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赤ペン精霊の神剣ゼミでクラス最強の魔法剣士になれました  作者: 森田季節
第二部 神剣ゼミで剣士に編

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103 第一巫女救出計画

 姫のベッドの横に腰を下ろした。


「こんな言い方おかしいかもしれませんけど、俺、むしろ安心しましたよ」

「安心、ですか?」

 姫が不思議そうな声を出した。


「はい、そうです。だって、俺たち、かなり危険な作戦に挑むんですよ。それで恐怖をなんら感じてないほうがおかしいと思いませんか? そこで怖くないとしたら、心がないのか、ものすごく心が丈夫なのか、どっちかしかないじゃないですか」


「そうかもしれませんね」


「俺はどっちのリーダーも嫌ですよ。だって、リーダーと意思の疎通がはかれないですから。何を考えてるかわからない人の下で働くのは、少なくとも、俺は嫌です。つまらない仕事ならともかく、命を懸けるような仕事ならね」


「つまり、わたくしはこのままでいいと?」

 姫の顔は見えないけれど、どういう顔をしているかはだいたいわかった。


「そうです。不安があるからこそ冷静になれることだってあります。痛みだって、死の危険を人間に理解させるためにあるんですから。それがなきゃ、もっと簡単に人は死んでるはずですよね。不安だって、きっとそういう効能があるんですよ」


 俺の手に何かが触れた。


 姫が手を伸ばして、俺の手をつかんでいた。

「ありがとうございます。少し勇気をもらえました」


「護衛役としての任務を果たせたようで、なによりです」

 そのまま姫はしばらく眠りに落ちたらしかった。俺は三十分ほどそのままベッドに座っていた。



「んっ……あっ、わたくしは眠っていたんですね」

 しばらくすると、姫は目を覚ました。起きたばかりの顔は、戦闘をしていたのと同一人物とは思えないほど、ぼんやりしている。


「姫、ちょっと無防備がすぎますよ。男の部屋のベッドで寝ないでください」

 王国でこんなことをされたら、本当に俺の首が飛ぶところだ。


「信用できない方のベッドではありませんから」

 すぐにそう返されると、俺としても扱いに困る。

「そう言っていただけるのはうれしいんですけど、こっちとしては生殺しでつらいですね……」


「さて、本題のほうに入りましょうか。奪還作戦のことでいくつか案があるのですが、時介さんの言葉を聞いておきたいなと思いまして」

 なるほどな。たしかに、そっちこそ「本題」だ。


「失敗すれば犠牲者が増えますからね。自分だけで決めるのは荷が重いんです」

 だから、その片棒を担いでもらおうかなと思って――と姫は笑った。


「こっちとしてはたまったものじゃないですけど、やらせていただきますよ。姫には逆らえませんからね」


 発想としては大きく三つがあった。


 まず第一巫女が捕らえられている領主の屋敷を正面から攻撃する案。

 次に、領主の屋敷近辺で暴動が起こってるように見せかけて、領主の屋敷から人間を出して、その隙に侵入する案。

 最後に、ばれないように領主の屋敷に潜入する案。


「もともと、隠者の森教会の方々は正面突破を前提にしていたようですが、わたくしたちに完敗したことで、こちらの意見も無視できなくなりました。違う方法を行うことは可能です」


 かなり手痛く俺たちに負けたからな。そういう意味ではこちらを試す行為が本当にあとに影響してきている。


「時介さんは率直にどう思います?」

「まず、正面突破は危険すぎます。この調子だと、敵の戦力も明確にはわかってないでしょうし、そもそも、第一巫女を人質にされたらどうします?」

 こちらの目的が敵の殲滅ならそれでもいいかもしれないが、第一巫女を奪還できなければ何の意味もない。


「領主屋敷の間取り図ぐらいはわかっているんですけどね。地下の独房に入れられているだろうとのことです」

「地下となると、いよいよ強行突破は難しいですよ。攻撃が上手くいっても、すぐに第一巫女のところに行けなければ人質に取られるリスクは高いです」


「次に、どこかで陽動作戦をとりますかね」

「それもどこまで効果があるかは怪しいですね。なにせ隠者の森教会が攻めてくるなんてことは、向こうも絶対に考えているでしょうから。姫をほったらかしにして出てきてくれるっていうのは甘い考えですよ」


 どっちも希望的観測が強すぎて、採用できないと思う。


「では、また時介さんが女装して潜入でもしますか?」

 くすっと笑いながら姫が言う。

「そんなことするわけな――待てよ」


 不本意なことではあるけど、発想としては悪くないかもしれない。

「俺一人っていうのは勘弁願いたいですが、入り込む手立てとしてはいけるんじゃないですかね。もう少し、考えてみましょう」


「あら、時介さん、乗り気なんですか?」

「乗り気なのは、救出計画のほうですからね……?」


 得体のしれない男が何人も入り込むのは難しいだろうけど、それが年頃の女性なら相手に恐怖心や警戒心をさほど与えずにすむ。


 俺は姫と計画を練って、おおかたの方向性を決めた。

 侵入をベースにして、そこにいろんなものを足せばいい。


 ラクランテさんも、その案を了承してくれた。

 可決された案は最終的にかなり具体的かつ複合的なものになっていた。これなら、十二分に成功させられるだろう。


 夜、イマージュとタクラジュも呼び出されて、俺たち一行はあらためてラクランテさんたちに頭を下げられた。


「作戦にはあなた方のご協力が不可欠です。どうかよろしくお願いいたします」

「言うまでもないことです」

 姫は為政者らしい落ち着いた態度で言った。

「それに、これは人助けではなく、自分の国を守るための作戦なのです。だからこそ、わたくしたちも絶対に抜きませんからね」


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