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番外編:とある天才商人の恋路⑧

「業務提携? ウチと、アンナ商会が?」


「ええ。正確には『アンナ商会のトレスと、シャルル商会のアンネが』ですけどね」


「つまり、個人間で業務提携をしたいということ? 私は別に構わないけれど、そこに何のメリットが……」



 確かに個人間で提携をすれば、内々に事を運ぶことが出来るというメリットがあります。ですが今回に限って言えば内密に提携する必要はなく、むしろ業績上位の二社が提携したということを大々的に公表したほうが宣伝効果は高いように思うのですが……


 そんな内心の疑念を察したのか、プレストはああ、と言って説明を始めます。



「我がロレンス王国の商会は今まで、連合を作って共同体としての利益を追求する仕組みに慣れ親しんできました。そこに、シャルル商会という巨大な一枚岩が参入して来れば———」


「いらぬ反感を買う、ということかしら?」



 その通りです、と彼は頷く。



「アンナ商会はここと同じく自社の利益を追求する社風でここまでやって来ましたが、それですら同業者たちからは反感を買っています。私が元王子という立場なので表立った対立はありませんが、嫌がらせの類はよく受けますよ」



 うーん、それは初耳でした。ナンコークでは妬み嫉みによる嫌がらせはあっても、経営方針の違いによって対立何て言うのはピンとこないですね。


 でも、彼の言わんとすることも分かります。ウチだって余計な厄介事には巻き込まれたくないですし、そういう事なら彼の誘いに乗るとしましょう。



「いいわ、では私と貴方の間で提携するとしましょう。でも、効力は商会間のものと同じと考えていいのよね?」


「ええ、それはもちろん。こちらが契約書になります」



 差し出された書類にサインをしながら、私はプレストに一つ質問を投げかけます。



「……で、貴方の本当の目的は何かしら? 内容に異存はないからこうしてサインはするけれど、まだ何か隠していることがあるでしょう?」


「なぜ、そう思われるので?」


「女の勘よ。理屈じゃない部分が『何かある』って私に言っているの」



 予想外の返しだったのでしょうか、プレストはわずかに虚を突かれたような表情になります。


 しかし、それも一瞬の事。すぐにいつもの笑みを浮かべて口を開きました。



「……二年前、私が貴女に行ったことを覚えていますか?」


「確か、ふざけた縁談を申し込まれたわね。それが?」


「あれからよく考えました。自慢ではありませんが、女性からああして面と向かって罵倒されたことは初めてでしたので……

 自分に足りていない部分は何なのか、何が貴女の逆鱗に触れてしまったのか。よく考え、少しずつ直した結果がこの二年間なのです」


「……だから、まずは私に釣りあう男になろうと?」


「はい。……失望なさいましたか? 商談にかこつけて、またこうして貴女の元へ足を運んだ私に」



 プレストの声に交じる、確かな震え。ほんの微かなもので、並の者なら聞き逃してしまうだろうな、そんな震えが。


 でも、私が決めていた答えは変わりません。



「失望はしないわ。ただ、バカな人だなって思うだけよ」


「アンネさん……」


「勘違いしないで欲しいのだけど、別に貴方を嫌っているわけじゃないわ。特に、こうして実績をぶら下げて戻ってきたことには好感を覚えるわ。

 でも、まだ足りないわね。貴方が好きな私は、そんなに安い女かしら?」



 私の答えに、プレストの眉が跳ねました。



「……いえ……いえ……!」


「もっと精進なさい。もっと大きくなって、本当に私と肩を並べるだけの存在になったのなら———


 その時は、貴方の申し込みを考えてあげる」



 


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