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百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
第三章 魔王城についたら速攻で魔王と謁見する羽目になったし、その上めっちゃ大変なことになっちゃったんですけど
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 玉座の間へ続くという廊下を進みながら、セレステはきょろきょろと周囲を見回していた。

 なにせ魔王城だ。本で読んだり話で聞いたりしていた場所に、まさか本当に来ることになろうとは。つい二日前までは思いもよらなかった状況である。

 しかし転送室でも感じたことではあるが、魔王城の内装は予想と全く違っていた。

 掃除は行き届いていて清潔だし、特に禍々しい意匠が施されているというわけでもない。やはりこういうイメージは、後世の脚色に依るところが大きいのだろう。


 一番目にとまるのは、そこかしこで忙しく働く機械人形たちである。

 魔王の城ともなればそれこそ魔族が大勢働いていそうなものだが、意外なほどにその姿はなかった。

 むしろ、ここに来てからヘルミナとラカ以外の魔族をまだ目にしていないことに気がつく。


「人形ばっかりだ。ラカ以外には誰もいないの?」

「魔王様は用心深いお方だ。使用人の類は全て機械人形が担当している」

「へえ、私の時代とはだいぶ変わったのね」


 感心したようなヘルミナに、ラカは苛立ちを露わに顔を向けた。


「……なぜお前が平然と付いてきてるんだ。そもそも事態が拗れたのはお前のせいでもあるんだぞ」

「あら。私が暴れようと暴れまいと、最初から王女様を連れて行く予定だったんでしょう?」

「そもそも魔王様のご友人が王女殿下だとは知らなかったし、無理やり連れて行くつもりも全く無かった。人聞きの悪い言い方をするな」

「ふぅん? じゃあなんで貴方だけがあそこにいたのかしら。そもそも、会いたいだけなら魔王様が直接あそこに行けばよかっただけじゃないの」

「貴様――」

「ふふ、図星かしら?」


 ある意味では正論とも言える内容をぶつけて、ヘルミナは煽るように嘲笑する。

 おそらく、魔王が外に出られない理由があるのだろう。だがヘルミナがそれを指摘できる立場かと言えば、かなり怪しいのも確かだ。

 放っておくと無用な争いになりそうなので、セレステはとりあえずヘルミナを嗜めることにした。


「まあまあ。ヘルミナ、そういうの良くないよ? 仲良くしなきゃ」

「あら……ご主人さま、私、悪い子でした? ……お仕置き、されちゃいますか?」


 ヘルミナはそう言って、媚びるような目を向けてくる。これはさすがに予想外の反応だった。なるほど、どこからでも貪欲に狙ってくるスタイルらしい。


「……してほしかったらいい子にしてなさい」

「はぁい♪」


 「お仕置きをしてほしかったらいい子にしていろ」というのも変な話ではあるが、ヘルミナは納得したようだ。セレステは徐々にこの変態魔族の扱い方が分かってきた気がした。

 そのやり取りを信じられないものを見るような目で見ているのは、ラカである。

 武名で鳴らした旧四天王の変貌ぶりに混乱したのだろう。平然としているジルに、助けを求めるように問う。


「……ど、どういうことだ?」

「私に聞かないで下さい」


 関わりたくないといった調子で返し、ジルは粛々と廊下を踏みしめていた。

 とりあえず危機は去ったと見て、セレステは後ろをついてくるオフェリアに話題を振る。


「リアはどうだったの? 楽しかった?」

「ええ、とっても! だってずっと会いたかったお友達に10年ぶりに会えたんですもの!」


 溢れるような笑顔のオフェリアは、セレステが最初に会った時よりも明るく見えた。ゼルキーラに会えたことがよほど嬉しいのだろう。


「……帰るのは、平気?」

「王都に、ですか? そうですね……」


 楽しそうなオフェリアを見るにつけ、当人の気持ちをさておいて話が進んでいる気がして、セレステは聞かずにはおられなかった。もちろん、帰りたくないと言われても困るわけではあるが。

 セレステの問いに、オフェリアは顎に指を当てて考え込む。

 何も言わずに先頭を進むラカの歩速が、聞き耳を立てるかのように若干緩んだ気がした。あちらとしても気になるところなのだろう。


「……本当は、もっと一緒にいたいですけど。でも、何も言わないで家出してきたようなものですからね。お父様とお母様も心配しているでしょうし、一度帰らないととは思っています。それに、両親にもちゃんとお話して、今度はキーラをお城に呼びたいですから」

「そっか」


 穏やかに答えるオフェリアに、セレステは安心した。そうなると、次のハードルは国王ということになるのだろうか。

 もし上手く行けば、オフェリアの代には「休戦」が「終戦」に変わっているかもしれない。誘拐という第一印象だけなんとかできれば、だが。

 見れば、ラカの歩幅は戻っていた。向こうも安堵したらしい。


「そういえば、どうやってこちらまで来られたんですか? 王都からは遠いと聞きましたが」

「ヘルミナに連れてきてもらったんだ。転送術でさくっと」


 セレステの言葉に、ぱあ、と、また一段階オフェリアの表情が明るくなる。


「転送術……というと、ヘルミナ様も魔族の方なんですね! お二人はお友達なんですか?」

「え、あー……そうかな? あはは」


 屈託のないオフェリアの笑みに、思わずセレステは視線を逸らした。ヘルミナと「お友達」になった方法が、オフェリアの想像とはかけ離れていることはまず間違いない。

 具体的にどうやって仲良くになったかなどと聞かれたら、どう答えるべきだろうか。あるいは、オフェリアの後学のためにも下手に隠さずに言ってしまったほうがいいのだろうか。

 そんなことを考えていると、豪奢な大扉が見えてきた。魔王の紋章と思しきレリーフを設えた構えは重厚で、威圧感すら放っている。


「到着したぞ。ここが玉座の間だ」


 廊下の先に階段が見えるが、目的地はここらしい。この先は、見張り台か展望台のようなところに繋がっているのだろうか。


「近衛兵、開けよ」


 ラカの命令を受け、両脇に控えていた武装した機械人形が扉を開ける。

 重い音を立てて分厚い扉がゆっくりと開くと、玉座の間の絢爛が目に飛び込んできた。

 歩を進め、扉をくぐるとその広さにもため息が出る。高い天井にも豪壮な彫刻が施され、空間全てが魔王の威光を称えるかのようだった。


「うわ、すご――――え?」


 ほとんど出かかった感嘆のため息を、セレステは半ばで飲み込む。

 その理由は、玉座の上にあった。

 本来であれば魔王が座っているはずのそこに鎮座していたのは、大きなクマのぬいぐるみだったのだ。

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