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成金悪役家の当て馬令嬢は、はやく断罪後を満喫したい  作者: 杓子ねこ
第二章

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第47話.VS邪竜①

 ザカリーの言うとおり、ドラゴンは徐々にベルナティオを呑み込んでいるようだ。

 もはや膝から下しか見えなくなったベルナティオは、抵抗も諦めたのか棒立ちの姿勢になっている。それもそれでシュールだ。

 

(あれを倒すには、シュゼットの魔力だけでは心許ない)

 

 ゲームよりもシュゼットの魔力が増しているとはいえ、もとのシナリオでは攻略対象の助けを得て、数人がかりで倒すのだ。

 

「まずはアルフォンス様と合流よ。一応、わたくしも手は打っていたの」

 

 そう言って、ルクレシアはアウグストを押しのけると窓から身をのりだした。

 

「レイ!!」

「は、ここに」

 

 名を呼べば、当然のように階下のテラスにレイが顔を出す。

 躊躇なくルクレシアは窓から飛び降りた。王宮の中をまわって階段をおりるのは時間の無駄だ。今は一刻を争うのだから、レイに受け止めさせればいい。

 

 ――が、ルクレシアを受け止めたのはレイではなく。

 

「まったく、ぼくという婚約者がありながらほかの男の腕に飛び込んでいくのはやめてほしいね」

「アルフォンス様!?」

 

 いつのまにかルクレシアは、アルフォンスの腕の中にいた。

 しかもお姫様抱っこで。

 

「ルクレシアお姉様! わたしに言ってくだされば風魔法でお運びしましたのに……!」

 

 その言葉どおり、風をクッションにしながらシュゼットがおりてくる。

 

「頼めばよかったわね……アルフォンス様、おろしていただけますか」

 

 ルクレシアが言うと、アルフォンスは素直に身をかがめてルクレシアを解放した。

 

 そのアルフォンスの腰に抜き身の剣が吊り下げられているのを見て、ルクレシアはほっと息をつく。

 

「聖剣が手に入ったのですね」

「ああ、間一髪でね」

「聖剣? それに、どうしてこんなにタイミングよくレイさんとアルフォンス様が……」

 

 シュゼットの言うとおり、レイがザカリーの部屋の真下にいたのには理由がある。

 もとからそのようにルクレシアが指示していたのだ――なにかあれば聖剣を手に入れ、ルクレシアたちに合流するように、と。

 

「アルフォンス様が陛下に会いにいったのは、宝物庫の鍵を手に入れるためでもあるの」

 

 ゲームでは、シナリオを進め国王の目を覚まさせることで、国王から宝物庫の鍵を託されるのだが、アルフォンスが頼めばなんのことはなく鍵はすんなり手に入ったようだ。

 

 宝物庫の奥に眠るのは、邪を切り裂く〝聖剣デレシバウム〟。

 使用者の物理攻撃が聖属性となるこの剣はなかなかに重要なアイテムなのだ。

 

 聖属性は邪竜への特効属性だが、ゲームで聖属性の攻撃魔法が使えるのは魔導師のウィルフォードのみ。シュゼットは回復魔法と属性付与魔法を使う後方支援役だ。

 この属性付与魔法で物理攻撃に聖属性を付与することで、アルフォンスとネインの攻撃でも大ダメージが見込める。しかし聖属性付与魔法は3ターンしかもたないため、回復を挟もうとするとレイに属性付与ができない。

 

 ゲームでは、レイに聖属性魔法を発動できる護符や回復アイテムを持たせてシュゼットとウィルフォードのいいとこどりのような役割を持たせることができる。

 が、現状シナリオを大きく逸脱して召喚された邪竜を前に、そのようなアイテムは確保できていない。加えて、ネインはおらず、シュゼットは最前で戦える力を持っている。セオリーどおりのパーティ編成は崩壊中。

 

 最も厄介なのは、自分――ルクレシアだ。戦闘力にならない一般人だが、さすがに死にたくない。

 ルクレシアだけでなく、オルピュール一家は皆一般人である。シュゼットの言うとおり、邪竜が町へくりだしてしまえばそこで終わり。

 短期決戦で邪竜を倒しきるだけの火力が必要だ。

 

 そこで役に立つのがこの〝聖剣デレシバウム〟。

 

 アルフォンスが装備すれば、普通の物理攻撃が属性特攻攻撃になる。

 

(でも、これはゲームじゃない)

 

 ルクレシアが生身の人間であるように、アルフォンスも傷つき、死んでしまうことだってあるのだ。

 先ほどシュゼットに感じたのと同じ躊躇が胸をよぎる。

 

 ルクレシアはアルフォンスに向きあった。

 青い瞳をまっすぐに見つめる。

 

「アルフォンス様……託してもよろしいですか」

 

 聖剣を。邪竜との対峙を。

 命を懸けた戦いを。

 

「いいよ」

 

 眉根を寄せるルクレシアとは正反対に、アルフォンスは気負うことなく受け入れた。

 

「ぼくは君のためならなんでもできる。そんな顔してるってことは、わかってなかったみたいだけど」

 

 剣を抜き、アルフォンスは邪竜を貫くかのように切っ先を向けた。

 

「君を守るためだ、邪竜に勝てと言うなら必ず」

 

 アルフォンスに応え、デレシバウムは淡い光を放つ。彼を主と認めたのだ。

 

 同時に、邪竜の額の瞳にあったベルナティオの足が、水面に引き込まれるかのようにさざ波を残して消えた。

 

 第三の目が赤く光る。

 

 落雷じみた咆哮をあげ、邪竜は首を持ちあげた。

 三つのすべての目がルクレシアたちを睨む。向こうもこちらを敵と認めたのか――否。

 

 邪竜が見つめるのは、シュゼットだ。

 

(魔力を求めている?)

 

 形を整えつつある邪竜だが、まだ体表の一部からは瘴気が湧きいで、完全な状態とは言えないようだった。

 

「わたしの魔力を狙っているようですね」

 

 シュゼットも邪竜の視線に気づき、呟く。

 

「敵の狙いがわかれば戦いやすい。餌をぶら下げて横っ面をぶっ叩けばいいって、おじいちゃまが言っていました」

「そうね」

 

 なんならその『餌』を作りだして嵌め落とすのがゴルディの怖いところだが、詳しい言及は控えよう。

 

 現状、邪竜の狙いはシュゼット。ならシュゼットを餌に、横っ面をぶっ叩くのはアルフォンスの役目になる。

 

「シュゼット、アルフォンス様と協力して戦うのよ」

「チッ……わかりました!」

「あなたあとで真面目な話があるわ」

 

 シュゼットはすぐに笑顔になったものの、舌打ちが隠しきれていなかった。

 

 この事態を無事に切り抜けたら、真剣に説教をしよう。

 ルクレシアはそう決意した。

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