天才王女は人の恋路に気付きます
それから数日後、私はミリダを連れてスティアー領へ向いました。政務の方はお父様とアルカルトに任せてしまう形になってしまいましたが、どうしても行っておきたかったのです。
現在、領内にはお母様が率いる王国軍が滞在中。彼らの帰還と共に、私も帰る予定です。
「お待ちしておりました、王女殿下」
領館の前で出迎えてくれたのは、卿の側付きであるアリナさんです。
「お久しぶりね。卿のご容体は?」
「すっかり元気になりました。今は執務にも復帰なさっております」
「それは良かった……!」
今の帝国の経済状況では、スティアー領が支援を打ち切れば遠くないうちに干上がるでしょう。それだけスティアー卿の影響力とは大きいものなのです。
アリナさんの先導で、私たちは館内を進みます。
「今、お母様や兵たちはいずこに?」
「レーナ様、ドラン将軍はこれから向かうお部屋で待機なされておりますよ。王国兵の方々は広間にて」
「会うのが楽しみだわ……みんな、元気にしていたかしら……」
「ええ、王女殿下がいらっしゃると聞いてからは特に。ドラン将軍、変わられましたよね?」
アリナさんの思わぬ問いかけに顔を見返すと、彼女は何故か苦笑を浮かべていました。
「前に一度お会いした将軍は、巌のような表情をなさる御方でした。凄みはありましたが、どこか生きることに投げやりな感じがして寂しかったものです。ですが今は、大切な誰かを守りたいという強い意志を感じる男性になっておりましたわ。何があの御方を変えたのでしょうね?」
「分からないわ。男性って、ふとしたことですぐに変わるじゃない。アリナさん、貴女にもご経験はないかしら?」
「確かに、些細なきっかけで驚くような変化をなさいますね……本当に、不思議なものです」
ケーネだって、ミリダや私と同じ場所に立ちたいという理由で化けたものね。私たちからすればそんなことを気に掛けるの⁉ という気もするけれど、そこが男性の格好いいところでもあるのよね。ふとした時に、今までと違う彼に目を惹かれるというか。
私が彼のことを気になり始めたのも、ちょうどその頃でしたし。
「今回のことで、卿も変わられましたよ。倒れられて、ご自分のせいで様々な人に迷惑をかけてしまった……と。
……本当に、困った御方です」
言いながら、どこか遠くを見つめるアリナさん。
そう、彼女も恋をしたのね。身近な誰かが、そうでなくなった瞬間に。
「さあ、到着いたしました。……先ほどのお話、スティアー様には内緒にしておいてくださると助かります」
「分かっているわ。ありがとう」
さあ、久しぶりのお母様との対面です。




