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百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
第四章 魔王城(本気モード)で最終決戦することになりました
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「セレステ!」


 ジルが駆け寄るが、既にセレステの姿は魔法陣とともに跡形もなく消えている。

 床に尻もちをついたままのオフェリアも、事態に気づいたようだ。


「セ、セレステ様……!」

「転送陣はおそらく玉座の間に繋がっているはずだから、このまま進めば――」


 ラカの言葉を遮るように、再び地響きのような音が聞こえてくる。直後、廊下を塞ぐように壁がせり出してきた。


「なんだ!?」

「ちっ……始まったか!」


 完全に行く先を塞いだ壁を前に、ラカが舌打ちをする。

 見れば、まるでその代わりのように、左右の廊下の壁が「開いて」通路が生まれていた。

 直線だったはずの道が、一瞬で丁字路に変化してしまったのだ。


「これは……もしかして、さっき言っていた……」

「ああ。城の構造を変化させる、コアの迷宮化機能だ」


 ジルは先程のラカの「状況に応じて罠や魔物を展開させ、城の構造すら変化させることができる」という言葉を思い出した。まさか全部まとめて味わうことになろうとは。

 オフェリアが不安げな表情で問う。


「その……全部行き止まり、ということはないんですか?」

「ええ。万が一コアを乗っ取られた時のために、かならず玉座へ続く道は一本だけ残るようになっているはずです。ただ、迷宮の構造はランダムなのでルートは総当りで見つけるしかないのですが……」


 ラカの説明は気休めというにも不十分なものだったが、オフェリアは自らを励ますように頷いた。


「それじゃあ、頑張って見つけましょう。セレステ様もキーラも玉座の間にいるんですよね?」

「はい、恐らくは。しかし、おそらく迷宮化の影響で道のりはかなり複雑になっているはず……長丁場を覚悟しなければなりません」

「魔力は追えませんか? 確か、ヘルミナがそんなことを言っていましたが」


 ジルが問う。


「すまない……コアの影響で、魔力探知は難しい」


 首を横に振るラカに、ジルは内心で焦燥が膨れ上がるのを感じた。転送先が玉座の間だとしたら、今セレステは一人で魔王と相対していることになる。

 まさか簡単にやられるということはないだろうが、それでも相手は魔王である。魔力の片鱗は目の当たりにしたし、今の彼女には得体の知れないもの――コアまでついている。いかにセレステと言えど、容易くは行かないだろう。

 いや、苦戦で済んでいればまだいい。到着が遅くなれば、あるいは――


「……っ!」


 不吉な予想を振り切るように、ジルは首を振る。

 まだ結論を出すには早すぎる。まずは落ち着いて、目の前の道から順番に探っていけばいい。

 ひとまず深く息を吸って――

 鼻から酸素を吸い込み、ゆっくりと肺腑を満たしていく。

 そこで、ふとジルは気づいた。

 匂いだ。

 通路の先から香る、ほんの微かな匂い。

 それは丁字路の右側、さらに奥の分かれ道を左に曲がった先へと続いていた。


「……ジル?」


 ジルの異変に気づいて、オフェリアが訝しむ。

 しかし、嗅覚に神経を集中するジルには聞こえていない。

 気のせいを疑うぐらいうっすらとした香りは、ごく最近の記憶を刺激する。

 ――これで、貴方の臭いは覚えました。

 そうだ。王都、セレステと出会って間もない時に自分が言った台詞だ。

 ジルは確信した。この匂いは――


「……セレステ」


 呟いて、ジルは道の先へ目を向ける。間違いなく、これはセレステの匂いだ。

 それは直感ではなく明確な感覚として、ジルの嗅覚に存在を伝えてくる。

 セレステは転送陣で送られたため、本来辿るべき足跡臭は存在しないはずである。それでも匂いがわかるのは、それだけ距離が近いという証拠だ。

 おそらく迷宮化したとしてもそれは間取りを複雑にするだけで、距離そのものに変更はないのだろう。

 そうと分かれば、まごついている暇はない。


「こっちです。こっちの道の先にいます!」


 迷わず右側の道に踏み出したジルは、二人に付いてくるように促した。


「ま、待て! 分かるのか!?」

「大丈夫、セレステの匂いは覚えています!」


 慌てて問うラカに、ジルは頷いた。

 あの時、地の果てまで追っていくと言った匂いを、自分が忘れるはずもない。

 それにここは雑踏ではない。敵には人間も動物もいない。機械人形と魔物のみならば、匂いをくらます者もない。

 そして何より、本能に由来する力の前にはコアの撹乱も意味がないのだ。

 匂いの(しるべ)の先を見据え、ジルは自信とともに言い放った。


「私は、鼻が利くんです!」

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― 新着の感想 ―
[一言] これはもう夫婦といっても過言ではないのでは
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