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天才王女は、謎の旅人と面談します

 さて、今日は例の旅人さんとの面談です。一応、旅人さんの動向をリダに探らせておきましたが、あまり詳しいことは分かりませんでしたね。今のところ、本当に観光をしに来ただけのようです。

 別の場所で面談してもよかったのですけど、移動している時間がもったいないので王宮で応接することにしました。


 そんなわけで、目の前には件の旅人さんが座っています。



「本日は時間を作っていただき、誠にありがとうございます。私はアルカルト、辺境出身の旅人です」


「知っていると思うけど、私はエレナ。この国の王女よ。今日は何用でここへ来たのかしら?」



 引き締まった体躯に栗色の髪。年齢は二十歳を少し過ぎたぐらいでしょうか。


 その特徴的な外見は、何度か文献で学んだことがあります。



「殿下は、私たちの民族をご存知でしょうか? その様子ですと、初めてご覧になるようですが……」


「———数は少数なれど、旅によって得た見聞と代々受け継ぐ知識によって幾人もの王を陰で支え、常に時代の裏にその姿ありと伝えられた民族。カリル民族といったかしら?」



 私の答えに、アルカルトは目を見開きます。確かに彼らの民族は一般には知られていませんし、私も文献でしか知りませんでした。

 むしろ、お父様の書斎の蔵書量が異常すぎるという説が濃厚です。文献にもほとんど載っていませんでしたし、よほどの知識人でもない限り知っている人なんていないでしょう。



「よもやご存知とは! その博識には恐れ入りました!」


「で、そのカリル民族がなぜ私の元へ? ただ挨拶を来ただけのようには見えないけれど?」


「この度は、エレナ王女殿下に折り入ってお願いをしに参ったのです」



 ほう、この私にお願いですか。


 わずかに目を細めて、彼の次の言葉を待ちます。一呼吸の後、アルカルトは意を決したように口を開きました。



「この国に、私たちの土地を頂きたいのです。誰からも迫害を受けない、安寧の地を」


「……それは、自治権をよこせと? 随分と思い切ったことを言うわね。貴方たちの能力があれば、どこの国でも良い待遇で受け入れてもらえるでしょう?」


「我々が求めるのは、道具として生かされることではないのです。いつの時代、どこの国にも我々の知識を欲し、悪用しようとする為政者がいるのです。そんな奴らに我々は迫害され、今ではもう百人に満たないほどに……」


「私もまた、為政者なのだけど? 当の本人の前で、いささか不用意な発言じゃない?」



 さあ、これにどう切り返してきますか?


 いきなりやってきて『自治領が欲しい』など、到底認められることではありません。これだけ馬鹿げたことを言うとは、掛け値なしのバカなのでしょうか?



「道中で、王国の様子をいろいろと拝見しました。整った街路に上下水道、最先端の工法で作られた学校には平民たちが無償で通い、全ての身分の者が笑顔で暮らしていました。

 そんな政治をする人間が、我々の知識を悪用するとは思えません。だからこそ、こうしてお願いに参ったのです」



 唐突に椅子を立ったところで、後ろに控えていたケーネが警戒姿勢を取りました。


 ケーネに続いて衛兵たちも武器を構えますが、私はあわててそれを制して口を開きます。



「待って、彼に戦闘の意志はないわ! ほらケーネ、貴方も落ち着いて!」



 言っているうちにアルカルトは帽子を取り、跪いて最敬礼の姿勢を取ります。唐突な行動に私たちが面喰らっていると、彼はゆっくりと口を開きました。



「どうか、私たちに生きる場所をくださいませんか? その見返りと言っては何ですが、我々の知識を王女殿下の政治に使っていただきたいのです。

 この国のような理想郷の礎にならば、喜んでなりたいのです」


「それはお断りよ。

 私はこの国のために、誰一人として犠牲を出すつもりはないの。誰かの犠牲の上に成り立つ国家が、本当に住みよい国であるはずがないもの。

 だから貴方たちは、命ではなく知識を私に預けて頂戴。もし知識を貸していただけるのなら、貴方の要望を叶えましょう」



 これが、後の天才宰相アルカルトとの初対談でした。


 

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