表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合の勇者と犬耳兵士~いいのか?私はいちゃいちゃするほど強くなるんだぞ?~  作者: テモ氏
第二章 伝説の魔術師を訪ねて山登りしたらえっちなお姉さんと決闘することになりました
20/41

「しかしじゃな……あの酒飲み以外がここに来るのは本当に久しぶりじゃのう」


 ハーブティーを喫する二人に、ティオは楽しげに言う。

 自家製のハーブで淹れたという茶の香りは爽やかで、味もすっきりとしていて美味だ。

 ジルは鼻が利く分、味覚も鋭いのだろう。一口啜ると少し驚いたように淡黄色の液体に目を落とし、それからすぐに再びカップを傾けた。どうやら、この味が気に入ったらしい。


「ナシュハクさんも来てるんですね」

「うむ。あれは若いのになかなか見どころがある。番犬代わりのオークどもにも気づかれず、上手いことここまで来るしな」


 その言葉に、ジルはカップから顔を上げた。番犬代わりのオーク、と言えばあの針付きの個体たちのことだろう。崖の件を思い出しているのか、その表情は苦々しげだ。


「……あれが番犬代わり、ですか」

「おや、知っておるのか。もしや、遊んでやったのかの?」

「人が悪いなあ、見てたんでしょ?」

「うむ、見事な戦いぶりだったぞ」


 悪びれもせず、ティオはにやりと笑って頷く。幼い姿をしていても、そこには確かに大魔術師たる貫禄が滲んでいた。


「さて、それでは――本題に入るか」


 居住まいを正し、ティオは黒瞳を細めた。ジルがうなずき、説明しようと口を開く。


「ええ、実は――」

「魔族に王女が攫われたのじゃろう?」


 ティオに先んじられて、ジルは少し驚いたようだった。一瞬の沈黙の後、返答する。


「……ご存知でしたか」

「見くびるな、わしに見通せぬことはないぞ。しばし待っておれ」


 そう言ってティオが本棚から抱えてきたのは、一冊の大判な本――書籍型の魔術杖だった。テーブルの上に置くと、真ん中辺りのページを広げて片手をかざす。


「〈天眼(クレアボヤント)〉!」


 乳白色の魔力光が掌から白紙のページに吸い込まれたと思うと、空間に大陸の地図が浮き上がった。紙に描いてあるものとは違い、大陸をそのまま小さくしたかのように立体的で精密だ。


「さてさて、どこかのう……おお、見つけたぞ」


 ティオはあっさりと目当てを発見したらしく、指先をページに這わせて地図を拡大する。

 地図は王国の西、魔王領の中心部を大写しにしていた。険峻な山に囲まれた要害と思しき場所に、赤く光る点がある。


「この光点が示すのが、お主らの探す者の居場所じゃ――ほほう、やはりな」


 その位置にティオは愉快げに口の端を持ち上げるが、ジルは反対に表情を硬くした。


「これは……」

「うむ、魔王城じゃな」


 ティオが頷く。

 つまり当初の危惧通り、王女は魔王城に連れ去られたのだ。


「……結構遠いね。なるべく急ぎたいところだけど……これじゃ相当かかるんじゃない?」


 魔王城と現在地との距離を見て、セレステは眉根を寄せる。

 最短距離で考えたとして、馬と徒歩の併用で向かったとしても12日以上は確実にかかるだろう。

 それだけでもかなりのものだが、これはあくまで「何も障害がなかった場合」である。

 魔王領には何が待ち受けているかもわからない。地形や経路の問題のみならず、敵との戦闘、あるいはそれを避けるための迂回など、様々な状況を考慮すれば正確な旅程の予測はほぼ不可能と言える。


「転送魔法みたいなものは使えないんですか? あのとき魔族たちがやってたような」


 ジルが指すのは、ヘルミナやラカが闘技場で見せたもののことだろう。ゲートのようなものを発生させ、現在地と任意の場所を結びつける術式である。一般的に、魔族が得意とするものとして知られている。


「うーん、難しいね」

「そうじゃな……あれは魔族特有の魔術体系じゃから、詳しいところが分かっておらぬのよ」


 二人の魔術師が揃って難色を示したことで、ジルは問題の難しさを理解したようだった。厳しい表情で地図に視線を戻し、呟く。


「となると、地道に行くしかない……ということですか」

「まあ待て、参考になるかはわからんが……」


 ティオがページの上で何やら指を動かすと、国境線から魔王城までの経路が地図上にいくつか表示される。

 各経路を示す色違いの線には、それぞれ可愛らしいイラストとともに「こそこそきつねさんルート」「ゴリ押しゴリラさんルート」などという名称がついていた。これはティオのセンスなのだろうか。


「百年前わしらが使ったルートじゃが、参考にはなるじゃろう。わしらの時はまず、このゴリラさんルートを――」


 説明するティオの声をかき消したのは、家の外からの爆発音だった。


「何じゃ!?」

「ジル!」

「はい!」


 驚くティオをよそに、セレステはジルとともに外へ飛び出す。爆音に混じって聴こえたのは選抜会場が襲撃されたときと同じ、魔術由来の高周波音だ。

 家の前に立っていたのは、果たして予想通りの姿だった。


「お前は……!」

「ふふ、二度目のお目見えになるわね」


 ジルの絞り出すような声を受けて、魔族の女は妖艶な笑みを浮かべる。女は纏った黒いコートを翻し、恭しく礼をした。


「――<漆黒伯>ヘルミナ、推参仕りましたわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ