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お嬢様は命の危機に瀕します

「おいリリンフェルトとか言ったか、ここがお前の目的の病院か?」


「ああ、そうだ。ここの最上階に収容されているはずだ」



 リリンフェルトさんの答えに一つ頷くと、ケーネは護衛さんたちの中からエスティアさんを連れてくるための人員を選んでいきます。私もついていこうとしたのですが、みんなに全力で止められてお留守番です。手持無沙汰になってしまったので、今はさっきの戦闘でけがをした護衛さんの治療をしています。



「じゃあエレナ、俺たちはこいつの嫁を連れてくる。15分して戻らなかったら、車両を一台残して先に王国へ向かってくれ」


「嫌よ。ケーネが戻ってくるまで、私は出発しないわ。そんなこと、当たり前じゃない。

 だから、必ず戻ってきて」



 私は包帯を巻く手を止めて、まっすぐケーネを見つめます。最悪の場合、侍女と護衛さんを先に王国へ向かわせて私だけでも残るつもりです。

 私にとってケーネもミリダも、かけがえのない友人なのです。そんな彼らを残して先に行く? そんなことが出来るはずないでしょう。



「はあ……だからエレナは自分の立場を自覚したほうがいいと言ったのだが……

 仕方ない。俺が早く帰ってきたらいい話だもんな。待ってろ、すぐ戻る」


「ええ、待ってるわ。気を付けてね」


 ケーネたちが病院のロビーにたどり着いたのを見て、私はまた包帯を巻いていきます。誰も何も言いませんでしたが、おそらくみんな私と同じ気持ちのはずです。

 

 誰も欠けずに王国へたどり着く、それが私の目標なのです。




「はい、これで終わり。そんなに傷は深くなかったけど、一応王国に着いたら病院に行ってね」


「エレナ王女殿下、ありがとうございます。御手を煩わせてしまい、申し訳ありません……」


「いいのよ、私のために動いてくれて、それでケガをした人を放っておくほど私は恩知らずじゃないわ。あと、私のことはエレナでいいからね。別に公式の場じゃないのだし、呼びやすいように呼んでくれればいいわよ。

 それにしてもケーネ達、少し遅くないかしら……? 場所が分からないのかしら……?」



 頭を下げる護衛さんに会釈し、私は病院を見上げます。幸いにも重傷者はいなかったので手当も早く済みましたが、それでも15分は経っているはず。そろそろ戻ってきてもいい時間帯のはずです。


 そもそも、ここは病院のはずなのになぜ人の気配がないのでしょう? 隔離病院だったとしてもさすがに職員ぐらいはいるはずです。しかしここから見えるロビーには電気が付いておらず、人影もありません。


 なんだか嫌な予感がしますね……



「ミリダ、車を3台ともすぐに出せる状態にして頂戴。それから負傷者はもう車の中に入っておいて」


「了解いたしました」



 私の言葉にミリダは車に駆け寄り、負傷者はまとまって車の中に入っていきます。それを見ながら私は病院のロビーにゆっくりと近づき、柱の裏側を丹念に調べていきます。


 私の予想が正しければ———このあたりに……



「お嬢様? 何かあったのですか?」


「……ミリダ、これを……」



 私が指さす先を確認したミリダが、横で息を呑んだのがやけにはっきりと聞こえます。


 黒い円筒状の火薬が真っ赤なテープでまとめられ、その先から色とりどりのコードが伸びるソレ———



「爆弾、よね。ミリダ、解体できたりする?」


「え、ええ。このタイプならコードを切るだけで無効化できると思います。この爆弾は見たところ有線起爆式で、別々の場所に取り付けられた爆弾が連動して炸裂するタイプだと思います。

 今すぐ中に入ったケーネ達を呼び戻せば、爆破される前に脱出できるかと」


「なら、私が走るわ。病院の構造は全て頭の中に入っているし、今から爆破される建物に待ち伏せする敵がいるとも思えない。

 ミリダはそのまま解体作業を進めて」



 私はミリダの返答を聞くよりも先に駆け出します。ロビーを抜けて中央の階段を駆け上がるころには息が切れ始めましたが、それでも私は足を懸命に動かします。


 通路を曲がろうとした瞬間、エレベーターの階数表示が視界の端で動きました。慌てて階数を確認すると、ちょうど私のいる階の一個上です。恐らくケーネ達が乗っているのでしょう。



「危ない、すれ違いになる所だった! ミリダ、今からそっちにケーネが向かうわ! 出発の準備を!」



 ここならギリギリ声が届くでしょう。そんな願いを込めつつ、私は来た道を逆走します。すでに息は絶え絶えで、心臓は破裂しそうなぐらい痛いですが構うものですか。


 階下ではミリダが工具を放り出し、車へと走っていくのが見えます。恐らく解体は……時間がなかったので、完了はしていないでしょうね。



「ケーネ、リリンフェルト! 早く車に乗って頂戴! すぐにここを離れるわよ!」



 エレベーターからストレッチャーを押しながら出てきた二人に、私は駆け寄りながら叫びます。さすがは二人、私のただならぬ状況に事態を察して何も言わずに車へと走ります。


 全員が乗り込み、車が急発進して距離をとった瞬間。


 ちょうど計ったように、まるで気まぐれな神が微笑んだかのように、避難が完了したその直後。


 轟音を立ててコンクリートが吹き飛び、瓦礫の雨を周囲にまき散らしながら病院が倒壊したのです。


 






昨日、ついに10万PVを突破しました。ありがとうございます!


投稿して一ヵ月ちょっと、六万字での達成が早いのか遅いのかはさておき、それだけ多くの皆様に読んでいただけた、ということが本当に嬉しいです。Thank you!


これからもエレナ姫の物語は続いていきますので、どうぞ応援よろしくお願いします!

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