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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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104 第一巫女救出

 作戦当日、隠者の森教会に近い町で小さな火災が起こった。

 それ自体はすぐに消し止められたが、不穏な空気が町を包みはした。


 そして、その日の夕方。


 領主の城に一台の馬車がやってくる。


 その馬車は御者も含めて全員、若い女に見えた。自分はお家争いがあって、逃げてきた令嬢である、匿ってほしいと代表者の女が答えた。

 たしかにその女性は令嬢という言葉に誤りがあるとも思えないほどの美貌だった。

 そして、涙ながらに「助けてほしいのです……。わたくしの屋敷は焼かれて……お母様も殺されて……」と訴える。


「父親は、隠者の森教会とつながっていました。それでわたくしたちが彼らにつながることをやめるように言ったために、こういったことに……」


 町において火災が起きていたという話は領主も聞いていた。となると令嬢が狙われたのも、その抗争の一部だったのだろうか。

 まだ歳の若いおおかた二十代と思しき領主は、その令嬢を見て、ほうけたような顔になりながら、そう考えた。


「どんな待遇でもけっこうです……。かくまってください……」


 念のため、教会に詳しい者に聞いたが、隠者の森教会の幹部などと彼女たちの顔は一致しなかった。

 とてもこんな力の劣った方々を追い出すようなことはできません。ここで保護いたしましょう――そう領主は言った。



「なかなか上手くいきましたね」

 別室に移されると、令嬢――いや、姫が言った。

 ちなみに俺も女装させられて侍女ということになっている。そのほうが、姫と別室にされたりしない分、ありがたいけど。


「若くて美しい女性が助けてくれと言えば、向こうも助けるしかない――なかなか危ない賭けでしたけどね」

「ですが、賭けには勝ちました。隠者の森教会の敵ということは自分たちの味方だと彼らは考えたでしょうし、火災が起きたのは間違いなく事実ですからね」


 別働隊にいくつも火を起こさせていた。領主の城から離れた町であれば、警備もゆるい。いくらでも火ぐらいはつけられる。


「しかし、こっちも相当怪しかったですけどね」

「とりあえず、かくまってもそう危険がないほど弱そうに見えたのでしょう。さて、ここから次の動きを待ちましょう」


 姫と一緒に侵入したイマージュとタクラジュはもともと侍女なせいか、服を少し替えるだけで通用した。


「どうせなら、ここで暴れたいがな」

「イマージュはバカだな。どうせなら敵を分散させたほうがよいだろうが」


 そう、敵を分散させるのだ。


 一時間後、ラクランテ以下隠者の森教会を名乗る者たちが城の近くの町を包囲し、立てこもる。

 領主はこれを看過するわけにはいかない。全力でつぶしにかかるため、兵を出した。必ず、こちらが本命だと思っただろう。


 けど、そうじゃない。

 俺たちは魔法使いたちが出ていくのを窓から確認した。

 だいたい二十分が経過した頃、姫が立ち上がる。


「さて、やりましょうか!」

「はい、姫!」


 まずは領主を捕まえる。鎮圧に出ているかと思ったが、室内にいたところをあっさり発見できた。


「おや、あなた方、何かありましたか?」

 すでに入室前に姫は詠唱を唱えおわっている。


 スリープ・マジックがすぐに領主を襲って、意識を奪った。

 ほかの者もとっととイマージュたちが気絶させる。


 向こうがこちらの正体に気づきだした頃には城の占拠はぼ終わってた。

 あとは、すぐに地下室のほうに向かう。警護兵みたいなのはとっとと片付けて先に進む。


「敵の数が少ないし、みんな教壇のほうを片付けに出てるな。そうでないと困るんだけど」


 そして、地下牢には、特殊な結界の上で、第一巫女が監禁されていた。

 牢には椅子があり、その上で第一巫女はぼうっと座っている。見た目はどこにでもいるおばさんだけど、やけに神々しい雰囲気がある。


 その封印の結界も姫の解除に関する魔法一つで外部からはあっさりと解除することができた。ただ、あまり聞いたことのない魔法だ。


「使用頻度が低いものも幼いうちに覚えこまされましたからね。わたくしが来て、正解でした」


 結界が解かれても、まだ第一巫女は信じられないといった顔をしていた。


「まさか、本当に助けが……?」


「はい、助けに参りました。あなたを守ることは国策として必要でしたので」

「国策……つまり、あなたたちはハルマ王国の方ですね」


 向こうもすぐに気づいたらしい。


「それにしても、この牢の魔法は相当に難解なものでしたのに」

「それは内側からの話ですよ。第一巫女様も外側から壊せるはずです」

 第一巫女は否定もしなかったから、それぐらいのことはできるということか。多分、姫と同程度の実力はあるんだろう。


「たとえ命を絶つことになっても概念魔法を使うつもりはありませんでしたが、助け出してくれたことに感謝いたします」

「感謝には早すぎますよ」

 姫が手で制した。

「このことが知られた時点で、魔法使いたちがまたあなたを狙いにやってきますから。それに勝てないようでは何もはじまりません」


 まったくだ。

 ミッションはやっと半分ってところだろう。


 俺たちは街道を大回りするような形で、隠者の森教会を目指して、無事にたどりついた。遅れて、ラクランテさんたちの部隊もやってきた。一部に負傷者もいる。


「途中で、挙兵した者がおとりとわかって、敵は引き返していきました。かなりの難敵です。やはり、帝国の中でも上級の者が派遣されているようです」


「第一巫女の監視が重要なのは明らかですもんね」

 すぐにラクランテさんはその場で膝をつく。


「第一巫女を奪還していただき、本当にありがとうございます」

 けど、その表情はまだゆるんでいなかった。

 彼女もこれから敵が来ることを知っているからだ。


「さあ、ここからが本番ですね」

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