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番外編:とある天才商人の恋路⑥

「なるほど、そういうことだったのね……やってくれるじゃない」



 ミリダから貰った資料と、補足で貰ったロレンス王国内の資金の動きに関する資料。その二つを突き合わせて格闘すること三日。やっと相手の正体を掴んだ私は思わず笑みを浮かべていました。


 いつ以来でしょう、こんなにも心が浮き立ってしまうのは。



「お嬢、お嬢! やっと分かりましたぞ!」



 好々爺らしからぬ声を上げながら部屋に入ってくるマルクスさん。やっぱり、貴方も気付いたのですね。



「マルクスさん、落ち着いて。アンナ商会のトップが誰かって話でしょ?」



 アンナ商会———私が三日もかけてやっと正体を暴いた商会の名を口にすると、マルクスさんはその表情を悔しそうに歪めました。



「しまった、お嬢に先を越されてしまったとは……こりゃ、引退の日も近いですかな」


「何を言っているの。私はエレナちゃんとミリダから十分な情報を貰ったから推理できただけで、断片的な情報から正体を暴いたマルクスさんの力量は確かなものよ」


「とは言っても、情報部の若造たちと『お嬢の驚いた顔が見られる』と期待して頑張っておったのです。その落胆は、お嬢には分かりますまい……」



 あと数分早く部屋に入ってくれば、そんな表情を見られたかもしれませんけどね。後悔先に立たず、というやつです。



「じゃあ、答え合わせと行きましょうか。マルクスさんが掴んだ相手の正体は?」


「……ロレンス王国の元王子、プレスト氏ですな」



 予想通りの回答に、推理が外れていなかったことにほっとします。情報部の精鋭とマルクスさん、そして私が同じ結論を出したのですから、これでほとんど確定でしょう。



「マルクスさんたちはどうやって黒幕を暴いたの?」



 私の問いかけに、よくぞ聞いてくれた! と言いたげなマルクスさん。



「まず、ここ数年で躍進した商会を洗い出しまして。そこまではスムーズにいったんですが、名義が全部バラバラでして……」


「でも、資金の流れから一つの商会が複数の小さな商会を率いていることに気が付いた、と」


「その通りです。トップにいたのはアンナ商会という新参の商会でした。そこの会頭はトレスという名前で登録されていて、その人物を調べようと思ったんです。ですが、それが厳しくて———」


 

 それはそうでしょう。ミリダたちでもトレス、なんて人物の情報は持っていなかったのですから。


 だとすれば、考えられる合理的な理由は———



「で、ワシらもようやくそいつが偽名だということに気付いたんですわ。あとはその男の人となりを地道に聞いて、合致する人物は元王子しかいないだろうと」


「最高よ。あとは暗躍してる元王子を問い詰めるだけなのだけれど……これを見て頂戴」


「これは……商談の、誘いですかな?」


「ええ、トレスという人物から私あてに送られてきたものよ。性懲りもなく私の前に顔を出すんですって」



 ああ、楽しみです。わずか二年でウチとやりあうだけの商会を築いた彼が、その口で何と言うのか。



(なんにせよ、売られたケンカは買うまでです。受けて立ちましょう)



 私は不敵な笑みを浮かべたことに気付かぬまま、来たる再開の日を待ち望むのでした。

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