エピローグ:とある新聞社のインタビューより
エレナ・リ・アムネシア。
その名前は非常有名で、わざわざこの場で説明することは不要だろう。
小国だったナンコーク王国を大陸一の巨大連合王国へと押し上げ、その王都を交易の中心地として躍進させた名君。
あるいは大陸の最高学府たる王立高等学校の創始者にして学問の鬼才。
総合商社シャルロット商会を設立した商売の神。
彼女を称える文献は数多くあれど、その人となりについて語った書物はあまりに少ない。なので今回は、彼女を良く知る人物———元ナンコーク連合王国市長のサレン・リュ・アムネシア女王陛下にインタビューを行った。
*****
私「お忙しいところ、時間を空けていただきありがとうございます。サレン市長」
市長「いえいえ、歓迎いたしますよ。私の政約は『開かれた政治』なのですから」
私「そう言って頂けると助かります。今回は二代前の女王陛下———エレナ様についてお話を伺えたらな、と思っておりまして」
市長「祖母についてですか?」
私「ええ。そのお人柄などに迫れればと」
市長「そうですね……一言で言えば『寛容』でしょうか」
私「ほう、寛容ですか」
市長「はい。どんなことにも泰然と構えておられて、揺るぐことのない大木のような御方でした」
私「エレナ様というと、その美貌が有名ですが……」
市長「あ、外見は美しい方ですよ⁉ 齢を重ねてなお輝きを増すその姿は、小さかった私の憧れでしたから」
私「なるほど。エレナ様は『天才女王』の別名で親しまれていますが、そのあたりはどうだったのですか?」
市長「仰る通り、正真正銘の『天才』だったと思います。でも、皆さんが想像なさってる姿とは違うと思います」
私「と、仰いますと?」
市長「ほら、祖母を題材にした小説や舞台って『なんでも一人でこなす格好いい女性』として描くじゃないですか。でも、実際はそんなことなくて。ご自分よりも秀でた方がいたら、迷うことなく力を借りる方でしたよ」
私「言われて見れば確かに、エレナ様の周りにはシャルル商会のアンネ元会頭、軍閥の伝説たるドラン将軍の姿があったと聞きますね。そいいう各分野のプロフェッショナルに必要なことは回していたと?」
市長「ええ。何なら部下にどうやったら休暇を取ってもらえるかで悩まれて、わざわざロレンス王国のミーナ元王女の元へ相談しに行ったと聞きますから」
私「あの『最優の女王』と名高い御方にですか⁉ それは何というか、大胆な……」
市長「でもそれが、あの御方の最たる『武器』だったのかもしれませんね。私も為政者として、そうありたいと思っております」
私「なるほど……今日は貴重なお話、ありがとうございました。新市長となられてお忙しいでしょうが、頑張ってください」
市長「ありがとうございます」
■ ■ ■ ■ ■
インタビュアー:王国新聞社 社会部主任 イスタ・セルルーゼ
どうも、Pastです。
これにて『天才王女は、悪役令嬢ポジションをご所望です!』は完結です。
最初は自身の立場に苦悩し、悪役令嬢の立場を望んだエレナ。しかし周りの人や環境に翻弄されるうち、次第に変わるお話となりました。彼女の残したものは大きく、これからもお話は続いていきます。ですがあくまで『天才王女』はエレナのお話ですからね。これ以上は蛇足でしょう。
本作を初投稿したのは4月15日ですので、ちょうど半年が経ったことになります。総和数189話、字数にして30万字近く。
最初はここまで続けるつもりはありませんでした。どこかで申し上げたかもしれませんが、本作は10万字ほどで完結する短いお話だったのです。
それをここまで続けてきたのは、間違いなく皆様の応援があったからこそです。長らくジャンル別のランキング1位に輝き続けたことが、何度折れそうになる心を支えてくれたことか分かりません。
もちろん数字を、評価を頂いたことがすべてではありません。皆様から頂いた感想をふと読み返すたびに『さあ、次も面白いお話を書こう』と思えたのですから。エレナが周りの人に支えられながら幸せになったように、私は読者の皆様に支えられて幸せになれたのです。
本当に、本当にありがとうございました!
またどこか、『小説家になろう』という大きな海で皆様と再会することが出来れば……そんな願いを込めつつ。
晴れた秋空の下より Past




