。いや、小屋は不自然でもなんでもないが、小さな小屋を三人の兵士が警護しているのは不自然なのだ。


 ここが俺たちの目的地だ。

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