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第二走 街案内RTA、徒歩チャートにて

「すいませぇーん、ルーキですけどー。まーだ検査かかりそうですかねー」


 ルーキが声を張り上げたのは、街はずれの竹林にひっそりと建つ、こぢんまりとした家屋の前だった。


 診療所兼RTA研究所。どちらも最新鋭で大がかりな設備を整えているわけではないが、優秀なスタッフと辺境直通の素材の豊富さで、王都にも引けを取らない高い機能を有している。


「あらルーキ、いらっしゃい」


 簡素な木製の扉を開けて出てきたのは、白衣を羽織った背の高い女性。

 年齢は二十代後半かそこらと見積もっておくのが素直。怜悧な目つきが特徴の美女だが、軍医という勇ましいあだ名に恥じず、RTAの現場に自ら赴き、負傷した走者のための出張診療所を提供する豪胆さも持ち合わせている。もちろん有料で。


「おはようございます軍医さん」

「おはようさんっす」

「おはす 廿_廿」

「はいおはよう。一家みんな揃ってるわね」


 ルーキたちが揃って挨拶すると、軍医はにっこりと笑って返事をする。


「サンを迎えに来てくれたんでしょう? 検査は終わってるんだけど、準備に手間取ってね。サン! ルーキたちが来てるわよ!」


 まるで登校時間のカッチャマよろしく室内に向けて声を飛ばすと、やがてぱたぱたと忙しない足音が聞こえてきた。それは扉の前でぴたりとやむと、まるで深呼吸を一つ挟むかのような一拍を置く。それから彼女が現れた。


「よう、サン。約束通り迎えに――って、おおー!?」


 手を恥ずかしそうに後ろに組み、不安げな上目遣いのまま歩み出てきたのは、可愛らしいワンピースに着替えたサンだった。


 レースの白いケープがワンピースの水色の下地にマッチし、淡い色合いは彼女の柔らかい目元と親和している。頭には可愛らしいベレー帽。大人しく縮こまっている態度と相まって、品の良いどこかのお嬢さんのようだ。


「へえーバッチェ似合ってるじゃねーか! すっげえいいと思うぜ!」

「ほ、本当ですか……?」

「ああ。いいゾ~コレ」

「ほらね、言ったでしょ。ルーキは大丈夫だって」


 感激した様子で目を見張るサンに対し、軍医は心配性な娘を見る態度で笑ってみせた。「はい」と嬉しそうにうなずいたサンは、早速こちらに駆け寄ってきて、


「こ、これ、自分で選んだんです。わたしなんかが着ていいのかなって思ったんですけど、何だか惹かれるものがあって」

「いいセンスしてんねえ! 道理でねえ! 好きな服が似合うってのはかなりラッキーなことらしいぜ。サンはそういうのが好きなんだな」


 嬉しそうにこくこくうなずく少女に笑いかけたその時、ルーキはふと隣からすっと前へ歩み出たニーナナに気づいた。

 彼女はサンに近づくと、いきなり両手を振り上げてレッサーパンダの威嚇ようなポーズを取った。


「!?」


 サンは一瞬戸惑った顔を見せたものの、自分でもなぜそうしているかわからない顔で、同じく両手を上げて同じ姿勢になった。


 こ、このポーズは!


「こらニーナナ、威嚇しないの」


 軍医がその行動をやんわり咎める。そう、これは人造走攻兵ソリッドニンフ同士の威嚇のポーズ!


「服装ごときでわたしより可愛くなろうとするのは許されない ∩(廿_廿∩」

「そ、そんな ∩;>△<)∩」

「待て待てニーナナ。だいたいおまえは、そういう服着たがらないだろ」


 ルーキはそんな二人に近づくと、ニーナナを脇から持ち上げ、少し離れた場所に置き直した。膠着状態はそれで解ける。


 ニーナナが気にしたのも少し理解できる。確かに二人の服装の違いは、根本的なものに思えた。

 ニーナナの恰好は、体にぴったりフィットする水着みたいなスーツの上に、大きなポンチョをかぶって、巨大なてるてる坊主になったものだ。これが彼女の普段着で、それ以外のタイプを好まなかった。


 その理由は、彼女の戦闘スタイルにある。足技を基本とした体術に加え、本気出す時はゴーレムのように硬質、強大化させた腕で敵を叩き潰す。だから袖のある服や、ひらひらした装飾を本能的に避けるのだ。


 だから、サンが今非常に女の子らしいおしとやかな服装を選んでいるということは、大きな意味があった。彼女はもう、戦士ではない。

 戦闘で勝利せよという、彼女たち自身を苦しめた存在意義から、自力で脱出できたのだ。


「おーい、ルーキ! ちょっと待ってー!」


 と、そんな場面にもう一人の人物が現れる。


 作業着姿で家から出てきたのはロコ。一見少女と見まごうような丸顔で、優し気な目元。少し癖のある髪を短くしている。首から肩にかけての線は細く、何だか前よりもっと女子っぽくなった気もするが、男だ。何かの作業中だったらしく、エプロンからは新しい機械油の匂いが漂っている。


「おー、ロコ。おはよう」

「おはようルーキ」


 ルーキが気さくに手を上げると、ロコもにっこり笑って返事をする。

 訓練学校からの付き合いは時間にすれば意外なほど短いが、なくてはならない相棒としての関係が、そんなの知るかとばかりに二人の繋がりを濃くしている。


「どうした? そんなに急いで」

「サンちゃんとお出かけなんだって? って言っても、RTA装備は持ってるんだろ?」


 彼の指摘通り、たとえ何もない日であってもルーキは相棒のグラップルクローを左腕に装着し、最低限のアイテムポーチをぶら下げていた。超緊急のRTA要請にも反応できるように。もっとも、それでも一旦は準備ための時間を取るのが走者というものだ。


「この間渡し忘れたものがあってね。はいこれ、整備用のオイル。そろそろなくなる頃でしょ」


 言われて、ルーキは腰に回してあるアイテムポーチを確かめた。見てみると確かにグラップルクローの簡易メンテに使う油が残り少なくなっている。


「危っぶな! 助かった。よくわかったな、こんなの……」

「うん。ルーキとグラップルクロー(そのこ)のことだから」


 再び微笑んだロコからオイルを受け取る。

 さすが相棒、とルーキは口に出して感謝する。こちらの体調からグラップルクローのコンディションまで、ロコは伝えずともだいたいのことを把握してくれている。


「けど、今回のは俺のミスだ。次からは油にも気をつけるよ」

「うん。そうして」


 ロコとも会って、これで出発の準備は整った。ルーキは改めて気合を入れる。


「よーし、じゃあ行くか。このために朝のうちにチャートをガッチリ組んできた。完璧な街案内RTAにしてやるから、見とけよ見とけよー!」

「えっ、じゃあすごく急ぐんですか……?」


 サンが不安そうな顔になる。が、ルーキはすぐに笑いかけ、


「フフフ、それは走者に対するよくある誤解だ」

「誤解?」

「走者はせっかち……そう思われてるけど、それは本質じゃない。走者は――チャートをちゃーんと守る人。克己さが大事なんだよ」

「どういうことでしょう……」


 眉間に可愛らしくシワを寄せるサンに「つまりな」とルーキは総括する。


「急ぐチャートなら急ぐけど、そうでない時はちゃんとのんびりする。むやみやたらに急げばいいってもんじゃない。今回は急がず、しかし無駄なく街を見て回る安定の徒歩チャートだから、慌てる必要はないってこった」

「そうなんですね……! わかりました。それじゃあ軍医さん、ロコさん、行ってきます」

「行ってらっしゃい。楽しんできてねサンちゃん」

「汚い言葉は覚えてこないようにね。レイ一門はすぐそれ使うから」

「ククク……ひどい言われようだな。まあ事実だからしょうがないけど」


 こうして軍医とロコに見送られ、ルーキたちはRTAを開始した。


 ※


「俺のチャート曰く、まずはここからだ!」


 竹林を出て真っ先に向かったのが、ルーキの自宅近くの大通り。

 通称、屋台通り。


「わあ、屋台がいっぱい出てます」


 路の端にずらりと並んだ屋台に、サンは驚いた様子で目を見張る。


「ここが走者たちの朝の台所だ。今はもうピークを過ぎてるけど、朝飯時は道を埋め尽くすくらい店が出てるんだぜ。今度はここに食べにくるから、紹介しておくよ」

「ありがとうございます。楽しみです 廿v廿)」


 サンは嬉しそうに微笑んだ。よし、まずはチャート一つ消化。上々の滑り出し。


「それじゃあ、早速次の目的地に――」


 行きかけたその時。


「そこの走者止まれ! RTA警察だ!」

「ファッ!?」


 突然矢のように背中に刺さった言葉に、ルーキは反射的に首をすくめた。

 RTA警察。それは走者ならば誰もが恐れる鬼の組織。


「幼い少女を()()もつれて街を練り歩いている怪しい走者がいると聞いた! ちょっと署まで来てもらおう!」

「あっ、あの違うんですうううう! これには訳が――って、ケイブ警部補!」


 言い訳しながら振り向いたルーキは、そこにいる警官が見知った顔であることに、ある意味歓喜の声を上げていた。

 高身長で細身ながら頑強な佇まい。特に警察帽の下の目つきは鷹を思わせる鋭さで、これが赤の他人ならば一発で足がすくむような相手だが、幸い彼のことはよく知っている。


 ケイブ警部補。

 RTAでしょっちゅう顔を合わせるし、ニンジャであるサクラの上司的な立ち位置も務めているため繋がりは太い。過去には一つの街を救うために共に戦ったことすらあるのだ。


「なんだ、ルーキか」


 あんのじょう、ケイブは鋭利な目つきをわずかに緩ませ、こちらの名を口にしてくれた。

 これで誤解は解け――。


「いずれこうなると思っていた。では観念して署まで来い」

「何でえっ!? どういう意味ですかそれ!? ほら、この子はサンですよサン!」


 あくまでしょっ引こうと手を伸ばしてくるケイブに、ルーキは慌ててサンを紹介した。

 その彼女が、まるでこちらを守ってくれるかのように前に一歩出て話す。


「こ、こんにちは。前に一度、お会いしましたよね……」

「ああ、君か。王都から引き上げる時に付き添ったな。その後変わりはないか?」


 今度こそ温和な面差しになって、ケイブ。


「はい。その節はお世話になりました」

「礼はいい。君が健やかに過ごしてくれるのが一番だ。今日はお出かけか?」

「はい。ルーキさんたちに街を案内してもらっているんです」

「そうだったか。……職質のフリをして、ちょっとした厄介事を押しつけるつもりが、アテがはずれたな」

「おいィ!?」


 と非難の声を上げたルーキに、「ちょっと待ってほしいんすけど警部補殿」との不満げなサクラの声が重なる。いかに上役とはいえ、この横暴にはさすがに一言言いたくなったらしい。


「いいゾ~サクラ! 頼む言ってやってくれ!」

「さっきの幼女三人ってなんすか? サクラもニーナナたちと同じ扱ってことすかねえ!?」

「そっちかよぉ! 別にいいじゃんか……」


 ルーキがツッコミを入れると、サクラも目を尖らせ、


「よかないっす! いくらなんでもそこまで小さくないっしょ!? なら兄さんもショタになれっす! 可愛がってやるっすから!」

「なろうと思ってなれるもんじゃねえよ!」


 今度はこちらで揉めだす様子を見たケイブはフッと笑い、


「こんなところでもたついていると、街を見て回れなくなるぞ」

『あっ……』


 完璧な徒歩チャート。早くもトホホチャートになりかける。


 ※


 まずいですよ!


 早速のアクシデントに時間を取られた。

 RTAオープニングでのガバはレイ一門の通過儀礼。とはいえ、これでリセットしないのも一門の特権だ。急ガバ回れ。ガバった時こそ、まあいいやと落ち着いた行動が求められる。それが一門の父の教え。


 ケイブと別れたルーキが次に向かったのは街の中心にある広場。

 ここが第二の目的地だ。


「ここは? 人がすごく集まってます」

「ここには大掲示板があるんだ」


 ルタ名物、大掲示板。

 その名の通り巨大な掲示板がいくつも並んでおり、その前にいる人々が指をさしながらわいわいと何かを話し合っている。


「何が書いてあるんですか?」

「RTAの結果が張り出されてる」


 ルタは辺境の正に入り口にある開拓前線拠点だ。開拓地と中央都市部を結び、物資の中継および、もっとも大切な走者の派遣を行うという大役を負っている。


 走者の誉れは何といってもクリアタイム。いかに早く開拓地の危機を救ったか。これこそが、一般人にも理解できる端的な走者の実力だった。


 大掲示板には、日々辺境のどこかで発生するRTAのクリアタイムと走者名、そして順位が張り出される。ここに名前が載るということは、その日一日、英雄として過ごせるくらいの名誉あることなのだ。


「もしかしてルーキさんの名前も?」


 サンが目をきらきらと輝かせながら聞いてくる。ルーキはうっとうめき、


「あ……あったにはあったけどぉ、もう片付けられちゃったかなー」

「ルーキの名前はあっち 廿x廿)つ」


 はぐらかそうとしたこちらを肩で押しやり、ニーナナがサンの手を引いて小走りに駆けだす。


「あっ、ちょっとニーナナ? ニーナナさん!? まずいですよ! ほらあの……この後の予定がさ! チャートがさ!」


 ルーキは止めようとしたのだが、二人はくるっと振り返ると、


『ここでオリチャー発動! 廿v廿)人(廿v廿 』


「なっ……!? サクラ、二人が不良になっちまった!」

「これはお父さんが悪いすねえ」


 にやにや笑うサクラに背中を押され、ルーキも観念して歩き出そうとした、その時。


「ルーキ君? 何やってるんですか?」


 不意に名を呼ばれ、ルーキは顔をそちらへと向けた。


 そこにいたのは、周囲の人垣から浮き出るほどに際立った二人の少女。

 ガチで世界を救ったこともある、正真正銘の少女勇者たちだった。


とほほほよチャート。

RTA小説にあるまじきゆっくりスタート。

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― 新着の感想 ―
ロコくんちゃんはしっかりとルーキくんとの愛の結晶をアピールしといて付いて行かないのが奥ゆかしい…がトホホチャート完走後にしっかりとルーキくんとの二人の時間(はぁと)を確保してるんだろうなって… 後で吟…
おましょうま! >一家みんな揃ってるわね いいんちょはまだ一家扱いじゃないのか。サクラがちょっとドヤ顔してそう >「服装ごときでわたしより可愛くなろうとするのは許されない ∩(廿_廿∩」 >「そ、…
そこで自分もついて行かないからほよ止まりなんだよロコ!
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