終幕前夜
「何と……では、強襲部隊は全滅したというのか⁉ そんなバカな話があるか! 二百人とはいえ、この短時間で殲滅できるほど兵力差があるわけではないだろう! どうやって敵はこちらの兵を討ったというのだ?」
「はっ。坑道を監視していた別動隊によりますと、まず坑道内へ敵が逃亡し、それをこちらの強襲部隊が追撃。それからしばらく経った後、坑道内で爆破音のようなものが確認されたとのことです」
「強襲部隊の連中から救難信号は⁉」
「残念ながら、出ておりません……。私も入り口付近を調査したのですが、どうやら敵は坑道の天井を何らかの方法で落盤させたようです。それに巻き込まれ、部隊は全滅したと考えられます」
伝令の言葉に、天幕が重苦しい空気に沈みます。状況を打開するはずだった作戦で予想外の被害、しかも相手に一矢報いることなくその道は閉ざされてしまいました。
「ここは救援部隊を編成して救助に向かうべきでは? 坑道の崩落が直接の原因ならば、生存者もいるでしょう」
「いや、それは早計ではないだろうか。いくら夜間とはいえ、今から坑道に戻ればそれこそ敵の思うつぼだろう。これ以上兵の損害を出すわけにはいかん」
「それでは見捨てると申されるのか! 貴殿の部隊ではないから分からんかもしれんが、こちらの兵は今回のことに激怒しておるのだぞ!」
天幕が怒号に溢れかえる中、唐突に彼らの後ろで何かが壊れる音が響きます。司令官たちが怪訝な表情で振り返ると、そこには木製のテーブルを叩き壊して荒々しく息を吐く総司令官の姿がありました。
「この———この蛮族共が! では、我が軍は犬畜生と変わらぬ下賤な奴らにコケにされたということではないか! ええ⁉」
「そ、総司令官殿、どうかお気を確かに」
「これが落ち着いていられるか! それとも貴様は、我々が奴らよりも下だというのか?」
「いえ、そんなことは……それに我々にはまだ多くの兵がおります。正面からぶつかれば、こちらの優勢は火を見るよりも明らかなのです」
まくしたてられるように並べられた言葉に、総司令官はハッと表情を変えて浮かしていた腰を椅子に落とします。大きく息を吐くと、ジロリと司令官たちを睥睨しました。
「我が軍が、蛮族共と正面からぶつかれば必ず勝てる。それは間違いないな?」
「ええ、兵力差から考えて妥当かと……」
「ならば明日、全軍による総攻撃を行う。明日の午前中に、何としても渓谷を突破せよ」
「し、しかし我々には有効な手段がございません。このまま兵を突撃させては、犠牲も多く出るかと……!」
「では貴様のどの権限で、この雪辱を果たすというのだ? 死んでいった兵たちも申し訳が立たんだろう!」
総司令官の言葉に、委縮した司令官たちは何も言い返せないまま押し黙ります。確かにこれまでは、渓谷へ突撃させる兵を絞りながら進軍していたため、目立った効果は出ていませんでした。しかし全軍で渓谷の攻略にかかれば、もしかすると難攻不落の砲台すら落とせるかもしれません。
そんな考えがゆっくり司令官たちの脳内を支配し、追い詰められた状況が総攻撃の危険性に気付かせないまま甘い未来を彼らに幻視させます。
「……では、総司令官殿の作戦を決行いたします。日時は明日、日の出と同時ということで」
こうして、エレナの予想通り総攻撃が決定されたのでした。




