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百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
第四章 魔王城(本気モード)で最終決戦することになりました
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「うう……っ」


 二人の姿に、キーラは怯んだように後ずさる。もとより近しい相手だ。セレステたちと相対するよりも堪えるだろうことは、想像に難くない。

 その時、地鳴りが玉座の間を揺らす。


「こ、今度はなに!?」

「コアが不安定になったせいだ! このままでは城ごと崩壊する!」


 ラカが叫び、玉座へと手を差し伸べた。


「魔王様、早くこちらへ!」


 しかしキーラは動かず、玉座から引ったくるようにぬいぐるみを抱き寄せる。


「勝手に逃げればいい! ぼくのことなんかほっといてよ!」


 ほとんど涙声で叫ぶと、片手に残っていた魔力を天井へ放った。

 捨て鉢の魔力はシャンデリアに命中し、そのまま崩落させる。


「危ない!」


 オフェリアを庇うようにラカが前に出るが、瓦礫が落下するのは誰もいない広間の真ん中だ。だが、そちらに注意を逸らした隙にキーラは玉座の後ろに移動している。

 キーラが壁に組み込まれた魔法陣を発動させると、隠し扉が浮き上がった。奥に続いている豪奢な廊下に、少女は逃げるように飛び込む。


「キーラ!」

「来ないで!」


 オフェリアの呼びかけを拒絶するように、キーラは勢い良くドアを閉めた。

 直後、扉を守るように魔力の防壁が生まれる。


「あっ……!」

「追いかけましょう!」

「うん!」


 断続的に続く地鳴りの中、ジルとセレステは真っ先に扉へと走っていく。コアの内部の濁りは未だ激しく蠢いているが、いつまで城は持つのだろうか。


「あっ、これは……」


 近くで防壁を見たセレステは、思わず顔をしかめる。

 扉に施されていたのは、高位術式封鎖だった。

 ジルも気づいたのだろう、不安げな表情を向けてきた。


「これって、あの時ヘルミナが使っていた……」


 セレステは頷いて、追いついたラカに問う。


「うん。だから力押しでいくのは難しいかも。ラカ、この扉の先は?」

「これは転送扉だ。魔王様の私室の前の廊下に繋がっている」


 転送扉、名前の通り転送陣の扉版である。

 転送陣と違って魔力での妨害を受けにくいという特徴があるため、おそらくこの状況でも正常に動作はしているだろう。であれば、キーラの居場所も一応は把握できたということになる。

 セレステは腕を組むと、とりあえず頭に浮かんだ案を述べた。


「うーん……じゃあ下まで戻って直接迎えに行く?」

「反対です。この状況ではリスクが大きすぎます」


 ジルが冷静に首を振る。確かに、悠長に戻っている暇はなさそうだ。


「とは言ってもそもそも脱出も難しいんじゃ……あ、転送はもうできたりする?」

「いや、コアが動いている限りは無理だろう」

「なるほどね……」


 首を振るラカに、セレステは改めて状況の危うさを再認識する。

 脱出を試みるにしても、なんとかしてキーラを連れて行かなければオフェリアは動かないだろうし、力づくでオフェリアだけを連れて行くという選択肢はセレステの中にはなかった。

 まずは、なんとかしてキーラを部屋から出さなくては。コアを何とかするのは、その後だ。

 八方塞がりの中、オフェリアはというと歯がゆそうに状況を見守っていた。心配しつつも何も出来ないというのが悔しいのだろう。

 何か声をかけるべきか。そう思って目を向けたセレステは、気づいた。

 オフェリアの赤い髪飾りが、うっすらと光を放っている。


「リ、リア。それ、髪飾り――」

「えっ……?」


 淡い輝きのため意識できていないのか、オフェリアは首を傾げた。

 しかし後の二人はセレステの指摘に気づいたようで、ぼんやりと輝く髪飾りを注意深く見ている。

 セレステは、ヘルミナの言葉を思い出していた。そうだ、確か高位術式封鎖は「術者を倒す」か「鍵を使う」ことで開けられるはずだ。

 で、あれば。


「リア、ちょっとこれ……触ってみてくれる?」

「は、はい!」


 頷いておずおずと手を伸ばすオフェリアを見て、ジルが心配げに問う。


「き、危険では?」

「大丈夫、ただの壁だよ」


 答えながら、セレステは防壁を指でつついてみせた。つるりとした感触の半透明の壁に、水面のように波紋が広がる。一般的な魔力の防壁と変わりないが、その剛性はヘルミナとの戦いで充分に体感済みだ。

 しかし同じようにオフェリアの指が触れると、扉を守っていた防壁は瞬時に溶け去った。


「こ、これって……」

「やっぱりね。キーラとお揃いの髪飾り、それがこの術式封鎖の「鍵」だったんだ」


 それは、セレステの予想通りだった。

 オフェリアにだけは来てほしいから狙ってそう設定したのか、それとも父王がこれを鍵として設定したままだったのか。どちらにしても、絆の証が最後の壁を破る鍵となったのは確かだ。


「よかった……これで先に進めますね。急ぎましょう」

「待って下さい!」


 ほっと息を吐いて扉に手を伸ばすジルを、オフェリアが慌てて制止する。


「皆で行けば、また心を閉ざしてしまうかもしれない。だから……」


 オフェリアは、決然と言った。


「ここは、わたしに任せてください」

「王女殿下!?」


 耳を疑うジルだったが、オフェリアは続ける。


「無理は承知しています。ご心配してくださってるということも。だけど……お願いします。キーラにはまだ、伝えなくちゃいけないことがあるから」

「ですが……せめて、部屋の前まで護衛を」


 確かに、崩壊する魔王城は一人で歩くには危険すぎる。それにコアを破壊したとはいえ、罠がないとも限らない。ジルの立場としては、心配もなおさらだろう。

 だが同時に、今のキーラの心を開けるのはオフェリアだけだろうというのも事実だ。


「……ジル、リアに任せよう」

「しかし……いえ、わかりました」


 セレステの言葉に、ジルは躊躇いながらも手を離した。


「オフェリア様、私からもお願いします。どうか、魔王様を――」

「はい、必ず連れてきます。だから、笑顔で迎えてあげて下さい」


 頭を下げるラカに頷くと、オフェリアはドアに手をかけ、開けた。

 容易く開いた扉の先には、先程キーラが駆け込んだ廊下が続いている。その先にある扉が、キーラの部屋の入口だろう。


「セレステ様」


 廊下に足を踏み入れたオフェリアは、振り返って勇者を呼ぶ。

 その顔に浮かんでいたのは、眩く――頼もしい、笑顔だった。


「やっと見つけました。わたしのやりたいこと」

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