お母様は反撃します
「おっと、そこから襲ってくるのは悪くないわね!」
正面の敵が銃口を向けて意識を引き、その隙に伏兵が漆黒のナイフをレーナの首筋めがけて後ろから振り下ろします。
前進すれば短機関銃の餌食になり、後退すればナイフの錆になるという状況で。
ナイフが首筋を撫でる直前、勢いよくしゃがみ込むことで回避。目標を失ったナイフがむなしく空を切り、わずかに姿勢が崩れた男の腰から拳銃を引き抜きます。
そのまま跳ね起きながら一発。続いてもう一発。
一度に二人の敵兵を床に沈め、そのままレーナは物陰へ走り去ります。
理由は簡単。
「ちょっ、それは反則では⁉」
先ほどまで彼女がいた場所で起こる、激しい爆発。撃った直後、駆け付けた敵兵が手榴弾を投げたのを視界の端に捉え、慌てて飛び退いたのでした。
「銃弾は当たらなければ被害はないけれど、爆発物は近くにいるだけで吹き飛ばされちゃうもの。私、手榴弾は嫌いだわ。
こんな調子で遊んでいてもいいのだけど、ジリ貧になりそうよね……何か、きっかけが欲しいわ」
すでに戦闘を始めて一時間近くが経過し、敵兵も着実に減りつつあります。しかしまだまだ敵兵は現れ、一向に尽きるところを知りません。
「やっぱりお父様の睨んだ通り、大臣の私兵に皇子たちが加担したんだわ。ということは、これ以上ここで粘っていても増援とやりあうだけ……うま味がないわね」
そう言いつつ、焦って詰めてきた敵兵を撃ち取るレーナ。と同時に頭を下げ、後方に控えている短機関銃持ちの射線を切ります。
しかし飛んできたのはまたもや手榴弾。転がるようにして避けると同時に、レーナの真横で炸裂しました。
幸いにも目立った傷はありませんが、隠れていた物陰から押し出された形。まさに危機一髪の状況です。
さすがのレーナも、頬に冷たい汗が流れるのを知覚する中———
「れーなさまー! お助けに参りましたぞー!」
遠方から聞こえてくる、蹄の音。地を蹴る力強い音はみるみる大きくなり、レーナと敵兵の間を駆け抜けて止まります。
思わぬ闖入者に両者とも固まる中、馬から飛び降りてレーナに駆け寄る数人の人影。硬直から復活した敵兵が銃口を向けるも、レーナが先んじて拳銃を乱射することで男たちは頭を引っ込めます。
「レーナ様、助太刀に参りました! 覚えておいででしょうか?」
「貴方たちはあの時の部隊にいた人たちよね? 何でこんな場所に来ちゃったのよ?」
「そりゃあもちろん、レーナ様を助けるためですぜ!」
「バカなことなさって! あの時拾った命を、こんなところで捨てては意味がないじゃない!」
「レーナ様、それは違いますぜ」
レーナの叱責を、しかし青年団の男が力強く否定します。
「俺たちはレーナ様、貴女に命を救われたんだ。その恩を、今返さずしていつ返すっていうんですかい」
「レーナ様、どうか俺たちを恩知らずにしねえでくれ。俺たちは確かに身分も低けりゃ金もねえ。けど、恩と忠義だけは忘れたくねえ。そんな恩知らずには堕ちたくねえんだ」
「貴方たち……本当にバカね。けど、そういうの嫌いじゃないわ」
レーナの言葉に、青年団の男たちがニヤリと笑います。
「では、まずこの場をどうにか打開しなくてはね? 状況は分かってるかしら?」
「ええ。続々とやってくる援軍に、足りない武装。しかも人員的にもこちらの方が劣勢ってところでしょうか」
「どう、怖くなった? 今なら引き返せるわよ?」
「バカ言わんでください。レーナ様の隣で戦えるんですぜ、心が震えて止める方法を探すまであるって状況でしょう!」
不敵に笑いかける男に、レーナもまた不敵に微笑みます。
「じゃあ、貴方たちの力を遠慮なく借りるわ。私について来なさい」




