慟哭の涙
何を、何を言っているのか分からないわ。
リダの報告が頭に入ってこない。確かに耳には届いているのに、どうしても頭の中へと入ってこないの。
「……ケーネが、どうしたって……?」
「ですから、死んだのです。スティアー卿をかばって、その身にナイフを受けたことで」
私の問いかけにリダは一瞬表情を歪め、しかし毅然とそう告げます。普段は冷静な彼が一瞬みせた表情———悔しさと哀しみがないまぜになったような表情が、私に否応なく突き刺さります。
足元がふわふわと揺れる感覚。不安定なつり橋を、たった一人で渡らされているようなそんな不安。
「……その情報、確度はどのぐらいなの」
「ほぼ確定情報です。複数人の証言が得られましたので……」
「なんで、なぜなの? だって、ケーネは無事に領館へたどり着いたのでしょう? 彼に『スティアー卿を守れ』なんて指示、私は出していないもの。ねえ、多分その報告は間違って———」
「いえ、恐れながら事実でしょう。……ケーネさんの人柄を良く知るお嬢様なら、お分かりになると思います」
必死に報告の綾を探そうとする私を、リダの一言が貫いて縫い留めます。ケーネの人柄……彼なら、目の前で凶刃に倒れそうな人がいたら……
なおも反論しようとして、しかし言葉が喉でつっかえて嗚咽に変わって。どうしようもない吐き気と共に襲い来る身体の震えを我慢できなくて、私は思わず地面にへたり込みました。
「お嬢様⁉ しっかりなさってください」
私を案じるリダの声がやけに遠く聞こえます。血の気が一気に引いていく音が脳内を支配して、それ以外の音がどんどん遠ざかっていきます。
ケーネは、かれは……
「こんなの、あんまりだわ……」
「……お嬢様……」
「私を残していくなんて、そんなこと許した覚えはないわ! だってそうでしょう、これからの未来に貴方がいないなんて認められるわけないじゃない!
なんで、どうして私を置いていくの……」
ひりつく喉から彼の名を絞り出した瞬間、我慢していた涙が溢れて膝に落ちます。薄布のドレスが瞬く間に濡れぼそり、肌に張り付いて嫌な感覚を与えてもなお止まることのない涙。
もうあの笑顔を、憎まれ口を、恥ずかしがった笑顔を見ることが出来ないのだと思うたびに胸の奥がギュッと締め付けられる。そのまま肺が潰れてしまうんじゃないかと思うほどに激しく、強く。
「……あ、ああ、ああああああああ!」
激情のまま叫び続け、私はいつしか床に倒れた。




