交渉後のひととき
「……てっきりお嬢様は、あの女を生かして帰すつもりはないと思っておりました。どういった心境の変化ですか?」
スニリア外交官との会談の後、執務室でくつろぐ私にミリダが紅茶を出してくれます。さっきまでとは風味が違いますね。私の好きな、王国産の茶葉を使っているようです。
「あらミリダ、私があの場で彼女の首を撥ねるとでも? 私はお母様みたいに、そんな攻撃的な性格ではないつもりよ?」
「お戯れを。あの時のお嬢様からは確かに、とてつもない殺気を感じましたよ。それこそ、レーナ様に引けを取らないほどの殺気を」
「私はただ、彼女にケーネの死を軽んじてほしくなかっただけよ。……そんなに怖かった、私?」
「ええ、とても。侍女の一人は部屋から出るなり泣いておりましたよ」
そんなにですか……自分では感情を抑えていたつもりなのですけど、難しいものですね。
結果的に聞きたいことを聞けたのは良いことですが、それで侍女たちを怖がらせてしまうようでは本末転倒です。気を付けなければなりません。
「ですが、本当にあの女は左遷されるのでしょうか? 見た所優秀かつ狡猾な女のようでしたし、うまく立ち回って責任から逃れるような気も致しますが……」
「大丈夫よ、既に手は打ってあるわ」
足元の引き出しから一枚の書類を抜き出し、ミリダに差し出します。そこには彼女の口座から流れる資金の動きが詳細に記されていました。
「アルカルトに調べてもらったんだけど、彼女自身は表向きはただの外交官だから給料はそんなに高くないのよ。裏でやっている帝国諜報機関の局長も、それほど高給が貰える職ではないわ。
そんな彼女が、半ば非合法なことをできたのは何故か———」
「———資金力、ですか」
「ええ、その通り。しかも、着服と横領で肥やした私財の、ね」
私も政務に関わって初めて気付いたことですが、部下を持ちながら仕事をするというのはかなりの資金を必要とすることなのです。王家が民から税を徴収するのも、働いてくれている官吏たちに給金を支払うためでもあるのですから。
それを個人の資産で賄おうとするなら、アンネのように巨大な商会のトップに立つしかありません。一官吏が個人的にできる規模の話ではないのです。
「その書類を、帝国の議会に匿名で送り付けたのよ。彼女のポジション的に追い落としたい勢力は相当数いるだろうし、近いうちに失脚するんじゃない?」
もしあの場所で、ケーネに対して謝罪の言葉でもあればここまですることはなかったでしょう。けれど、彼女は謝ることをしなかった。『自分は悪くない』と、そう私に言ったのです。
ケーネを愛している、この私に。
「さあ、交渉も上手く行ったことだし少し休憩しましょう。スニリア外交官がスティアー領に着けばお母様たちも帰ってこれるでしょうし、そうなれば今度はスティアー卿との会談が待っているわ」
「そうですね、では私も休憩を取ると致します」




