天才王女の両親は……
「———入りなさい」
ドアを3回ノック。中からお父様の低い声が聞こえてきます。声に従って、私は入室します。
「失礼します」
部屋の端には大きな天蓋付きのベットが。そこには半身を起こした怜悧な面持ちの男性——————私のお父様がいらっしゃいました。その横にはお母さまが寄り添うように寝転んでおられます。まったく、いつ見ても仲の良い両親です。
私はベットのそばの椅子を引き寄せると、お父様の視線の先にちょうど顔が来るように座ります。
まあ、そのせいで鋭い眼光が嫌というほど突き刺さってるんですが。
「———以上が、本日の執務の内容になります。会談の内容をまとめた資料はこちらに」
「ふむ……委細承知した。二番目の資料だが、王都と各公爵領との交易が増加しているな。理由は何だと思う?」
「去年行った街路整理の影響だと思われます。王都の外や各領の外れであっても、主要街路は大型の荷馬車が対面できるだけの道幅を確保いたしました。それによる交易の増加が主な理由だと考えられます」
「それも当然あるが、それを行ったのが王家であるという事実も大きいのだ。交易を王家が後押ししているという事実に商人たちは反応し、長期的な利益が見込めると踏んだゆえの結果なのだ」
「なるほど……ありがとうございます」
今は政務に参加しておられないとはいえ、つい最近までこの国の舵取りをなさっていたお父様。さすがは着眼点が違うわ。
「して、本日はどのようなご用件で? ここに来る前、ミリダにお父様が話があると言われたのですが……」
「ああ。とは言っても、エレナは断るかもしれんがな」
一瞬、頭の中に疑問符が飛び回ります。私が断りそうなことで、すでにお父様が知り得ていること……全く見当がつきません。
「エレナに帝国の第二皇子から縁談の打診が来ている」
「は? 私にですか?」
いけない、思わず素が出ちゃった。この私に、縁談? しかも帝国が? 意味わからないんですけど。
「そう、お前にだ。もっとも、帝国主催のパーティーにエレナを誘いたいということが書かれていただけだがな。まあ、お前も読んでみるといい」
そう言いながら差し出される手紙。宛先はお父様で、送り主は帝国の第二皇子。相当上質な紙に、ずいぶんと綺麗な字でつらつらと書かれているソレにざっと目を通します。
確かに字面だけ捉えるなら、これはただのパーティーの誘いです。しかし、行間にはありありと私への好意が散りばめられていて、読んでいるこっちが気恥ずかしくなるほど。
ですがこれは……
「お父様、これは罠ではないでしょうか?」
私の言葉に、ニヤリと笑うお父様。いや、その笑みは怖いですって。
「ほう、なぜそう思う?」
「まず第一に、この時期、しかも私に対して縁談を持ちかけるというのがおかしいかと。私は現状、王国で政務を行っていますが、その当の本人に縁談を持ちかけるというのはいささか配慮に欠けるでしょう。
次に、帝国の第二皇子は愚鈍との評価です。そんな人物が、このような綺麗な字体で、丁寧な手紙をよこすでしょうか。おそらく、側近の誰かが代筆したのでしょう。本人が私に好意を抱いているかも謎です。
最後に、こんな手紙をお父様に送りつけること自体が異常です。お父様がパーティーに出席されるのでしたらまだわからなくもないですが、お父様が療養中であることは向こうも知っているはずです」
どうやら満点の解答だったらしい。お父様は凄みのある笑顔を浮かべ、お母様は艶やかな笑みを浮かべます。
ちなみにお母様は『夜会の女王』と呼ばれるほどの女性。その美貌と発言力は一国の王にすら匹敵するとまで噂されているほどの女性なの。そんなお母様のこの笑顔。女の私でも惚れそうになるわね。
「ふむ。では改めて問おう。そこまでわかっているこの誘い、お前はどう対応する?」
ここで断るのがセオリーでしょう。普通ならその断り方を考えるのでしょうが……
「お父様、私はこの誘いを受けようと思います」
私の答えに、お父様は今日一番の笑顔を浮かべたのでした。
いや、ですから怖いですって。




