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天才王女と天才商人は、不穏を察知します

「それで、ウチの商会はどんな調子? 上がってくる報告書には良いことしか書いていないのだけど」


「実際、シャルロット商会はかなりの好調子が続いておりますよ。私自身が王国の各地に存在する支社に足を運び、現地の住民に聞いた感じからも悪印象は感じ取れませんでしたね。

 現在の課題としては、需要に対して供給が若干追いついていないように感じるところですね。それが良いブランドイメージの形成を促進していると言えばそこまでなのですが……」


「そう……まあ、スミスさんがそう言うのなら間違いはないでしょう。もともと貴方の本領は、顧客と密接な関係を構築して商品を宣伝することだものね。

 貴方のやり方を真似てサプリメントと薬品を宣伝したら、面白い具合に売れてね? 私の想像以上に売れてしまったから需要が供給を追い抜いたのね。でもまあ、数値を見ている限り許容範囲内だと思うわ。ここで無理に生産量を上げようとして品質を落としては本末転倒だもの」


「了解いたしました。全社にそのように通達しておきます」



 孤児院で目一杯遊んだ一週間後、私とスミス、アンネの三人で商会絡みの打ち合わせをしていました。まだかすかに筋肉痛が全身を火照らせていますが、仕事は私の都合を考えずに押し寄せてくるものです。



「アンネの方は相変わらず順調? まあ、私が心配するようなことでもないとは思うけれど」


「ええ、おかげさまで順調よ。エレナちゃんの商会と合わせて、国内の大きなシェアはほとんど独占したと言っても過言ではないと思うわ。

 本当ならそんなことをすれば同業者から恨まれるものだけど、シャルロット商会の従業員育成所が上手く取り込んでくれているから目立った反発もない。あそこの所長って何て名前だっけ?」


「リリンフェルトさんよ」


「そう、リリンフェルト! あの人結構な切れ者よね。出来ればウチに引き抜きたいぐらい」


「あら、アンネでもあげないわよ? 彼は私が帝国から引っ張ってきた有能な人材だもの。あ、ミリダありがとう」



 ミリダがすっと差し出した紅茶に口を付けつつ、アンネと軽口を交わします。報告書である程度のことは分かっていましたが、こうして直に聞くのとではやはり情報量が違います。

 それにスミスさんとは最近話せていませんでしたから、ちゃんと本人の口から近況を聞いておきたかったというのはあります。



「ところでなんだけどさ———」



 アンネがぽつり、と言葉を漏らした瞬間、部屋の空気が数℃下がったような錯覚に襲われます。なぜでしょう、頭の片隅で警鐘が鳴り響いて止まりません。



「ウチが王国北部に展開してる支社からの情報なんだけど、お隣さんが結構キナ臭いことになってるみたいでね。エレナちゃんならすでに気付いているかもしれないけれど、一応耳に入れておくわ」


「……もちろん、共和国に不穏な動きがあるのは分かってるわ。まだ共和国は動かないと予想していたけれど、私にアルカルト、アンネまで不穏を察知したとなれば看過できないわね……

 王都から一番離れた北部地域に不穏な動きあり、ね。いやな符号だわ」



 しかも間の悪いことに、例の砲台の設置が完了していないのも北部地域だけなのです。報告ではもうすぐ設置が終わるとのことでしたが、果たして事が起こるまでに終わるでしょうか……?



「一応、王国としても軍備を整えておくわ。それとスミスさん、北部に出している支社の人たちには、いざとなれば全ての業務を放り出してもいいから身の安全を確保するように通達しておいて」



 あとはケーネを呼んで、北部の住民に避難命令を出しておくことは急務ですね。建物が壊れてもお金があれば直せますが、民の命はお金で買えませんから。


 思考を巡らせながらやることを整理していると、執務室へ慌ただしい足音が近づいてきました。


 まさか———



「エレナ、ヤバいことになったぞ!」



 いつもは冷静なケーネが、悲鳴じみた声と共に執務室に飛び込んできたのです。


 最悪の予想が、現実になろうとしていました。

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