とある男の過去
「おまっ、本気でやるつもりなのか⁉︎」
「だから最初から言ってるじゃないか。僕はね、誰もが幸福に暮らせる世界を作りたいんだ」
帝国の最高学府———セイラン大学の食堂。卒業式終わりで閑散とした食堂で、タキシードに身を包んだ二人の青年とドレス姿の女性が話し合っていました。
「だが、この情勢下でメタナリア人の保護など危険分子と思われかねん。一友人として、俺はお前を止めたいんだが」
「ほら、そうやって貴方はすぐに否定から入る。リクルーゼくんだって、何か考えがあってのことなのでしょう?」
リクルーゼ、と呼ばれた赤毛の青年は、満面の笑みと力強く拳を宙に掲げながら答えます。
「具体的なことは何も考えてない! だから二人に集まってもらった!」
「バカやろう! エスティア、やっぱりこいつは掛け値なしのバカだ!」
「確かに……今回は私も、リリンフェルトに賛成かな……」
のちに帝国最大と評された『リクルーゼ総合人材派遣会社』の設立者、その三人の青年淑女は、こうして計画を練り始めたのでした。
「ほらみろ、やっぱり僕の見立ては正しかったんだ!」
リクルーゼ総合人材派遣会社の本社、その社長室で三人の男女が集まっていました。赤毛の男は喜色満面でお金を数え、黒髪の男は頭を抱えていました。
「どうしてこうなった……絶対失敗すると思ったのに……なんなら、こいつの再就職先だって探してたんだぞ⁉︎」
「という割には、リリンフェルトもがっつり手伝ってるじゃない。ま、私もだから大きなことは言えないんだけど」
「二人が手伝ってくれて、失敗することなんてあるわけないじゃないか! それよりも、二人は結婚おめでとう!」
「お、おう……まあそのなんだ……ありがとう」
「何を照れているのよ。今更そんな柄でもないでしょう?」
エスティアは手元の書類を整理しつつ、手に持った書類をリクルーゼに渡しましす。
「でも驚いたわ。ここまで人材派遣に需要があるとは思わなかった。これを狙ってやっているのなら大したものだと思うけれど」
「それはない。こいつ、昔から運だけは良かったんだ。今回だってまぐれに違いない」
「僕の最大の幸運は、リリンとエスティーと知り合えた事だね!」
能天気に話すリクルーゼに、二人は顔を見合わせた後に苦笑しました。口ではなんだかんだ言っても、親友の『お人よし』が世間の役に立った事が嬉しかったのです。自分たちが諦めた事を、親友が成した。その事に、どこか眩しいほどの憧れを感じつつ。
「リクルーゼを国家転覆の容疑、並びに雇用法違反、政治献金規正法違反によって連行する」
「は? 何かの冗談だろ……? おい、待ってくれよ……!」
本社の執務室に乗り込んできた数人の黒服、そのうちの一人が書面をリクルーゼに突きつけながら罪状を読み上げ、同時に屈強な男たちが彼の両腕を掴みます。
「なお、この会社には財務副大臣の監査が入る予定だ。これから明らかになる罪状も、あるやもしれんな?」
「横暴だ! 俺は何もしてない! 第一、政治家への献金って俺は政治家とは付き合いがないんだぞ」
「たわけ、貴様の学生時代からの親友は今なにをしている?」
勝ち誇ったように笑う黒服に、リクルーゼは青ざめます。リリンフェルトは今の財務大臣で、その妻であるエスティアは財務大臣の秘書でした。自分を逮捕しにきた彼らが親友の名を勝ち誇ったように言う……さすがの彼でも、ようやく黒服達の真意に気がつきました。
「お前ら……まさか、リリンたちを陥れるつもりか! しかも、この僕を使って!」
「さあ、どうだろうな? だが、今まで自分がしてきたことを思い返すといい。お前やその周りを恨んでいる、快く思っていない奴がいるってことぐらいはわかるだろう?」
「やってきたことのツケを払う、それは当たり前のことだぜ? なあ、今どんな気持ちだよ、『弱者の救済者』さん?」
リクルーゼが世間で賞賛されるときに使われた二つ名を、黒服の男たちは嘲るように吐き捨てます。その口調に、赤毛の男は首を折ったのでした。




