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王国側は追い詰められます

 散発的に鳴り響く銃声。時折階下から聞こえてくるうめき声は、敵のものだと信じたいところです。

 

 敵が侵入してすぐに屋敷の常夜灯は切られ、今は護衛の人たちとミリダ、ケーネが持つ懐中電灯が頼りです。

 その廊下の暗がりに、曲がり角の先に敵兵が潜んでいたら……そう思うと足が竦みそうになりますが、何とか震える膝を叱咤しては前に進みます。



「……お嬢様、こちらです」



 ミリダに手を引かれるまま、私とアンネは廊下の角を曲がります。


 と同時に、最後尾の護衛さんに伸びる黒い手。



「甘い!」



 視界の外から伸びてきたはずの手をあっさり取り、そのまま相手の首に腕を巻き付けて絞め落とす護衛さん。声も上げられずに崩れ落ちる敵兵に、護衛の人たちはテキパキと縛り上げて転がします。


 誇ることもなく、奢ることもなく。ただ洗練された動きでもって敵兵を倒していく様は、日ごろ暴力に慣れていない私の目をも惹きつけます。


 以前、ミリダとケーネが訓練しているのを見たことがあるけれど、あの時の動きとは全く違う護衛さんの動き。もっと無駄のない動きで、どこか野生さを感じさせる動きです。



「ありがとう……先に進むわね」


「ええ、お嬢様。後ろは我々が死守いたしますので、どうぞお先にお進みください」



 再び走り出す私たち。いつもは柔らかくて歩きやすい絨毯が、急いでいる今は邪魔に感じられます。


 そんな調子でシェルターまでたどり着いた私たちは、転がるように飛び込むと入口の扉をきっちり施錠しました。



「……やっぱり、襲ってきよったか。しかも追手はきちんと訓練された奴らだぞ……」


「お父様の予想された通りでしたね……やはり、帝国兵が?」


「それも混じっているだろうが、多くは大臣の私兵と見たな。帝国の中でもあそこまで訓練された兵は、

奴の抱えていた私兵だけだろう」



 ザルバ大臣はその潤沢な資金でもって、帝国兵よりも練度の高い私兵を揃えていることで有名でした。帝国兵の育成カリキュラムを参考にしている時点で、他国の兵よりも練度が高いですからね。



「それに、私の調べでは先日から帝国軍最高司令官のドラン将軍が何やら動き回っているようです」


「あの『不屈』か……ということは、まだ狙われるやもしれんな。レーナ、書類はきちんと持ってきているよな?」


「え、ええ。持ってきているわ。それにしても、なぜあの高潔な将軍が———」



 お母様の言葉が終わると同時に、屋敷全体に衝撃が響きます。続いて、腹の底に響くほどの轟音。



「キャッ……! ま、まだ狙われていませんか⁉」


「狙われていますね! しかもこの振動、シェルターの扉に炸薬を仕掛けているのではないでしょうか」



 ドアは鋼鉄製で、もちろん爆薬にも耐えうるだけの厚みを持っています。ですが、敵がありったけの火力で攻めてきたら間違いなく破られるでしょう。



「お父様、とりあえず奥のシェルターへ避難しませんか……? 出口は恐らく敵兵が潜伏しているでしょうが、時間稼ぎにはなるかと……」



 私の言葉にお父様が頷き、ぞろぞろと奥へ避難します。最後に入った護衛さんが音を立てて扉をきっちり閉めます。


 ですがさっきの扉が破られれば次に狙われるのはこちらの扉であり、時間が経てば追い詰められるのは私たちです。



「どうしましょうか……狙いは文書ですから、相手のリーダーに渡せば一応退いてくれるのでは?」


「いや、相手が正規兵ならそれもありうるが今回に限っては無理筋だな。しかもここまで派手にやったからには、相手とて退くに退けんだろう」



 アンネの発言に、首を横に振りながら返すお父様。私もお父様と同意見です。


 さらに悪いことに、私たちはシェルターの外に連絡を取る手段を持ち合わせていません。援軍を呼ぶにしろ敵兵と交渉するにしろ、外と連絡が取れないことには始まりません。


 まさに絶望的な状況。一同が冷たい汗を流し、その頭をフルに回転させて打開案を見出す中———



「では、私が道を開きましょう」


 

 お母様が声を上げたのでした。



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