天才王女は決断します
再び私とスニリアの間に流れる沈黙。しかしその沈黙は、意外とあっさり打ち破られたのでした。
「……いいでしょう。王女殿下は今回の件、全てご存知のようですし」
ため息とともに告げられる承諾の声。強欲すぎると突っぱねられてもおかしくない要求を帝国側が飲んだことに、私も侍女たちも胸をそっと撫でおろします。
ミリダがすかさず私たちの前に先ほどの取り決めが書かれた書類を差し出し、揃ってサインをします。
「しかし王女殿下は良く調べておいでですね。帝国の内情やかの領地のことまで……よほど優秀な諜報員を雇い入れたのですか?」
「ええ、まあ。私は大した能力のない女ですが、私の部下は違います。随分と助けられて……本当に、感謝しています」
今回の交渉がこうして纏まったのだって、アルカルトとミリダが指揮を執りながら諜報部の面々が頑張ってくれたからです。的確にスニリアの弱点———今回なら、お母様との調印を無視して領内に攻め入ったこと、その領主を暗殺しようとしてケーネを殺したこと———を調べ上げてくれたから優位に立てたのです。
そして、その隙を作ってくれたのはお母様率いる王国軍のみんな。文字通り命を張って、王国のために動いてくれたのです。
愛する彼の死を無駄にしたくない、そんな想いもあります。けれど同時に、私を信じて支えてくれる人に報いたいという思いもあるのです。
「……そこが王女殿下の強みでしたか」
「はい?」
ぽつりと漏らしたらしいスニリアの本音に、私は聞こえないふり。今の言葉が本音か建前か———本音だと、いいのですけどね。
「いいえ、何でもありませんよ。さて、これで帝国と貴国の和平交渉は終わりですね」
「ええ。ささやかですが昼食のご用意をしておりますが、いかがいたしますか?」
「そうですね……魅力的なお誘いではありますが、今回は辞退させていただきます。何分この情勢下、私のような外交官にも仕事が山積しておりまして」
「かしこまりました。表に馬車を用意させますので、しばしこちらでお待ちください」
私の言葉にそっと侍女が一人、部屋から出ていく。入れ替わるように紅茶のおかわりが私たちの前に差し出され、私たちは揃って口を付けた。
ここらへんで、聞いておきますか。どうしても、彼女の口から聞かなければならないことを。
「スニリア外交官、一つ、私から質問をしても?」
「ええ、何なりと。あくまで答えられる範囲で、お願いしたいですが……」
「そんな難しい質問じゃありませんわ。———スティアー卿の領館で、私の秘書は命を落としました。それは、貴女の命令がきっかけですか?」
「……っ!」
優雅な仕草で紅茶を飲んでいたスニリアの表情から、血の気が引いていくのが分かります。後ろに控えているミリダからは動揺が、壁際に並ぶ侍女たちからは怯えが伝わってきます。
でも、私は聞かねばなりません。そうしないと、私の気が治まらないのです。
「……弁明させていただきたいのですが、よろしいですか?」
「ええ、受け入れましょう」
「……あれは不幸な事故だったのです。功を焦った部下の一人が暴走し、卿の暗殺をならず者に指示した———決して、私の本意ではありません」
「だから、貴女には責任がないと?」
「ひっ⁉ そ、そうは申しておりません。本国に帰れば恐らく左遷でしょうし、生きてここを出られるかは王女殿下の御差配にかかっているのですから……」
なるほど、それが答えですか。潮時ですね。
ゆっくりと立ち上がり、眼前の女を一瞥。そして———




