お嬢様は全力で走ります
「それで、今私たちはどこに向かっているのかしら?」
「俺の昔のツテに当たるんだよ。とりあえず姫さんのその恰好は目立ちすぎるし、何より情報が欲しい。
それに、この一件が済んだらエスティアを助けてもらわなきゃならんからな」
大臣の邸宅を無事に脱出した私たちは、薄暗い路地や排水管の中を抜けながら帝都の中心に向かっていました。私にはどこをどう通っているのかさっぱりですが、リリンフェルトさんは狭い間をするすると抜けていきます。
……途中の下水管を通る時には、さすがの私も少しためらってしまいましたが。
「おそらくだけど、私の仲間はスティアー卿のところにいるはずよ。さっき渡した手紙で、そこに向かうように言っておいたの」
「ならなおのこと、この道を抜けるのが早い。そらっ!」
建物の陰から飛んでくる矢を叩き落しつつ、リリンフェルトさんは進んでいきます。牢で見た彼の酔眼はいつの間にか鋭い光を湛え、口元は獰猛に歪んでいます。
そう、例えるなら———野生の獣のような表情です。
「なかなかに過激なお友達のようだけれど? 出会い頭で攻撃されたりしないわよね? 私、自分で言うのもなんだけど戦闘力は皆無よ」
「その上がった息を見たら誰だってわかるさ。今は俺を信じて走ってくれ。あんまり喋ると、本当に息が切れちまうぞ?」
そうですね、今は彼に任せるしかないのでした。交渉事や政治は私の領分ですが、こういった荒事は他の人にお任せするしかないのです。
私の出番はここじゃない、そう言い聞かせながら私は懸命に走ります。それにしても、障害物を弾き飛ばしながら進んでいるはずなのに、全力疾走の私と同じ速度を保っているリリンフェルトさんは何者なのでしょう?
私は荒事に向いているわけではありませんが、それなりに運動は出来ると思うのです。性別の差を考えても、彼の動きが洗練されていて一般人とかけ離れていることは分かります。
「ここだ。姫さん、ここからは絶対に俺の真後ろにいてくれよ?」
「ええ、分かったわ」
狭い路地の突き当り、パッと見た感じ周りの建物と何も変わらない廃ビル。その階段を上りつつ、私は鼓動の高鳴りを押さえるのに必死でした。この肌を刺すような感覚は……間違いなく、身近に『危険』が潜んでるのです。
彼の言いつけを破って真後ろからずれれば、きっと命の保証はないのでしょう。
誰もいないビルの中を進んでいった先、一つのドアの前で一瞬立ち止まった彼。つられて私も立ち止まります。
「姫さんは、俺が良いと言うまでここから動くなよ。あ、それと頭を抱えてしゃがんでくれ」
「こう、かしら? これ以上はちょっと厳しいのだけれど」
「上出来だ。では、ご対面と行きますか!」
獰猛に笑ったリリンフェルトさんの右手が、ドアノブに掛り、ゆっくりと捻って———
瞬間、ちょうど頭の位置を何かが抜けていきました。
「———ッ!」
鈍い音を立てて背後の壁に突き刺さった『何か』を確認すると、それは鈍色に光る金属製の矢でした。コンクリートの壁に深々と突き刺さるほどの威力で射出されたのですから、もししゃがんでいなかったら———
そこまで考えてやっと震えだす身体を両手で抱きつつ、私は部屋の中に視線を滑らせます。
王宮の執務室ぐらいはありそうな広い室内に、あちこちにごちゃごちゃと置かれた電子機器やベット。それらの中央にはこれまた巨大な机と、その向こうに座っている男。恐らく、彼がこの部屋の主なのでしょう。
「久しぶりだな、リリンフェルト。荷物を抱えてここまで来るとは、まだ腕は鈍っちゃいなかったんだな」
「なあベック、いい加減、あの性格の悪いトラップを片づけないか? ここまで来るのが面倒なんだが」
「だから設置してんだよ。そんなことも分からんとは、やっぱりお前はバカだな」
「性格がねじ曲がってると、俺のような聖人君子でもそう見えるのか。参考になったぜ」
憎まれ口の応酬をする二人、ですが、その表情はどこかお互いを懐かしむ色が見え隠れしています。
ベック、と呼ばれた男が、リリンフェルトさんの目当ての人物なのでしょう。
最近、久々に『天才王女』のアクセス解析を眺めていたら、とっても嬉しいことに気が付きました。
すでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、第一話のユニークアクセスが投稿を始めてから3日を境に100人を超え続けているんです。つまり、それだけ多くの『新規読者さん』がこの物語に訪れてくださっているのですよ! すごくないですか!(自画自賛)
これからもできる限り毎日更新を続けていこうと思いますので、これからもよろしくお願いします!
なるべく、読者の皆様が身近な人やご友人に『ちょっと読んでみ?』と紹介したくなるような作品にしていこうと思いますので、至らないところや改善点などはいつでも感想などでご指摘くださいね!




