番外編:とある天才商人の恋路⑦
「二年ぶりにこの国を訪れましたが、相変わらず豊かで活気がありますね」
席につき、使用人が注いでくれた紅茶に口を付けるのはプレストです。
「二年前に感じた成長の萌芽を、未だに感じられるとは。それだけ物や人が集まり、どんどん発展しているのでしょうね。それもこれも、王女殿下の政治が良いからでしょうか」
「ええ、まあ。我々平民にも益のある政策が多いのでその効果かもしれませんね」
プレストの対面に座る私も、彼に倣って紅茶に口を付けます。
うん、さすがですね。ミリダの元へ修行に行かせただけあって、色あいも風味も完璧です。取り寄せた北方のお菓子と合いますね。
「それで、今日は商談の申し込みでしたね。それはシャルル商会と、ロレンス王国とのものですか? それとも———アンナ商会とのものでしょうか?」
一歩、踏み込んだ質問を投げかけます。
同時に生じた、僅かな間隙。その確かな間でプレストの顔に浮かんだのは、明らかな動揺でした。
「アンナ商会、ですか……私も名前ぐらいは耳にしたことがございますが、確か会頭の名前はトレスというはずでは? 私の名前はプレストですよ?」
「ですから、そのトレス氏が貴方だと言っているのです。ロレンス王国元王子、プレスト・ロレンスそのものだと」
私の言葉に、プレストはふっと笑って表情から動揺を消し去りました。
次に浮かんでいたのは、心からの笑み。悪だくみが成功した時の子供のような、そんな無邪気な微笑でした。
「さすがですね。ちなみにソースは教えていただけるのですか?」
「まさか。情報源の秘匿はこの業界での常識ではありませんか」
「これはこれは。幾分まだ商人という身分には慣れておりませんで、暗黙の了解などを知らないのです」
そう言いながら優雅に紅茶を一口飲むプレスト。口ではああ言っていますが、あれだけの成果を残す商会を率いる人物がそんなことも知らないわけがありません。
まったく、食えない男ですね。
「お見事です。本当はこの場で正体を明かして驚かせるつもりだったのですが……まさか独力でたどりついてしまうとは」
「お褒めにあずかり恐縮よ。では、今日の会談は対アンナ商会のものと認識しても?」
「いえいえ、私一個人を相手にしていると思ってくださると幸いです」
あら、これは予想外ですね。てっきりウチとアンナ商会の間で生じている利害を、この会談でもって調整しに来たのかと思っていたのですが……
彼の思惑が分かりません。でも、だからこそ心が浮き立ってしまいます。
さあ、次は何を言ってくれるのかしら? どんな手を打ってくれるのかしら?
そんな内心の昂揚を表情の裏に隠しつつ、私は次なる彼の言葉を待つのでした。
どうやらアンネちゃんは自分と対等に話せる男性をご所望だったようですね。番外編のサブタイトルを考えるなら、『天才商人は良きライバルをご所望です!』といったところでしょうか……
話は大きく変わりますが、明日明後日の台風には気を付けてくださいね! 万全の対策をして、危ないと思ったら外出は控えるようにしましょう!(一応、注意喚起をば)




