109 帝都侵入作戦
「帝国といっても一枚岩じゃないわ。だから、トップの魔法使いと皇帝を倒せば、この戦争も終わる。そして、それだけの魔法使いがもう帝国には来てるってわけ」
やれやれ。
この作戦が終わったら、もうちょっと安全な王国に戻ると思ったんだけどな。
けど、どうせ戦争を終わらせないと安全な時代はやって来ないわけだから、同じことか。
「ここまでよく無事に来れたよな、サヨル」
「危ないところも何度かあったけどね……。帝国の東側は人口も少ないし、どうにか見つからずに来れたわ。それと補助系魔法は詳しいから、それで一つ一つ乗り切ったってこと。この穴をくぐってくるのだって、それなりに危険だったんだから」
だよなあ……。かなり難易度高い作戦だぞ。
「恋人として言うけど、こういうことはあんまりしてほしくないな……」
俺がそう言うと、サヨルが近づいてきて、俺の頬をつねった。
「痛い、痛い! なんだよ!」
「その台詞、そっくりそのまま返すからね! だいたい時介が帝国に潜入するから、あなたに会いにいくためにこれだけ体張ったんだから!」
サヨルの目が赤くうるんでいる。
これはマジなやつだ。
「おいおい、彼女を泣かすというのは感心しないな」
イマージュがにやにやして言った。確実に楽しんでるな……。
「ごめん、すぐに連絡することができなくて、多分王国の西の果てからかなり遅れて伝えることになったと思う……」
「わかってくれたらいいの。第一巫女の件も解決したようだし、次は帝都に乗り込むからね」
完全にサヨルはやる気だ。
「それ、無茶があるんじゃないかな……。相手の本拠地だけど」
「敵もそう思ってるわ。だから付け入る隙がきっとあるわ」
戦争を終えるとすれば、皇帝を倒さないといけない。
想像を絶するぐらい難しいことに思えるけど、何か打つ手はあるんだろうか。でも、このまま両陣営で長く戦うよりいいという気もする。
「あの、少しよろしいでしょうか」
第一巫女がこちらに声をかけていた。
「私たちの力を使えば、帝都にパニックを起こすぐらいはできるかと思います」
「まさか、概念魔法コンテイジョンを帝都に使うんですか……?」
コンテイジョンで疫病を発生させれば、帝都は機能停止するかもしれない。しかし、それは言うまでもなく、隠者の森教会の理念を踏みにじるものだ。
もちろん、帝国にひどい目に遭ったから、その意趣返しということもあるのかもしれないけど、そういうこと言い出すような人たちには見えないしな。
「それはできません。罪のない方を数え切れないほどに殺すことになりますから。個人的には継承してきたことすら、後悔しているぐらいですよ」
「じゃあ、どういう方法で……?」
「大規模な魔法にはたいていの場合、劣位魔法というものがあります。おおもとの魔法を覚えるための前段階の魔法です。コンテイジョンにもそういうものがありまして――つまり、人を殺傷するような力は持ち合わせていません」
だんだんと意味がわかってきた。
「隠者の森教会の人間が結集すれば、皆さんを城に入れることぐらいはできるでしょう」
●
そのあと、俺たちは姫やラクランテさんとも合流した。各自、侵入してきた敵を倒していたらしい。
第一巫女の話は早速伝えられた。
異論は出なかった。
姫が俺たちの代表者として、こう言った。
「行きましょう。敵方の重要な魔法使いであるエルトミを倒せました。このままなら、帝国を崩壊させることも可能かと」
「無論、リスクもありますが、よいですか?」
そうラクランテさんが確認する。ある意味、第一巫女を救出するよりよほど危険だからな。
姫が俺のほうを見た。
「島津さん、率直に聞きます。どうしますか?」
「俺が決めるんですか?」
「攻撃魔法に関してはあなたのほうが私よりすぐれています。最前線に出るのはあなたになるでしょう」
断るならもっと前に断っていた。
「俺はやります。完全に本気ですよ」
ゆっくりと姫はうなずいた。
「ならば、私も迷いません。必ず成功させるよう、計画を練りましょう!」
俺たちは帝都を陥れる作戦を考えた。
帝都の地図などは教会側から提供してもらった。どこで仕入れたのかわからないが、皇帝のいる宮殿の間取り図まであった。
「私たちは本当に抵抗するしかなくなった場合は、帝都に攻め入る覚悟でいましたから。不服従に対する弾圧には、剣を持って挑む――言うまでもなく最後の手段ですが……」
第一巫女が諦めたように言った。
「帝国の刺客を倒してしまった以上、このまま無事ではすみません。確実に第二第三の刺客も来ます。ならば、帝国に打撃を与えるしかありません」
たしかにそのとおりだ。国とやり合ってる限り、敵は無数にやってくる。
「俺たちもやります。絶対に帝国を落とします」
俺も決意を固めた。




