稀代の嘘つきは、嘘をつきたくないと言いました
「うそ……」
きっと、これは幻聴よ。私の願いが生み出した、錯覚に過ぎないの。
そんな私の戒めを、しかし彼の声が打ちぶっていきます。
「嘘じゃねえよ。俺はちゃんと生きてるし、もう傷もだいぶ癒えてきたってところだ」
「なんで、なんで……!」
「まぁ、死にかけたのは本当のことだからな。エレナに俺が死んだって伝わってるみたいだったから、卿とレーナ様には一芝居打ってもらったってわけさ。
俺の嘘を、許してくれるか……?」
打って変わって、震える声色。ケーネが私に嘘をついたのは初めてのことで、それも重大すぎる嘘で。
でも、そんなことはどうだっていいのです。だって……!
「貴方が、生きていてくれたということ以外に何を望めばいいのかしら……!」
飛び上がるように立ち上がり、ベッドに横たわるままのケーネに抱きつきます。全身で感じる体温に、確かに鼓動を打つ心音に、どうしようもなく心臓が跳ねて抑えられません。
ケーネが、ケーネが……生きていたのですから!
「私がっ……どれだけ心配したか、分かってるのっ⁉」
「ああ、知ってるさ。ありがとうな、俺のためにそこまで心を割いてくれて」
「当たり前じゃない……! 私は、私はっ———」
貴方のことを愛しているから、と続けようとした私の唇を、そっとケーネが指で押さえます。唐突な接触に赤面する私に、ケーネは姿勢を正して微笑みながら口を開きました。
「今まで俺は、エレナの秘書だってことを当たり前だと思ってたんだ。一緒に仕事をして、バカなことを言っては窘められて、毎朝寝起きの悪いエレナを起こすのが俺にとっての『日常』だったんだ。
でも、死にかけて分かったんだ。その当たり前を、心の底から楽しんでいたことに」
「ケーネ……」
「これからもずっと、エレナの秘書でいたい。エレナの側で同じものを見て、同じ時間を過ごして、喜びも悲しみも共有したいんだ。他の誰でもない、エレナの隣で」
ケーネはそこで言葉を切り、ベッドから降りて私の手を取って膝をつく。
まるで騎士のようなその姿に、彼らしい真っすぐな瞳を添えて。
「エレナ、貴女のことが好きだ」
短い、飾り気のない言葉。
でも、彼らしい『愛の告白』。たった十数字の言葉に、否応なく意識が絡めとられていきます。
「俺は、貴族じゃない。エレナに拾ってもらうまでは、ただの貧民街に住んでるガキだったんだ。だから、エレナのパートナーとしては相応しくないと思うし、王国史にも元浮浪児と王女が結婚したなんて記録はなかった。だから、多分これからも迷惑をかけると思うんだ。
でも、この気持ちに嘘はつきたくない。エレナを悲しませる嘘をついた俺だけど、この気持ちだけは偽りたくないから———これからの人生を、俺と歩んでください」
それを聞いた瞬間に、体中の血が沸騰してしまうんじゃないかと思うぐらいの高ぶりが全身を襲いました。
ケーネが、私のことを愛してくれる。
私の愛する人が、私のことを『好き』だと言ってくれる。
たったそれだけのことなのに、とめどなく幸せが溢れてくる。今この瞬間なら、何にでもなれるんじゃないかっていうぐらい心が軽いのです。こんな気持ち、もう一生味わうことは出来ないでしょう。
だから私は、まだ跪いているケーネを立たせて彼の身体にそっと自分の身体を這わせました。
「こちらこそ、ケーネと一緒に歳を重ねたいわ。貴方が辛い時には私が支えたいし、私がくじけそうな時には貴方に支えてほしいの。
だから、その……好きです。ケーネのことを、私は愛しているのです……!」
私の言葉に、ケーネの顔がゆっくりと近づいてくる。真っ赤な、茹りそうな見たことのない表情で。
でも、きっと私の表情も同じだから。泣きはらした目元は熱くて、でもそれ以上に耳や頬が燃えるようで。
そうして私たちは、ゆっくりと口づけを交わしました。
良かったね、お二人とも!(拍手)
もう少しお話は続きます。一応予定では番外編と申し上げますか、そのようなものを完結後に予定しているのですが『読みたいよ!』という方はいらっしゃいますか? 蛇足になると嫌なので、何らかの方法でお伝え願えると幸いです。希望がございましたら本編の後ろにくっつけるで投稿したいと思います。
それでは、もう少しお付き合いくださいませ!




